第26話 またね
翌朝、母のメールで尚也はまだ実家にいるという情報をもらった。よし! 行こう。尚也の写真をカバンに入れて尚也にメールする。『今日会いに行きます』とだけ。
朝食の時に城太郎にいろいろ端折ったけれど、幼馴染に告白されてそのまま返事をしてないから言ってくると言った。
「電話じゃあダメなの? 」
「うん。ダメって言われてる」
「俺もついて行こうかな〜」
「え?」
いや、尚也に会うのはまずいよ。城太郎に似てるっていうことも言ってないし……あのことも話題に出たら困るよ。
「でも、バイトなんだよなあ。急ぐんだよな?」
「うん。帰ちゃうと遠くなるし、葵も帰って来ちゃうでしょ?」
「だよなあ」
「だから今日行ってきます」
「うーん」
城太郎はまだ納得してないけれど、行くなら今しかない。葵がいなくて尚也が実家にいる今がチャンス。
城太郎と同じ時刻に家を出ると駅に向かう。城太郎はバイト先へ。荷物は泊まらないから軽いし送ってもらう必要がない。
「じゃあ、行くね」
「遥、大丈夫か?」
すぐに返事をしてないから心配なんだろう。まさか城太郎に似てるなんて言えないよ。そして、初めてしたことも。
「大丈夫!! もう自信もって言えるよ。好きなのは城太郎だったんだから」
「なんでわからなかったのかが、わかんないけど、まあいいや。絶対手を出させるなよ!!」
「うん」
ああ、もうすでに出されちゃってるんだけど……。
「じゃあ、気をつけてな。晩ご飯作って待ってるから」
「うん」
うう、可愛い。なんて言ってる場合じゃない。
『わかった。昼にいつものファミレスで』とあまりにも簡単な尚也のメールに戸惑いを覚える。
電車の中で考える。なんと切り出そうかとか……いろいろ考え過ぎて、もうわけがわからなくなった頃、懐かしい、そして、つい最近も帰ってきたばかりの駅に着く。時間を見てそのままファミレスへと向かう。ちょうどお昼の時間。
ファミレスの中に入り中を見渡す。尚也はすぐ見える席に座っていた。
尚也の元に行く。
「よお」
ぎこちない尚也の挨拶。
「ん」
何にも言えない私。
とにかく尚也の目の前に座る。メニューを見るフリして尚也の様子を見る。尚也はジッと私を見ている。のんきにランチってわけにはいかなさそう。尚也に言うしかないか。
「あの、あのね。尚也、その……」
「ごめん」
「ごめん」
「え?」
なんで尚也が謝るの? 尚也は頭を下げている。尚也の前にはドリンクしかない。ずっと私が来るのを待っていたんだろうか。ドリンクの氷は小さくなっている。
「尚也? なんで尚也が謝るの?」
「遥が好きなのってジョウタロウだろ?」
「え?」
尚也には一言も伝えていない。なんでわかったの? 私は私の気持ちに気づいてなかったのに……あ……もしかして……。
「尚也。その、あの時に私……尚也と城太郎を間違えてたんじゃ……」
そ、そんなまさかね。それじゃあ、酔わせてって話になるよね。
「だから、ごめん」
「え! ちょっとそれはないんじゃない? 私のー」
真昼間のファミレスの中でいくら声を落としたってこれ以上は言えないよお。
「いや、その前までは好きだよとか言ってたんだ。だから、誰かと間違えてるなんて思わなくて、その、遥の中にいる時にその言われたんだよね。そいつの名前」
「えー」
えー。だよ。もうすでに後だったということ? えー。
「俺がいけなかったんだ。まさか誰かと間違えてるって思わなくて。だから、その途中というか……」
「え? してないの? あ、ってあんまり関係ないか……」
今さらだよね。
「遥次の日に覚えてなかったみたいだし。本当か確かめる為にあの時、遥に聞いたんだけど、なんかイマイチわかってそうじゃないし。ってか俺としたって取り乱さないし、まだチャンスはあるのかと期待してたんだけど……まあ。ダメだったかあ」
「尚也……ひどい」
返事を先延ばしにしてた私も悪いんだけどね。だけど、私のおー!!
「だから、ごめん」
「そればっかり」
「俺も辛かったんだぞ。間違われてるって気づいて。やることやった後だし、なんか襲ったみたいになってるし」
「それ、襲ったって言ってもいいぐらいなんだけど」
「ごめん」
「もういいよ。うん。私も悪いし」
もういいや。あの時城太郎といるんだと思ったのは自分だし。酔わせたのは尚也だけど。
「しかし、本当に気づくの遅くないか?」
「う、うるさい! 尚也も遅かったクセに!」
「あ、本当だなあ」
尚也は覚悟していたんだろう。夏休みの始めのあの時から。いや、もっと前から私の返事がわかっていたんだ。ただ相手が途中で変わっただけで。だから、開き直ってしまえるんだろう。
私はあの夜のショックから少し立ち直れないでいるけど。
なんとかいつもの私達でいられた。少し、ううん。かなり安心した。尚也との関係がこれで壊れるんじゃないかと不安だったから。それがあったのかもしれない。返事ができなかった理由の中に。あとは城太郎と似ている事もだろうな。きっと私のタイプなんだろう。尚也と城太郎が。……あれ? じゃあなんで葵なのかもと思ったんだろう。うーん。わからない。私って……なんだかなあ。
尚也とランチを食べてこうして一緒に歩いて家に帰るなんて思ってもみなかった。尚也とどう話をするかいろいろ考えていたけれど、どれもいいものじゃあなかったのに。結果は前と同じ幼馴染になれた。多分ね。そりゃ引きずってるけどね。引きずるよ。記憶がほとんどないからこれくらいで済んでいるのかも。
「じゃあ、またな。冬休みに」
「うん。またね」
またねで別れることが出来た。良かった。
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