第9話 答えなんて
卒業式当日。
風邪はすっかり治っていた。そして快晴。桜の花は満開とは言えないものの7分咲き。綺麗な花で卒業式を彩ってくれている。が、私の心は曇ったまま。尚也になんて言えばいいのか自分の心がわからない。尚也のことどうこう言えないね。
尚也とは違うクラス。朝も別々に登校した。この後にこのままでってわけにはいかないよね。
全てが終わった。尚也のことで心の晴れない私は友達達のようには涙を流せない。もうみんな離れ離れになるのに。
「遥! 冷たい! 」
泣いてる友達はまるで酔っ払いのよう。そして私はそれに絡まれてる店員のよう。何とかなだめてまわる。
そして、別れの時。門から送り出された。そこに集まる生徒達。それぞれもうこの後を予定している者、今誘ったり誘われたりしてる者。もちろん最後の馬鹿騒ぎの予定である。高校最後の馬鹿騒ぎ。
「遥」
尚也にとうとう見つかる。
「遥、明日は空いてる? 」
「あー、うん」
荷物がとか、いろいろ言い訳を考えたけど思いつかなかった。てっきりこの後からだと思ってたから。それなら後でもう参加者はいないかと品定めしてる友達が主催する馬鹿騒ぎが待っていた。だから言い訳の必要がなかったけど、考えてみれば尚也も誘われてるよね。この後。
「じゃあ、明日朝、迎えに行くから待ってて」
「あ、うん」
こればっかりじゃない。私ってば。
その後盛り上がる友達に押されて最後まで参加して、家に帰ったら怒られた。今、私を叱りつけてる父は知っているのかな? 葵君ともう一人の同居人のこと。まあ、今さらな時期だし、母は乗り気なんだから父に確認するのはまあいいや。
次の日……時間を聞いておけば良かった。朝って一括りにいっても何時なの? 遅くなった就寝時間にも関わらず高校時代と同じ時間に起きて身支度をして待っていた。尚也の来る時間がわからないから。いくらなんでもそんなに早くないと思ったら十一時だった。朝って言わない!! 昼前って言うよこれは。
玄関を出て尚也を見て納得。尚也、寝てないね。私ですらあんなに遅かったんだ。男の尚也なら一晩中付き合わされてもおかしくない。というか、付き合わされてたね。
「ふふ、尚也寝てないでしょ? 」
「わかる? もう明人の奴がしつこくって」
「時間も時間だしご飯にしようか? 」
実は何をするのか不安だった。とりあえずご飯食べて様子を見たい。
「あー。そうだな」
「お母さん! 尚也とお昼を食べて来るから!」
私は後ろを振り返り家のリビングにいる母にそう告げた。
「はーい」
ご機嫌な母の返事がかえってきた。
「じゃあ、行こっか」
昨日のお互いの振り回された話で、なんとか普通の会話を続ける私達。どうしたらいいんだろうか。私はどうしたいんだろう?
お昼を近くのお店で食べる。手頃な価格でドリンクバー付きファミレス。
食べ終わった頃に尚也が真剣な眼差しに変わる。そろそろ限界だね。
「遥……まだ無理かな? 」
「尚也、その、うーん。ごめん。まだよくわからない。でも、こうして会うのも……」
「明日、朝に遥を送りに行くよ。例えどっちでも」
どっちでも……どっちか決めないといけないんだよね。
「あ、遥!」
「え?」
「どっちかでなくてもいいよ」
「へ?」
「決められなくてもいいよ。俺が突然言い出したんだから」
「でも……」
そんな中途半端な別れをしてもいいんだろうか?
「いいよ。遥がどっちかだって思ったら連絡して」
「あ、うん」
そこからはまたたわいも無い話をして過ごす。
「そろそろ明日の準備しなきゃ」
荷物はもうほとんどが詰めてあるけれど、さすがに明日発つんで最後のパック詰が必要なんだよね。
「そう。じゃあ明日は何時? 」
「この前と同じだよ」
「そっか」
「あの尚也」
「ん?」
「尚也の気持ちが変わっても連絡してね」
いつまで悩むか疑問だった。そしてその間に尚也の気持ちが変わることだって十分にある。離れ離れになり、そして二人とも新しい生活を送るのだから。
「あー。うん。わかった」
そして明人君の馬鹿騒ぎっぷりを聞きながら家へと帰った。
「じゃあ明日。迎えに来るから」
「うん。ありがと……本当にいいの? あの見送りなんて……」
「いいよ。俺が遥を見送りたいんだから」
「うん。じゃあ明日」
中途半端なままの別れとなってしまった。明日に答えが出るなんて思えない。部屋の中の花瓶のチューリップはすっかりダメになってしまった。この陽気で開ききってしまった。なのに、チューリップを捨てられない私。尚也のチューリップだからか、チューリップを見て葵君を思い出すからか。そうなんだよね。結局、私は葵君に会って自分の気持ちを確かめたいんだ。じゃなきゃ尚也に答えを出せなかった。でも、会ったらわかるんだろうか。こんな気持ちのままで。
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