第11話「滅びへの序章」
オレは世界を変えれる力を手にした。
これならば争いの絶えない救いのない世界を滅ぼせる。
ゼイオン帝国もエレシスタ王国も何もかも滅ぼしたい。
恩人であるクルスの本性を知った今、もうこの世界に未練などない。
ただ、リン・フェールラルト、そしてアレク・ノーレこの二人を除いては……
***
クルス操るゾルディオンとの戦いの翌日……
皇帝レーゼの図らいにより、アレクたちはディセルオにて補給を受けていた。
しかし、ゾルディオンの追撃に向かったレイとクーヴァは未だ戻ってこないままであった。
「私達の魔動機の修理を行って頂けるなんて……なんとお礼を申し上げたら良いか……」
「気にしなくていいわ。エレシスタ人とはいえディセルオを救ったのだもの。これくらいしないとね」
格納庫で修理を受けているアークセイバーとストームバレット、三機のナイトの前で、リンとレーゼが話している。
もうすぐで修理が終わると聞きリンは格納庫に来ており、レーゼはその見送りの為に来ていた。
アレクもリンも捕虜として扱われず、その上ゼイオン軍の格納庫でエレシスタの魔動機を修理するなど前代未聞であった。
だが、こうでもしなければとレーゼは強く思っていた。
「失礼ですが、レーゼ皇帝っていつも男言葉で話す方かと思ってました。少し意外です」
「そうね、ゼイオンの皇帝って男の人ばかりだったから、皇帝としている時はついああいう風に話しちゃうのよね」
今のレーゼは皇帝としてではなく、一人の女性としてリンと接している。
その為か、肩の力が抜けて皇帝らしさはなく、女性らしく話していた。
「国は違えでも、お互い頑張りましょ」
「は、はいっ!」
皇帝であるレーゼに握手を求められ、リンは両手でぎゅっとレーゼの手を握る。
(やはり、クーヴァが戻ってきていないのは気になるわ。エレシスタ軍のレイという操者も戻ってないようだし……思い過ごしだといいけど)
レーゼはゾルディオンの一件が気になっていた。何故クーヴァは戻ってこないのか?それが気掛かりであった。
何もないと希望的観測をするが、心のどこかでクーヴァが戦死したという最悪の事態も考えていた。
一方、アレクも修理が終わったと聞き格納庫に向かっていると、一人の男がアレクの前に現れる。
「オレはまだ忘れねぇからな、師匠の事」
「わかってる……」
その男とはライズであった。こうして顔を合わせるのはルガー以来だが、ライズの顔をアレクはよく覚えていた。
鋭い目でアレクを見る。
ガゼルがライズの事を弟子と呼んでいたのをアレクは思い出した。
ガゼルの乗るゼルガインを討ったのは他でもない、アレクだ。だから憎しみの矛先が自分に向けられる事もアレクはよく分かっていた。
守るために戦うと言っておきながら、クルスの命令でガゼルを討った事は今でも後ろめたさを感じている。
だから、彼の憎しみや怒りはもっともだ。
アレクはリックをゼイオン兵に殺された時の自分とライズを重ねて見ていた。
「次あった時は覚悟しろよ」
その一言がアレクの心に鋭く突き刺さる。
やはり、エレシスタ人とゼイオン人は分かり合えないのか。
そんな時、ある知らせが届き格納庫内がざわついていた。
「それは本当か?」
「はいっ!レイ・フィ・ロートスと名乗る者がゾルディオンを操り、ゼイオン帝国とエレシスタ王国に宣戦布告しました!クーヴァ様のシュルトバイン率いる部隊が先行してこちらに向かっているとの事です!」
レーゼの元に一人のゼイオン軍兵士が報告する。
まだあのゾルディオンが動ける。それだけの情報で不安を煽るには十分であった。
先日の戦いに参加していた者であれば、なおの事である。
「クーヴァもか……」
その上、四将軍の一人クーヴァもが敵になるとは、レーゼの想定する最悪の事態を上回る結果となった。
帝国最強に近き人物の一人が裏切るとなれば、皇帝であるレーゼでも手こずる油断できない敵となる。
「今、レイって言ったのか……?」
兵士は確かにレイと言った。それをアレクは聞こえた。
何故レイがゾルディオンに乗っているのか。その疑問がアレクの中に浮かぶ。
何かの間違いであってくれ。そう強く思っていた。
「出撃準備を整えよ!私も出る!」
「はいっ!」
皇帝であるレーゼの一言で格納庫中のゼイオン兵が動く。
ゼイオンを脅かす災厄とも言えるゾルディオンが向かってくるとなれば、この国最強の武人でもあるレーゼが出撃するのも必然と言えるだろう。
アレクに突っかかっていたライズも出撃命令が下り、アレクの元を離れ愛機ヴァーガインに乗り込むと、最終調整を始めた。
騒々しい格納庫の中、アレクは状況確認をするためにリンとレーゼの元へ向かう。
「アレク・ノーレか。お前達はどうする?」
「俺も行きます。本当にレイが乗ってるなら放っておけないですし……」
「そうね。私も同行します」
レイがゾルディオンに乗ってるとあらば、同じ部隊であるアレクとリンは無視できないだろう。
それに、エレシスタにも宣戦布告したとなれば、どのみち祖国の脅威になるのは変わりない。
アレクとリンの二人はそれぞれの魔動機に乗り、出撃準備を始める。
***
「なんでオレがコイツと……」
アークセイバー、ストームバレット、グレイムゾン、ヴァーガイン、ゴルゼガスの五機はゾルディオンに向かい雪原を歩いている。
ゾルディオンが共通の敵とはいえ、アレクと共に戦う事はライズにとって不満であり、愚痴をこぼしていた。
「ライズ、うるさい」
「はっ!申し訳ありません!ゴーレル様!」
ライズの独り言を聞いていたのか、ゴーレルはライズに通信を入れる。
実力主義であるゼイオンで、帝国四将軍の一人に注意されるとなれば、ライズでも従う他ない。
「オレ、エレシスタ人好きじゃない。オレの故郷、荒らす。だけどこの二人、嫌いじゃない」
ゴーレルはいつものぎこちない口調で、アレクとリンの事を話す。
クルスのようにゼイオンの地を侵略するエレシスタ人をゼイオン人であるゴーレル嫌うのは当然だ。
だが、アレクとリンの二人はそのクルスを止めようとした。ゴーレルの嫌うエレシスタ人とは逆の人間だ。
そんな彼らと共に戦う事を拒むのは恩を仇で返すような事になる。それはゴーレル自身の主義に反する。
だから、ゴーレルはライズの態度が許せなかったのだ。
一方、アレクは沈黙を保っていた。
ありがとうございますと言うべきか悩んでいた。
だが、ゴーレルはアレクの為に言ったのではないだろう。それくらいはアレクにもすぐわかった。
とりあえず今は、彼も一応は味方なのだと、その確証を得られただけでも十分であった。
その時、前方に魔力を反応を探知した。30機ほどはいるだろうか。恐らくゾルディオン、レイの仲間と考えて間違いなかった。
それぞれの魔動機が動き、アークセイバーも剣を構える。
敵の魔動機群が近づき、モニターで確認出来るほどに近づいていた。
30機のゴブル達の先頭に立っているあの黒き魔動機はシュルトバイン……クーヴァの魔動機。
クーヴァの部下達も鞍替えしたとすぐにも分かった。
「クーヴァ、本当に寝返ったのか……」
「えぇ、私は真に強き者に従うだけ。貴方は真の強者ではない。レーゼ・リ・ディオス」
レーゼの通信にクーヴァは答える。
今まで強い者に媚を売り、ただ自分の保身の為に動き、派閥争いを生きてきた。
強い者に従い、さらに強い者が現れれば裏切り……それを繰り返し、クーヴァは帝国四将軍の一人まで上り詰め、これがゼイオンで生きる術なのだと悟ったのだ。
そして今、この世界の命運を掛けた戦いが始まろうとしていた……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます