45話「迷い子の森」

 俺達パーティは狼のフェリエルに案内され再び、『迷い子の森』へと踏み込んだ。

 俺、アリス、リシュア、マリリンの4名だ。

 フェリエルは、大言壮語しただけのことはある。

 途中、ゴブリンはもとより、冒険者ギルドでは、C級クラスと認定されてる、オークやコボルトなどもフェリエルは軽々と屠った。

 知能の高そうなインプなどは、フェリエルが睨みをきかし恫喝するだけで、逃げ去っていくありさまだ。


 そして古代遺跡まで辿り着いた俺達は、自らの意志で身体を凍結させた竜の姫君を目の当たりにした。

 喩えるなら氷の柩のようだ。


「美しい……」


 そう最初に漏らしたのは、麗しき森の乙女でもあるリシュアだ。

 氷の檻の中の白竜姫は、この世の者とは思えないほど幻想的な美しさだ。

 白い肌に空色のロングヘアー。瞼は閉じているので瞳の色はわからない。

 王族に相応しいドレスを纏い。

 首から下げてるペンダントを両手で祈るように握っていた。


「小娘よ。アリスと言ったな」

「うん。アリスだよ」

「この氷壁の中より姫を救い出してほしい。どうだ? できるか?」

 

 フェリエルの問いかけに、アリスは黙って氷に触れた。

 リシュアもマリリンもフェリエルも、静かに見守っている。

 しかし、氷に触れてるアリスの表情が、徐々に険しくなっていく。

 どうしたんだろうか?

 気になって俺はアリスに問いかけた。


「アリス。何かまずいことになってるのか?」

「この子は、自ら死を望んでいるんだよ。それに、この氷はアリスの回復魔法じゃどうにもならないよ」


 たしかに回復魔法で、氷がどうこうできるとは思えない。

 そしてアリスが更に言葉を続けた。


「生命力……かなり弱ってる」


 その言葉にフェリエルが反応した。


「小娘よ。我もそのことを心配しておる。いくらホワイトドラゴンの化身の姫君であっても、何週間も氷漬けのまま耐えられるものではない」


 フェリエルがそう言うと、アリスは氷の柩に回復魔法を唱えた。

 

「慈愛満ちたる聖なる福音よ……光となり生命の息吹なり……究極回復魔法アルティメットホーリネス!!!」


 そしてアリスは、静かにフェリエルに振り向いた。

 

「どうなのだ?」


 フェリエルの問いかけにアリスが無言で首を振る。

 どうやら、一時的な延命処置になっても、根本的な問題解決にはないらないようだ。

 そもそも白竜姫本人に、生きる意志がないのだから。

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