35話「村長の家へ」

「村長さーん。ハジメですよ」


 村長の家のドアをノックすると、煙草をくわえた村長さんが顔を出した。

 椅子に腰かけた俺とマリリンに、村長がお茶を勧めてくれると、村長も席についた。


「例の狼の件ですよね? ニャムも恐がってましたけど、ただの獣じゃないんですか?」


 俺の素朴な疑問に村長が難しい顔をして


「ワシも直接、見た訳ではないのだが、睨まれただけで、恐怖で身が凍るのだと言う。幸いなことに怪我人はでておらん。しかし、このまま放置しておくと、森で狩りができぬゆえ、困っておるのじゃよ」


 村長は辛辣な表情を浮かべると更に話を続けた。


「狼は群れをなして行動する獣じゃが、不思議と単独で、首に赤いマフラーを巻いてるとの報告もある。もしかしたら何者かの従魔かもしれん」

「従魔?」

「そうじゃ。従魔とは主人を持つ獣のことじゃ」


 つまりペットみたいな、もんなんだろう。


「そこでじゃ! その狼とやらを退治してほしいのじゃ。そなたのパーティにはS級冒険者のリシュア殿もいるじゃろ? どうか頼らせてくれんかのう。その間の温泉経営の人手は村より派遣するゆえ、このとおりだ」


 村長さんは両腕をテーブルにつくと、深々と頭を下げた。

 齢、70歳を超えると言っていた村長さんの髪はふさふさだ。

 俺の親父は崖っぷちだ。

 俺の将来はどっちに転ぶのだろうかと、未来に不安を抱いてると、マリリンが叫んだ。


「村長さん、我にお任せあれ! 我の眠り魔法ならば何も恐れることは、ございません!」

「ほうほう、それはなんとも心強いお言葉じゃ!」


 マリリンの一声で、俺達は狼退治を引き受けることになった。




 ◇◇◇

 

 

 

 その頃。

 ティモは魔界皇帝にテレポートで地球に飛ばされていた。


「なんじゃここは? 随分とカビ臭い部屋じゃのう」


 ティモは初めて見る、世界を眺める。

 カーテンの隙間から洩れる日差しに脅えながらも夕刻。

 恐れるほどではない。

 だが、慎重を期したティモは、陽が完全に沈むまで、ベットの下に潜り込むことにした。

 吸血鬼のティモは夜目が利く。


 ベットの下で何やら発見した。

 

「なんじゃろ。これは」


 手に取ってみると卑猥な少女が描かれた、絵画が目に入った。


「なんともスケベなものじゃのう。むむ、開くのか」


 開けてみると銀色の光を放つ円盤が入っていた。


「こ、これは……」


 ティモは初めて見る円盤を、何かの儀式に使う道具だと思った。

 入っていたケースに元通り収めると。


「いい物が手に入ったのじゃ」


 ベットの下で「うふふ」と、ほくそ笑む。

 

「そうじゃ、こうしてはおれん。妾は魔王候補を探さねばならぬのじゃ」


 陽が落ちたのを確認すると、ティモはカーテンを開けた。

 透明なガラス窓がある。


「むむ、どうやって開けるのじゃろう」


 あれやこれやと試していると、レバーを下げ窓を開ける。


「な、なんじゃこの世界は、外気も濁っておる」


 ティモは顔をしかめると、漆黒の翼をバサッと広げ、窓から飛び立った。

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