32話「話し合い」

 魔城の玉座で肩肘を付きながら、俺は考え事に耽っていた。

 村長さんは無事、村長選で勝ち。

 このまま継続して村長を務めることになったと、満面の笑みで俺に報告し帰って行った。


 その時、報告とは別に提案もされた。

 所謂、業務提携だ。


 村の収穫物(米や野菜)などを、魔城温泉にも卸させてほしいとのことだ。

 その申し出はありがたかったので俺は快く受け入れた。

 無論、対価は支払わないといけないのだが、村長は村おこしの一環として魔城温泉を全面的にバックアップしてくれると言う。

 それともう一つ、忙しい時は村より人材も派遣するので、遠慮なくとのことだった。

 

 魔城温泉を開業してから早一ヶ月。


 日に日に利用客が増え収入も安定してきている。

 温泉だけの利用者の平均が日に30人ほどで売上が銅貨90枚。

 泊り客の価格設定は銀貨1枚は高いと、あちらこちらから突っ込まれたので、今では銅貨70枚に価格を改定させた。


 泊り客の平均の推移は10~15人ほどなので多い日の売り上げは、銀貨11枚ほどになる。

 なのだが、ちょっと経費を差し引くと厳しい。


 だが、ンンの風呂上がりのデザートは好評だし、ニャムが獲物をしとめてくれるから当座の食糧問題も解決済みだ。今後の発展に期待しよう。

 などと考えていたら、アリスが目の前に立っていた。


「ん? どうしたんだアリス?」

「みんな、休みをほしがってるよ」


 よくよく考えたら休日のことをすっかり忘れていた。

 この世界でも一週間は七日間である。

 いざって時は、村にも応援を頼めるのだ。無論、タダではないけど。


「じゃあ、今晩にでも全員で話し合ってみよう」




 ◇◇◇




 夜。全員が魔城の王間に集結した。

 魔城の王間には深紅の絨毯が敷かれているので、全員がペタンと座り込んでいる。

 メンバーは、俺、アリス、リシュア、マリリン、ンン、ニャム、そして魔城の影の支配者のティモの総勢7名だ。


「あわわ……ハ、ハジメ氏。またしても、お、お化けなのですっ!」


 震え声のマリリンにティモが悲しそうに顔を歪めた。

 

「マリリン。もういい加減に慣れろよ? ティモはお化けでもなければ亡霊でもない。吸血鬼なんだよ」

「な、なんと! 吸血鬼と言えば我の遠い祖先での眷属。お化けではなかったのですか!」

「マリリンよ……借金を苦に自殺したらしい。そっとしてあげるのだ」


 リシュアはそう言うとティモを憐れみの目で見つめた。

 

「恐がらないで大丈夫だよ。この子から邪悪な波動は一切感じないよ」

「アリスの言う通りさ。ティモは悪い奴じゃない。ちょっと金にガメツイだけだ」


 俺の言葉にティモは複雑な笑みを浮かべている。

 彼女なりに笑顔を見繕っているのが、俺には理解できている。

 

「ティモも俺達の仲間さ。みんな仲良くしてやってほしい」


 俺の言葉に一同が頷いた。

 ティモの瞳から赤い涙が流れた。

 俺は苦笑いしながら


「ちょ……ちょっとホラーだが、まあ、そこは気にしないでやってほしい」


 俺がそう言って隣に座ってるティモの肩に手を置くと、マリリンが、「せ、先日は……あ、ありがとうでございまするぅ」と、ティモに何やら、礼を述べた。


「妾こそ、驚かしてすまなかった。ゆるせ、魔女っ子よ」


 そう言うティモは、今までにない明るい笑みを見せるのだった。

 

「じゃあ、本題に入ろうぜ! 今日は魔城温泉の今後の運営の話と、休日についての話し合いだ。意見あるものから自由に言ってくれ!」


 最初に名乗りをあげたのがウサギ族のンンだ。


「メニュー表を作ってほしいですのん! それに合わせた食材を仕入れてほしいのですのん!」


 ンンの意見に皆が賛同し、メニュー表を作る運びとなった。

 俺はンンに顔を向け


「じゃあ、ンンにリスト作成。お願いしてもいいか? 厨房は全部ンンに任せてるから、とりあえず自由にンンの得意な献立表を作ってくれ」

「はいなのん!」


 ンンは快く了承してくれると、ニコニコと笑みをこぼした。

 次に名乗りをあげたのはネコ族のニャムだ。

 ニャムのクラスは狩人で腕もピカイチだった。

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