18話「炸裂眠り魔法」

「まあ、そんな事情を抱えてたのね。キャハハハハッ! でもね残念ながらその呪いは、わたくしがかけた呪いじゃなくってよ」


 すると意外なことに邪神は、素直に答えてくれた。


「では、誰の呪いなんだ!」


 リシュアが邪神に叫んだ。


「伝説の魔剣ソウルブレイク。尽きることのない永遠の生命を持つ魔界皇帝の神器。あなたは勘違いしてるようだけど、魔界皇帝にとっては呪われてるアイテムではないのよ。永遠の生命を持つ魔界皇帝だからこそ扱えるしろものなの。もし呪縛から解放されたいとお思いなら、本人に返すしか方法はないかもしれないわね」

「な、ならば、その魔界皇帝とはどこにいる?」

「人が生ける場所なんかじゃないわよ……魔界ですもの」


 邪神はそう言うと欠伸をし、漆黒の翼を大きく羽ばたかせた。


「おおおぉぉ!」


 ――――! み、みえるぞ! 俺にも見える! 豊満な双丘が!


「ハ、ハジメ……た、戦うの?」

「もう少し対話を愉しもうぜ? おっぱいだし……って……なに詠唱してるのマリリン?」

「も、問答無用なのです! 我の使命を果たすときなのです! ――――永遠なる夢見の時に封印せよ! 究極眠り魔法アルティメットスリープ!!!」


 マリリンの詠唱が完了する直前。

 リシュアが魔剣を振りかざし、孤を描くように跳躍していた。

 

「ちょ、ちょっとお前ら……」


 マリリンの眠り魔法は邪神にも効果があった。

 邪神がドテっと倒れたところに、リシュアの魔剣が牙をむく。


 その魔剣の剣先は、邪神ではなく地面を貫いていた。

 俺はほっとし安堵した。

 いくらなんでも唐突すぎる。


 ――――って。全員寝てらあ……。


「お、おいしっかりしろ! マリリン、お前が寝てどうする」

「我の究極の眠り魔法の威力を持ってしても、ハジメ氏を眠りに誘うことはできないのですね」

「つーか、俺も攻撃対象なのかよっ! まあ、いい。とりあえず皆を起こすんだ!」

「はい、なのであります!」


 俺はアリスを起こしにいった。

 マリリンはリシュアを起こしにいった。

 リシュアは邪神に抱きついた形で寝ている。


「ハジメ~、あと5分だけ寝させてぇ」

「なに寝ぼけてんだ? ここはダンジョンの最下層。しかも裏ボス部屋だぞ」

「あ、そ、そうだった!」


 マリリンがリシュア揺さぶっている。

 リシュアは目覚めると眠たげな目を擦る。

 

「お前ら、いきなりすぎるだろ!」

「ハジメ殿、指示もないのに、すまなかった。マリリン殿に触発されてつい、先走ってしまった」

「我も気持ちが焦ってました。ごめんなのであります」


 邪神はまだ気持ちよさそうに寝ている。

 そんな邪神にアリスは優しげな眼差しを送る。


「ハジメどうするの?」


 俺にもアリスの瞳、同様。

 邪神が敵意をむき出しにしているとは、思えなかった。

 むしろ寂しげな印象を受けた。

 数千年もぼっちだったんだもんな。


「お前ら、もう勝手なことすんなよ?」


 全員に念を押し邪神を起こしに向かった。


「おい、邪神よ。目を覚ませ!」

「あら……わたくしったら変な方向に、関節が曲がっておりますわ」

「つーか、それは元々じゃないのか? お前……本当はボッチで寂しかったんだろ? 破壊とか混沌とか厨二ぽいこと言ってないで、友達にならないか?」

「と、ともだち? わたくし忌み嫌われる邪神なんですわよ?」

「こんなしみったれた場所にいるから、精神が荒むんだよ。上の階に快適な部屋がある。今後はそこで暮らせばいい。たまには遊びに来てやるよ。マリリンも上の部屋もう必要ねぇだろ?」

「あ、はい、我は使命から解放された、ようなのであります。もしよろしければご自由に使ってください」


 マリリンは快く了承し、はにかんだ。

 緊張が抜けるとリシュアはピンと張っていた長い耳が、垂れさがるようだ。




 ◇◇◇




 その後。

 邪神はアリスに蘇らせてもらったことに感謝し、率先してアリスの信者になってくれた。

 邪神が女神を信奉するなんて、俺はどうかと思ったが、邪神メティオーネは元々は女神だったらしい。


 まあ心を入れ替えて天界に還る為の修行を始めるようだ。

 ならば頑張ってほしい。


 リシュアの解呪は、お預けになってしまったが、アリスがいれば蝕まれる魂も全開できる。


 マリリンも使命を終え、外の世界への旅立ちにわくわくしているようだ。

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