4話「魔王と対峙」

 魔王ベルゼビュートの魔城。


 幸か不幸か復活間もない魔王には、アリスが言うように部下を雇う時間的猶予などなかったようだ。

 魔王は玉座から立ち上がると3メールはありそうな長身。

 牡牛のような角があり仮面の下から覗く眼光は鋭く、漆黒のマントをバサッと翻した。

 その背には大剣を背負っており、魔王は俺たちを睨むとゆっくりと剣を抜刀した。

 片手で軽々と振るうその剛腕。

 その刀身には黒い炎を纏ってもいる。

 まさに闇の剣だ。


「我は簒奪の魔王。ベルゼビュート」

「私は女神アリスティア。この星を守護する者です!」


 凛と魔王に対峙したアリスからは、天然臭が消え失せ纏ってる白銀の鎧は、魔王の漆黒の鎧と対照的で、まさに光と闇の対決って感じだ。

 果敢に臆することもなくレイピアを魔王に突き出すアリスの姿は、俺の脳裏に戦乙女を連想させた。


「フハッハッハッハッ! 面白い。相手になってやろう!」


 高笑いする魔王はやる気満々で俺は、げんなりした。

 ところがアリスはここ一番では駄女神を卒業し、怯むどころか女勇者のように勇ましい。

 これなら俺の出番はなさそうだ。


「はい。ハジメ」

「ん? なんだ? なんで俺に剣を渡すんだ?」

「魔王と戦うのは勇者の役目なんだよ」


 って……やっぱり俺が戦うの?

 無理っしょ! 死ぬっしょ! ここは即刻帰るべきっしょ!


「アリス……今日はやめにしないか?」

「どうしてなの?」

「……だって2対1は卑怯だろ? 魔王様にも戦力を整える、時間的猶予を与えてやろうぜ? それがフェアってもんだろ? それにさ、そろそろ夕飯の時間なんだよ。帰らないと怒られちまうんだ」


 そうは言ってみたものの、アリスの表情はそこはかとなく真剣だ。

 俺の逃げ口上などアリスの熱い視線にあっさりと、かき消された。

 

「ほう、貴様が勇者なのか、100年前の雪辱晴らしてくれようぞ!」


 どうぢよ……。


 魔王が剣を構えた。

 あんなぶっとい剣で一閃されたら、軽く身体が真っ二つになる。

 これ以上想像をたくましくすると、昏倒しそうだ。

 頭がくらくらする。

 魔王がじりじりと接近してくると、圧倒的な威圧感で場の空気が一転する。

 

「あ、ちょいタイム! 魔王様! その前の勇者……? それ俺じゃない! そもそも勇者なのはゲームの話であって、俺はただの日本国民のヒキニート。とてもとても魔王様のお相手なんて……」と、慌てふためいていると、アリスが俺の背後に隠れる。


「ハジメは最強の勇者なんだからっ! 魔王なんてイチコロなんだからっ!」

「バッ、バカッ! 余計なこと言うんじゃない! しかも自ら最強だなんて、この状況……ろくなフラグしか立たないぞ!」

「さあさあ、ハジメっ! さくっと魔王を殺っちゃって!」

「ちょ……ちょっと、マテ、お、おま……なに、押してるの?」


 魔王は懐かしそうな眼差しで俺を見つめると、再度高笑い。

 俺は勇者になって魔王を倒す契約なんて、するんじゃなかったと激しく後悔。


「フハッハッハッハッ! 勇者の末裔よ! 遠慮はいらぬぞ! 魔剣の錆にしてくれる!」


 魔王が不敵な笑みを浮かべると、魔剣の黒炎が激しさを増した。

 ひええええぇぇぇ! 殺されちゃうよ。


「女神様!」


 俺は真剣な眼差しでアリスに向き直り、アリスの肩に手を置いた。


「ど、どうしたの? 急に女神様だなんて?」

「女神って神だよな? 神って魔王と対等、いやそれ以上の存在だよな?」

「え!? え!? なに? 意味わかんないよ?」


 アリスは突然のことに狼狽してるが、ここは無理矢理でも押し通すしかない。


「勇者の俺がやると呆気なく終わちゃって面白くないだろ? まずは、お前からやれ!」

「ムリムリ、ムリだよ、ハジメっ! アリスは虫も殺したことないんだよっ」

「で、でも……女神なんだろ? 神なんだろ? それだけでもチートじゃないか!」

「――――ちーと……?」


 ……あっ! やべぇ……そうだった……この女神様。

 チートって言葉が通じないだった。

 く、くそ……もう、こうなったらヤケクソだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る