第7話 勧誘

 翌日、前の日に眠り込んでいた私とは別人が現れた事で、またクラスメイトに引きとめられる。


 メガネは昨日起きた時、教室で榊に外された時に没収されたらしい。朝から探しても見つからなかった。三つ編みをしてみたけど、玄関出るとどうやら私が出てくるのを自宅の玄関前で待っていた榊にあっさり三つ編みをとられてしまった。


「勧誘するんだぞ! 本気だせ」


 三つ編みのどこが本気じゃないのか基準がわからないけど、その後も教室までついてこられた。まあ学校が同じだからただ普通に通学してたんだけど、三つ編みも放棄せざるえなかった。


「メガネどうしたの?」

「視力がよくなったみたいで」

「え!?」


 だよね。そうだよね。私もそう思うよ。でもここはなんとか乗り切らないと。


「前からメガネ合わないなと思ってたら良くなってたの。視力」

「ああ、そうなんだ……」


 絶対納得してないよね。


「髪型は?」

「ああ、三つ編みは前の学校の校則だったんでつい癖でしてたんだけど。面倒臭くって」

「そうだよね。面倒臭いよね」


 いや、女子なら知っている、三つ編みの方が楽な事を。おろしているのが一番大変なんだってことを。さらに朝少しの間だけど三つ編みしてたから、若干三つ編みのウエーブがかかってるし。不自然だよ、榊!!

 この嘘が満載の私の話だったけど、みんなは納得せざる得なくて退散していった。何しろ他の言い訳も思いつかないからね。


 気のせいだろうか? 教科書見せてくれる男子が今までよりも近いんだけど。わかりやすい男って。……榊!! これが作戦か!? 男子を落として来いということか。絶対に女子を勧誘してやるんだから! 榊が落としてくるんだ必ず女子だ。私も女子を勧誘すれば、生徒会室の榊の周りは女子だらけになる。あのキス魔にこれが効果あるかはわからないけど、絶対女子を勧誘するんだから!



 ……私の女子の生徒会への勧誘はあっけなく撃沈した。生徒会の一言で逃げられてしまう。仕方なく男子に的を変えたんだけど、生徒会という私の言葉をスルーして口説くのはやめて欲しい。口説きにきたのはこっちだ!!

 やばい最後の一人になった。確か彼は一度部活に入ってるが二重線で消されそこには廃部とあった。きっと二年になる時に三年生が抜け一年生が入らなかったんだろう。なんて、彼の過去を思い描いてる場合じゃない。一人のノルマ達成出来ずに榊に会う自信はないし。家が隣だから榊からは逃げられないよ。

 彼のクラスに行って適当に入り口付近の子に聞く。


「ねえ、あの柏木君ってどの子?」

「あ、僕だけど」


 生徒会への勧誘も大変なのだ、他のクラスに入っては出来ない。さっきから使っていた手法を使う。


「あ、あのちょっと来てもらえる?」

「え! あ、うん」


 みんなの好機の目が刺さる。が、先ほどこのクラスの女子にも勧誘に来てたからか、


「生徒会の勧誘だよ!」

「そうだよね」

「柏木がそんなわけないじゃない」

「だよね」


 本人にも丸聞こえな悪意ある言葉とその後に続く女子の笑い声。ムカつく。そして彼に申し訳なく思う。本当に生徒会の勧誘なんだから。




 廊下の隅の話しやすい場所まで彼自身が行ってくれた。


「生徒会?」


 あれ? 意外に積極的なんだな。クラブも宇宙研究会って見たことも聞いたこともない部活で典型的なオタクなイメージだったのに。彼は確かに黒縁の顔を隠すような大きなメガネをかけている。まあ、榊もメガネかけてるけど榊は髪型とか雰囲気がそういう暗い雰囲気から遠ざかってる。最初にメガネをかけてない榊とたいしてイメージは違わない。でも、彼はそのメガネと髪型で大きくオタク感が出ている。なのに、さっきの教室でいた時と雰囲気が違う。


「ああ、うん。入ってくれないかな?」


 散々今日勧誘してきたがどう誘えば生徒会に入ろうという気になるのか全くわからない。私自身がそういう気になってないし。


「うーん。君じゃないよね会長?」

「あ、うん。違う」


 そこに何か意味があるのか? そう言えばあの日私は寝坊してでなかったけど、朝礼の時に榊は壇上で生徒会長になったと紹介されている。……生徒会に興味あったら覚えてるよね。榊は男で私は女だし、間違える要素はひとかけらもない。

 でも、彼はなんか迷ってる。今までのザッパリ切り捨てられる雰囲気じゃない。頑張れ私! ってどう頑張ればいいの?


「君って副会長?」

「あ、うん。多分」


 昨日榊は微妙な話をしてたけど。もう副会長でいいや。


「書記か会計……」


 なんだろう、もう話が進んでるんだけど、彼の中で。


「どっちでも今なら選べるよ!」


 一体どこにつまずきを覚えているのかわからないからここは適当に言っておこう。


 それにしても、また考え込んでる彼に視線を向ける。カッコいい。彼は絶対カッコいい。メガネが隠しているけどあの顎のライン、鼻筋、目。どれをとってもいい男! なんでみんな気づかない?


「じゃあ、書記でいいならやるよ。」


 どんな葛藤が彼の中であったかは全くわからないけど、良かった! これでノルマの一人クリアだよ。


「あ、あの手。手離してくれる?」

「あ、ごめん。嬉しくてつい。じゃあ、放課後に生徒会室に来てね!」


 あまりの感動に彼の手を握りしめてた私。榊と変わらないじゃないか、これじゃあ。


 彼の指摘の後、彼の手を離すとまたもやこちらに聞こえる声で言ってる。


「ちょっとあれ!」

「生徒会の勧誘って大変だね」

「私なら無理だね」

「えー。私も」


 またもクスクスさっきの女子の笑う声。生徒会の勧誘の為に手を握ったんじゃないし、彼じゃなきゃ手を握ったりしない! 元彼の手も握ったことないのに。

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