第3話 疑惑

 帰り道に気づいたんだけど。前を歩く、同じ学校の生徒。髪形や体格が榊に似ている。ま、まさかね。後ろ姿だし。なのに、帰り道どこまでも前にいる。どんどん不安になる。榊なの? 榊なのか?

 かなりマンションに近づいた交差点で彼は横を向く。え? メガネをかけてる榊がいた。え? メガネ? っていうか、ここは真っ直ぐだよね? 榊じゃないの?

 信号が変わって彼は信号を渡って行った。とりあえず、家に帰ろう。単なる他人の空似だろう。曲がってどこかに行ったし。


 私は登校途中に見つけたドッラクストアに立ち寄り、一人暮らしにもいろいろなくては困るものを買い足したり、今日もご飯作りは無理なのでコンビニに寄って帰る。

 マンションの玄関を入ってエレベーターの上ボタンを押してエレベーターを待っていた。


 マンションの自動ドアの開く音がする。誰か来たんだ。あんまり人と一緒にエレベーターには乗りたくないな。男の人だろうか女の人だろうか。チラリと見て、息を飲む。榊だ!! 間違いない。さっきの彼は榊だった。スーパーの袋を下げているからきっと買い物する為にあそこを曲がって行ったんだ。……そうだった。


 一昨日彼は家に私を連れて行った。家に誰かいたら出来ない。私の隣に住んでる。ここは広めだけど一人暮し用だと思われるマンションだ。それにスーパーの袋。明らかに野菜とか入ってる。ネギが袋から飛び出てるので本格的に料理してるみたいだ。


 それにメガネ。きっとケンカに邪魔だから一昨日はかけてなかったんだろう。……一昨日私のこと見えてたのかな?


 横に並ぶが私に気づいた様子がない榊と緊張してる私。


 エレベーターが無情にも到着。買い物忘れのフリしてこの場から逃げ出そうか考えてたのに。

 一緒にエレベーターに乗る。同じ九階、つい先に行き先の9のボタンを押してしまう。まあ、どっちにしろ一緒なんだけど。

 それにしても、一昨日はあれ程気軽に話をしてたのに今日は寡黙だな。やっぱり私って気づいてない?


 一緒にエレベーターを降りて先に私が廊下を進む。近くで顔が見られないように。鍵も取り出して準備万端。家の鍵をさっさと開けて中に入る。ちょうど、同じくらいのタイミングで榊も家に入った。扉のおかげで見えてないよね? 私の顔。




 荷物と格闘してたら前の学校の子からメールや電話がやたらに来る。内容は彼と別れたか別れてないか。どっちでもいいんじゃないの? って、言いたいけど答えてる私。なんで急に今日なんだろう。みんな一斉にっていうのも変だなあ。

 電話をかけてきた一人に逆に質問してみる。


「ねえ、なんなの? さっきから質問攻めにあってるんだけど、なんかあったの?」

「それが桐山君が内藤さんとは付き合ってない。俺はまだ佐久間が好きだって。内藤さんに学校の廊下で大声で言ったって。かなりの人が見てたみたい」


 彼女は最後は悔しそうに言ってるけどその場面を見たかったんだな。きっと。


「そう。それで……」

「で! どうなの?」

「桐山とはもう付き合ってない。別れてる」

「そうなんだあ」


 嬉しそうな残念そうな声。どっちなの? 面白い展開にならず残念なのかな?


「じゃあ、ごめん。荷物の片付けあるから」

「ああ、ごめんね。忙しい時に」

「ううん。あ、それからそういう話聞きたそうな人には私の言葉伝えといて。電話もメールも多くって困ってるのよ」

「わかった。伝えとく。またね」

「うん。またね」


 この『またね』は、いつか来るのかな?

 とりあえず今までしてきた回答とさっきの子が私の話をみんなに回してくれたら、この荷物に専念できるのに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る