第38話 花火を感じる

 バーン パラパラパラ


 一発目の花火の後圧倒される数の花火が夜空に上がっていく。

「キレイ」

「綺麗だな」


 ヒュー ドーンパラパラパラ


 が


 ドンドンドン ドンドンドンドン ドンドンドンドンドンドン


 と続いて響いて来る。体にも、心にも。

 真っ暗な夜空に華がドンドンと色とりどりに咲いては散って行く。緑、赤、オレンジにピンク、青や紫色や黄色や白……。美しく儚いけれど力強い華。こんな風に……私も拓海の心の隅にでも残ったらいいのに。

 蝶やハートなんかの形にも花火は上がる。

「すごいね。最近の花火!」

 久しぶりだった。花火見るの。

「ああ。樹里どれくらい、ぶり?」

「中三の時以来……」

 う、嫌な思い出。

「中三……それって……誰と見たの?」

 花火を見てる私には拓海の表情はわからない。けれど、なんか詰まった言い方。聞かないで欲しかったな。

「類と一緒に」

「ふーん」

 久しぶりに聞いた。拓海のふーん。

「保護者代わりよ中学生なんだから!」

「なんで、高一からは見に行かなかったの?」

「保護者がいなかったから」

 類が出て行ったのは夏休みだった。中三の春に来て高一の夏休みに出て行った。類は泣きじゃくる私を置いて出て行った。だけど、夏休みの花火大会に誘ったんだけどバイトだと断られたんだ。そして、あの日、花火大会の日に類に会いに行ったんだ。だから、他の誰かとでも花火大会に行くの嫌だったんだよね。思い出しちゃうから。いろいろと。

「ふーん。出て行った後だったんだ」

「そう。出て行った後だよ」

 その間にもいろんな花火が上がり続ける。

 少し間があいたと思ったら、


 ヒュー


 とひときわ大きな音がして光が一番高いところまで上がって行く。


 バーン


 と、心臓にまで響いてくる音と共に一番大きな花火が夜空一面に広がる。

「あ! すっごい!」

「デカイな!」


 パラパラパラ


 と夜空に流れ星が降るように光の雨を降らせた。


 それが終了の合図だったのか、それから怒涛のごとく花火が上がって


 パラパラパラ


 と少しさみしい雰囲気を残して花火大会は終了したみたい。

「終わったね」

「終わったな」

 ずっと口をつけてなかった飲み物を飲む。なんかさっきの会話で気まずいのはなぜ? 類のことはもう終わってるのに拓海ってば気にしすぎ! その割に類のこと聞きすぎだよ。


「わあー!」

 本当に影武者のようだよ管理人さん。今夜は夕食が用意してあった。温め直していただく。

「美味しい!」

「だからシェフだって」

「もったいないよ。今度からは作ってもらったら?」

 あ、今度からか……そこに私はいないんだよね。拓海もここに来れる状況かわからないのに、美味しい料理につい口が滑ってしまった。

「そうだな。今度からはそうしよう」

 あっさりと話を流すな、拓海は。本当に影ない奴!


 ***


 こうしてあっという間に拓海との二人の日々は終わった。管理人さんのお迎えで駅まで行って、電車に乗り、また父に迎えに来てもらった。

「勉強すすんだか? 樹里! いい環境だとな!」

「ああ、うん。そうだね」

 いい環境って勉強に支障のある誘惑がいっぱいって事だと思うよ。家の方がバッチリ勉強できてただろうと思うんだけど……言い出せないよ。遊んで過ごしてたなんてね。巻き返しで後半の夏休み勉強しないと!


 *


 拓海と二人の日々は終わってはいなかった。一緒だね影武者な管理人さんの存在とたいして変わらない私の父と母。ただ勉強はしてます。プールないし露天風呂もないからね。思えばプールでどれだけ遊んでたの? 小学生じゃないのによくもまあずっと遊んでたな。拓海といると楽しいんだよね。なんでかな? 何もないのにただ楽しい。

 また、拓海は私の問題集に落書きしてくる! 仕返し! 訳のわからない問題に変えてみる。二人の間のブームになってる。元の問題に書き加えるって遊び。ああ、巻き返せていません。父よ! ごめん。二学期は頑張ります。

 拓海から別れの言葉も雰囲気も全く出てこない。いつまでこうして一緒にいられるんだろう。

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