第23話 デートしてる

 外にいるペンギンをからかってみたり、ショーが終わったイルカを見ている間に、夏の太陽は私達を乾かしていく。

「これ、涼しいな! それに楽しいな。この年でビショ濡れないしな」

 濡れた髪をかきあげながら言う拓海。

「ねー!」

 本当に楽しいよ。拓海といると、苦しい日々を思うと切なくなるけど、ただただ今が楽しいよ!


「あれ! 乗る!」

 水族館から少し離れた場所に観覧車が見えた。催促する私。

「結構距離あるぞ! 昨日みたいに途中でバテるなよ!」

「もちろん!」


 覚悟はしてたけど、暑い太陽の元を歩く。ただ目標が見えるので気づけばそばまできていた。

 観覧車も大人気で並ぶ並ぶ。でもそれですら楽しい。ああ、もう完全な恋バカ娘だな私。

 やっと順番が回ってきた頃にはここに着いた時には生乾きだった私達を夏の熱気がすっかり乾かしてくれていた。

「樹里! 気をつけろよ」

「うん」

 観覧車に乗る時に拓海が差し出してくれる手をとり、こんな些細な優しさにいちいちドキドキする私。勘違いしそうになる拓海の優しさと眼差し。そんなんだから女子の群れに騒がれるんだよ!

 遠くから見えただけあって、観覧車は想像よりも大きく高かった。

「うわー! 高い! や、なんか怖い!」

「自分で乗りたいって言っといて」

「だって想像以上なんだもん」

 拓海が席を中腰で立ってこちらに来る。観覧車は大きく揺れる。

「やー! もう、ワザと?」

 拓海笑ってるし! もう!

 今度は戻らないように拓海を押さえてる。

「もう動かないって」

「信用できない。あ! 一番上だー!」

 360度全てが見渡せる。遠くのほうまで。右の窓の外を見て真正面を見て左の拓海の方を見る。

「じゃあ、動く」

 と、言って拓海は私にキスをする。え? なんで?

「拓海? って、いやー!」

 拓海は立ち上がり、すぐにさっき座ってた場所に戻った。一番高い場所で見渡す限り景色が見える場所で大きく観覧車が動く。

「意地悪!」

 揺れはすぐにおさまるけど、ある意味ジェットコースターより怖いんですけど。


 帰り道疲れてきたら、またまたウダウダ言う私。

「樹里!」

「はーい」

 そうです言ったよ。帰り道のことなど思いもしないで。暑いよー! 帰りは濡れてないから暑い!


「ただいま」

「ただいま」

 拓海とようやく家帰り、待ってるだろう父と母に呼びかける。あれ? 返事がない。そして、家の中は真っ暗だった。

 キッチンに行くと置き手紙。

『二人でディナー行ってきます! 樹里達も今日は外食してね! 母と父より』

 浮かれ気分でこれ書いてる母の姿が思い浮かぶよ。

「樹里何食べる? 昼間は水族館のマズイ焼きそばだったし、これもあるし!」

 そうお金を置いて行ってくれてます。まあ、当然なんだけど。毎日拓海に作らせて自分の番には逃げたな母め。母は料理が苦手なんだよね。まあ、拓海が毎日作ってる原因は私にあるんだけど。そうだ!

「拓海は何がいい?」

 いつも作ってもらってるんだからね。

「焼肉!」

 男子高校生らしい答えだね。

 ってことで、焼肉は匂いがつくのとさすがにイルカの水槽の水ひっかぶったんで着替えることに。

 うーん。また悩む。ああ、どんどん私の乙女度が増してるよ。焼肉行くんだからおしゃれしてどうする! 私!


 コンコン


「樹里腹減った!」

「ああ、もうすぐ行くから」

 慌てて着替える。ワンピースから普段着に。


 近所の焼肉屋さんに拓海と行く。


 改めて思うよ。男の子ってよく食べる! と感心して焼肉屋さんを出る。

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