第20話 デートをする?

 土曜日はさすがに起こしてこないかと思ったら、目覚めると目の前にいるし。そんでもってなんでかやっぱり近い。その起こし方、凹むんだけど。起こしてもらってるので、言えないけど……。

「お、おはよう」

「おはよ! 早く起きろ。朝飯冷める!」

 それで起こしに来たんだね。朝ごはんの為か。

「はいはい! 着替えるから出てって」

 なんか……横暴だな私。

「早く来いよ!」

 横暴に言われた人は全く気にしてないけど。


 朝ごはんを食べ終わって食器を洗ってもらってる。ことごとく申し訳ないのに、態度に出せない。素直じゃない私。どうしよう後姿すら愛おしくなってるよ。ああ、もう恋バカだよ、私。


 *


 恋バカな私は普段の家着をさらには寝姿まで披露してる相手なのに明日着る服選びに難航している。拓海はどんなの好き? とか、悩みに悩む。どうせこの部屋から出て一瞬見られて終わりなのに。水族館ってのがどんな服装もありだという幅を持たせてるんだよなー。はあー。


 トントン


「樹里? 何してんの?」

「え? いやあの……」

 そうだよね朝っぱらから部屋にこもってなにしてるんだって話だよね。

「開けるぞ!」

「え?」

 いきなり開けるのはないよ! 着替えてたらどうすんのよ! まあ、聞いてたのに答えてない私が悪いんだけど。それに、着替えてないし。服を眺めて悩んでいるだけだった。

「明日、着る服?」

「あ、うん。そう」

「……」

 拓海の無言……そうだよね。なに服こんなに広げてるんだってことだよね。しかも、本人に全部見られてしまった。明日の部屋を出てからの一瞬ですら失ったよ。服選びの意味が。

「あ、あの……」

 私は言葉も失ったよ。

「これ! これいいんじゃない? あ! それか今日も暇だし服、買いに行かない? 俺、服ないんだよな。デート用の」

 拓海が持ってるワンピース……こういうのが趣味なんだ。というか、拓海の外着姿、最初の日と類の家に行った日しか見てないけど、あれで十分カッコいいと思うんだけど……デート用のってどんな服? でも、一緒に買いに行けば拓海の好みがもっとわかる!

「そうだね! 行こう!」

「じゃあ、樹里着替えて! 俺も着替えてくるから」

 拓海は私にワンピースを渡して自分の部屋へと去って行く。


 早速さっきまで拓海が持っていたワンピースを着る。一着でもこの中から選んでくれてよかった。今日着て行く服も迷うとこだった。

 部屋を出るとそこには着替え終わった拓海がいた。それでも十分カッコいいのにな。拓海、デート用のってどんな服を想像してるんだろう。


 二人で家を出る。なんか制服じゃないって新鮮だな。あれ? これって……付き合ってたらデートだよね……すでに。

 電車に乗ってるとあの日を思い出す。たった数日なのに私って……あれほど長く想っていた糸を切った途端に。ホームで類の写真を消した後の心の穴を拓海が埋めるなんて……しかも埋まらないのに。拓海と並んで座ってる。これを当たり前なんて思わないようにしないと、後で傷つくのがわかってるんだから。

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