第18話 コイのベンチに座る

 恒例行事だね。お昼の呼び出し。

「保健室に行ってもいないよ。先生またお昼ご飯食べに行ってるよ」

「だから、先に今日はあそこ!」

 拓海の指差す先にはベンチ。え? あそこ通り道においてあるベンチなんだけど。

「あんな通路の?」

「だって日陰少ないから」

「保健室のが涼しいよ」

 保健室だからね。快適空間なんだよね。

「じゃあ……保健室行こう」


 ガラガラ


 やっぱりいない先生。

「やっぱりお昼かあ」

「あの場所誰かに聞いたの?」

 さっきの通路のベンチ。確かに今の季節に快適なのはあそこだけだろう。が、通路にあるんで余程根性のあるか、ただの友達同士じゃないと座っていられない。転校して数日の拓海の選ぶ場所じゃないような気がする。

「ああ。吉田に。お前らなら平気だって言われた」

 ……キスだな。学校でキスする勇気のある奴にはあそこは平気だろうな。って私も思うよ、吉田君。

「拓海は平気だろうけど、私は……」

「いいじゃない。どうせ陰から見られてるなら堂々としてた方が!」

 本当に昨日拓海は沈んでたの?

「堂々とって、会話丸聞こえだよ」

「でも、わざわざ立ち止まって聞いたりしないじゃない?」

「でも、バレるよ」

「気にしすぎだよ! 誰も思わないって、同居してるなんて」

「果歩なら思う……と思う」

 果歩なら知ってるから。私が今まで何人も同居人が我が家にいた事を。拓海は転校生だ。ならなおさら気づく可能性が高い。

「でも、いいんじゃない?」

 軽いなあー。拓海はバレても平気なの? 詮索されても平気なの?


 ガラガラ


「今日もか! ここをデート場に使ってないか? お前たち」

 先生が帰ってきた。すっかり私達がいちゃついてるイメージがついてるみたいだよ。

「違います! 指です!」

 左手を先生に差し出す私。


 *


「なあ、試そう! な!」

 なんでかあの場所にこだわる拓海。先生に指のガーゼを巻き直してもらう。絆創膏まであと少しかな。そうなるとこれもなくなるのかな? 拓海と保健室に行く……お昼に会うこともないのかな? また胸がチクっと痛む。………そうよね。試そう!

「わかった。じゃあ、行ってみよう」

 ベンチはこちら側に三つ、向こう側にも三つある。度胸のある人達とあとは男子生徒達が戯れている。残りの一つに拓海と座る。

「意外にここ人気なんだね」

 男子生徒が戯れているのはわかるけど……あからさまにイチャイチャしてる人達もいる……あれ別れたらどうするんだろう。三年生ではないみたいだし。

「だろ! やっぱりいいんだよココ!」

 拓海押すねココを。なんでかな? あれ? そういや一時期、果歩もお昼に吉田君とここにいたな……一人になるのに! って果歩に苦情言ったような。ごめん果歩。自分の時は拓海とお昼ずっといるし。まあ、吉田君がいるからな果歩には。

「本当涼しいー! なんでだろ?」

「あれじゃないか?」

 拓海が指差したのは後ろにある池。全部のベンチの背後に広がっている。たしか……。

「コイ」

「え?」

「ああ、あそこの池にね、コイがいるんだった。普段はあそこまでは行かないんだけど気になって見に行ったら、コイがいたの。池にね。そうそうちょうど蓮の花が咲いてたんだ。それで花を行ったらコイがいて」

 綺麗な池だった。コイも大きかったし。誰かのこだわりだな、きっと。そのお陰で涼しいのかな? 今はガンガンに日が当たってるけど校舎の間にあるからほとんど日陰になるんだよね。

「ふーん。そういうことか」

「ん?」

「いや。樹里って噂話とか興味ないタイプ?」

「うん。そうだね。特に悪い話は聞かないようにしてる。気分悪くなるしね」

 なんで、そんなこと聞くんだろう?

「ふーん」

 また、ふーんですか。謎な人だね、拓海は。


 たわいもないが転校生の拓海には面白いのかいろいろ聞いてくる。きっと私が質問しないからだな。聞くに聞けない、本当は何もかも聞いておきたいのに……そんなジレンマなんてきっと拓海には伝わってないんだろうな。切ないこの想い。って、伝えないって決めたんだよ! 私、しっかりしろ!


 チャイムがなって、戯れている男子生徒達もイチャイチャしてた下級生も立ち上がる。拓海に質問出来る日は拓海と別れる時なんだろうな。切ない想いを隠して拓海と教室に戻る。

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