第7話 凰

A銀行Z駅前支店出張所支店長・凰は、とても悔しかった。

現在自分は、銃を他人に向けている。確実に人生を棒に振る愚行だ。けど、このまま外に出ても同じだ。責任問題で否応なく槍玉に上げられる。だったら、人の記憶に残るだけの馬鹿な事をやって滅んでやろう。今まで抑圧してきた色々なモノを開放しよう。凰はそう結論つけ、他人に銃口を向けた。その間、凰の脳裏には、躓きのキッカケとなった過去の出来事が過ぎった。

入行して20年。本店営業部の第二課長をしていた頃、幹部役員の指示で、ある人物から幹部役員の預かりモノを受け取りに行った。しかし、それがある政治家の汚職事件の証拠だったと知ったのは、数ヶ月後に検察が訪ねて来た時だった。凰は、正直に話した。何時、何処で、誰に会い、何を受け取り、どうしたのか、凰は正直に話した。その結果、汚職事件は解決したが、凰の立場は一気に悪化した。

凰は、直接汚職事件に関係なかったとは言え、A銀行の評判を悪くした一人として処分された。立場的には課長職から部長職への出世だが、Z駅前支店出張所はA銀行内でも閑職だったので、事実上の左遷だった。

凰は、その人事をしぶしぶ受け入れた。反抗したくてもその術を知らなかった為と助けてくれる人間が凰の周りには居なかった為だ。それらに気づいた時、凰は初めて自分の人生に疑問を持った。しかしそれ否定したくない為、新しい職場-A銀行Z駅前支店出張所で結果を出そうと決意して就任した。

それから約半年、凰は批判覚悟で、強引なやり方で店舗の業績を伸ばした。少しでも採算が取れない融資の申込みに対しては、無理矢理に採算が取れるようにした。返済が滞っている融資先に対しては、容赦無く回収した。そして凰のやり方にそぐわない相手には、有無を言わさずに処分した。その結果、凰自身の銀行内の評判は最悪になったが、業績は銀行内でトップクラスになり、本店に戻れる目処がつこうとしていた。

しかし一発の銃声が、その望みを粉砕した。

凰の目の前で警備員が撃たれた時、最初は何が起きたか理解出来ず、身体が硬直していた。しかし状況を理解出来た時、凰の自己防衛の思惑と本能が合致し、直ぐ態度に出た。凰は、銀行強盗に最もらしい事を言って、ワザと殴れた。そして端から見て、重傷を負ったように、ワザと大袈裟に痛がった。つまり凰は、他人から同情を買って貰おうとした。銀行強盗が入られた時点で支店長は、例え被害が無かったとしても、何ら責任を負わなければならない。ならばせめて大怪我でもして、その責任を軽くしようと、凰は結論した。

しかしそれも、銀行強盗の急死によって、失敗した。そして凰は、悔恨の思いで、銃を他人に向けた。

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