第33話 ルベールの真実

 アズール達との空の旅は、アズールのハシャギっぷりを眺めてニヤニヤするだけで終わったといっても過言ではなかった。結局第三エネルギーの濃度は足りなかったからだ...

 カルデラ山の最深部。俺たちは入る手段を得ていたじゃないか。そうあの第二エネルギーがある洞窟だ。後ろ倒しにしたつもりはないが、いよいよ調査に入る。


 俺たちは水陸両用ラジコンを山の麓の洞窟に向かわせた。これからいよいよ第二エネルギーの壁を越えるのだが、モニターする場所はドームの中だ。

 シルフと相談したんだけど、ルベールが何か知ってるのなら逆に、見えるところで洞窟内のモニタリングを行うことで、ルベールが関わっているなら出てくるだろうし、無関係なら接触してこないだろう。

 山の麓の洞窟は明らかに自然に出来たものではない。人一人分くらい通れる入り口に第二エネルギーの壁。誰かが意図的に作ったものだろう。その誰かが、ルベールなのか別の人なのかを炙り出したい。ルベールならば、きっとここに来る。それは半ば確信していた。


「じゃあ、シルフ。ラジコンを進めてくれ」


「りょうかいー」


 ラジコンが第二エネルギーの壁を越える時に、ラジコンに乗せていたほうれん草が消し飛んだ。確かにここには第二エネルギーの壁がある。なぜ、ほうれん草なのかは何となくだ...豊作過ぎてね。


 抜けた後の気圧をチェックすると8気圧。外は20気圧なので、第二エネルギーの壁を境にして気圧が変わっている。大気構成も違う。このカルデラ山の中はまるで第二エネルギーのドームのようだ。ドーム内の環境は気圧も気体構成も温度も保たれている。いや、温度は洞窟内部だからこの気温なんだろう。

 地球でもそうだが、洞窟内の気温は年中同じくらいなのだ。それと同じじゃないかと予想する。


 第二エネルギーの壁を抜けると、1メートルほどの幅がある道がずっと続いている。15分くらい進んだだろうか、急に道が開け、巨大な空間が姿を現した。

 天井にはビッシリ蛍光色が繁茂し、空間の中央のおよそ200メートルくらいの範囲に何やら模様が描かれている。

 外郭に正方形、その中央に正方形の直径の半分の円が描かれ、円を囲むように、さらに半径が半分の円が4つ取り囲むといった模様が、ビッシリと描かれていた。

何かは皆目検討がつかないが、きっとこれは、カルデラ山を範囲とした第二エネルギーのドームを稼働させるシステムだ。


「シルフ、これがカルデラ山ドームの動力炉と見ていいのかな?」


[島田さん、それには私がお答えしましょう]


 突然、ルベールのテレパシーが頭に響くが、俺からリベールの姿は見えない。やはり来たかルベール。


[その前に島田さん、どうもあなたたちは私を警戒しているようですから、言っておきますが、島田さんをどうこうしようと思えば何時でも私は実行出来るのですよ。対話し、あなたがたと協力するということを信じていただけませんか?]


 正直かなりドキりとした。分かっていたつもりだったが、改めて言われるまで認識を変えていなかった。こちらからルベールの姿は見えず、ルベールはこのドームまで来ることが出来る。

 それに対し、俺たちはルベールを目で見ることすら出来ないのだ。俺を害そうと思えば何時だって出来る。それをしないし、これまで言わなかったのはルベールなりの俺たちへの誠意だ。俺はルベールの誠意を蔑ろにしてしまった。


「すまない、ルベール。あんたに言われるまで気が付かないとは、本当にごめん」


[信用しろとは言いません。ただ、信頼はしてもらえませんか。私たちは共に似たような目的を持ってるのですから]


「もちろんだ。カルデラドームはルベールが作ったのか?」


[ええ、そうです。あなた方に話すべきか悩みました。しかしながら、動力炉を発見したとなるとお話ししたほうが良いと思ってます]


 話をしなかったということは、俺たちに何か不都合があったと言うことだ。


[島田さん、あなた方は此処に着陸した頃、現地生物を汚染しないようにと言っていましたので]


「なるほど。そういうことか、俺の住む星の基準で言えば望ましくないけど、今ふと思ったことなんだけど」


 一旦言葉を切る。俺の予想通りなら、地球基準でも問題ないと思う。なぜなら、


「この惑星は、元々生命はいなかったんじゃないか?」


[あなたは肉体的には、本当に信じられないほど脆弱ですが、頭は切れますね。あなたの想像通りですよ]


 誰も彼も俺が弱い弱いと、俺だって男の子だぞー。まあいい、俺の予想するに、地球の言葉で言えば、カルデラドームはテラフォーミングの一つじゃないか?

 テラフォーミングとは、生命の住めない星を住めるように改造することだ。


 そして、生命が元々いなかったと言うことは、こういうことだ。


「最初、この惑星は二酸化炭素が今より濃密で、温室効果により、気温が今より高かった。そこで、ルベールはまず惑星に第二エネルギーの壁を張ったんだ」


 まず第一段階。これである程度の熱と二酸化炭素を抑える。惑星に張った第二エネルギーの壁だけでは叶わなかった。だからこそ、カルデラ地下にもう一つ第二エネルギーの壁を張り、環境改善を図った。

 カルデラ地下は元から温度も低かっただろうから、なんとかなったんだろう。もちろん、外側の壁があってこそだが。


[その通りです。さすがです。島田さん]


「ルベールの目的は第三エネルギーを溜めてここを出ることだろ?一体何千年ここに来てから経つのか分からないが、そんな迂遠なことをするんだ。まてよ」


 第三エネルギーが星のコアから出ると言うのは本当かも知れないが、本当に僅かなんだろう。となるとルベールのテラフォーミングをなぜ行う?答えは分かる。


[第三エネルギーは知的生命体が生命活動を終えた時にも現出します]


「ただの生命体じゃないとなるとしんどいな。ここまで来るのに相当の時間がかかっただろう。俺にあんたを害する気持ちは一切ないよ。むしろあんたに憧憬と尊敬の念を覚えるよ」


 何千年も、ぼっちで過ごし知的生命体が育ってからは知的生命体に知恵を与え、アズールたちの種族を育て上げたことだろう。

 長期に渡る孤独な戦いだ。誰にも褒められることもなく、誰にも見られることなく、ただただ長時間黙々とこなす。これが、尊敬せずにいられるか!よく狂わなかったものだ。


「俺の住む星に行けば知的生命体は大量にいるが、誘ってもあんたは来ないだろうな。ここまでやったんだ。最後までここてやるんだろ?」


[ええ、その通りです。最初島田さんを見たときにその考えもありました。しかし、今はこの惑星でここまで来たのです。最後までやり通すつもりです]


「なら俺はルベールの邪魔をしないようにしないとな。少し手伝うくらいならいいんだろ?」


[あなたは本当に面白い。止めはしませんよ。どうぞ]


 その言葉を最後にリベールの気配は消失した。アズールの元へ帰ったのだろう。

ルベールのことは驚異だった。一人テラフォーミング1万年コースとか俺には絶対無理だよ。

 俺たちがまだ文明を持つ前からルベールはホープに訪れ、生命を育むべくテラフォーミングをしていたんだ。来た当初は戻れないにしても、もっと第三エネルギーを持っていたはずだ。少しづつ減っていき、補給の目処が立たないときはどんな気持ちだったんだろう。

 地下に潜っていたのかな。少なくとも今の濃度より第三エネルギーは低かったはずだから、ホープのコアに潜り育つのを待っていたのかもしれないな。しかし、とてもじゃないがルベールに惑星に巡らした第二エネルギーの壁をどうにかしてくれとは言えないな。例え出来たとしてもお願いするつもりはない。

 ルベールの一万年を俺が壊すわけにはいかないから。

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