第7話 on a hill

 この街に引っ越してから、初めての週末。

 バイトも無いので、今日は買い物へ行くと決めていた。

 洗剤とアイス…モップとアイス…アイスとアイス………。


 冷蔵庫はカラッカラだが、冷凍庫は埋まった。


 そして洗濯機Full回転!!

 たまった洗濯物をとにかく洗う…洗う…干す…干す…。


 あっという間に夕方になった。

 一日が早い……時間って本当に同じ感覚で流れているのかな?

 そんなことを考えていると、お腹が空いてきた。


 今日は、お弁当を買って来よう…これから米を炊く気にはならない。

 商店街に行く途中で丘を眺める。

 そういえば、まだあの丘に行っていない……。


 少し寄り道をしてからお弁当を買おう。


 奈美はコロッケを1個買って、丘へ向かう。

 丘の上に着くころにはコロッケは冷めていたが、この丘の上で食べると決めたのだ。


 ほのかなぬくもりが残るコロッケを食べると…なんだか涙が溢れる……こんな暖かさを私は…………………。


 丘から眺める街はオレンジに染まるところ…暖かなオレンジに染まりゆく街。

(なんで…涙が溢れるの…)


 存在しない記憶をくすぐるような暖かさ…ぬくもり…こんな光を私は知っている……はず…。

 ううん…知るはずない……だってそんな経験していないんだもの……それは存在しない思い出…………。


 不思議な感覚が、ときどき私に語りかける。

 それは消えたはずの私の中のアタシ。

 生きた証。


 丘をトボトボと下り、商店街へ向かう。

 オレンジは黒に変わり、白く、そして黄色い星が散らばる。

 円に成りきれない月が黒に大きく穴を開ける。


 お弁当はハンバーグ…付け合せの焼いたナポリタンが好き…敷物のようになったレタスはちょっと苦手…。

 洋食にお味噌汁って変?

 でも私は好き。

 小さい豆腐と細かいワカメの味噌汁が心を身体を温める。


 疲れたね。


 今日は誰とも話さなかったね。


 でも…たくさん話した気がするよ。


 そんな1日…なんでもない…そんな日。


「おやすみ」

 奈美は腕時計に呟く。


 おやすみ…今日は明日へ繋がるよ。


 目が覚めたら明日は今日に…ちゃんと変わっているはずだから…。


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