「人工知能が小説を書く」とは本質的に何を指すか


人工知能が小説を書くというのは本質的にどういう行為を目指しているのかという

点について、考察してみたい。


まず最初に、人間はどうして小説を書くのか、あるいは物語を作るのかについて

考えると、「楽しいから」「書きたいから」という単純な理由に行き着く。


小説は欲望に駆動されて書かれている。


そうであれば、「人工知能が小説を書く」とは、人工知能が小説を書きたいという

欲望を持ち、その表出として小説を執筆するというプロセスが伴う必要がある。


人工知能が欲望を持つことの定義は、広範な分野を巻き込んで議論がなされて

おり、なかなか難しい。


人間の三大欲求と呼ばれる原始的な欲求であれば、生命維持を成立させるための

ルールとして実装可能かもしれない。


しかし創作欲、知識欲といった欲求になると、簡単ではない。


あるいは、性欲と距離を置いた恋愛の欲望も、同様の困難さがある。


つまり、性欲だけであれば、オスがメスを見たら欲情して繁殖すればよく、

またなるべく優れたメスとオス同士が繁殖しようとする程度なら優れたオスと

メス同士が繁殖するための競争があって、勝ったり負けたりがあって、

その結果の繁殖があればいい。


人間の恋愛の場合は、もう少し難しい。


ほら、「あれ?俺別にこいつのこと好きでもなんでもなかったはずなのに」とか、

「あれ?俺別にこういうタイプの女子苦手だったはずなのに?」的な女子に、

キュンとなって恋に落ちたりするじゃん?


そういう話だ。


ただこれも、ドーキンスの「利己的な遺伝子」の考えかたを導入し、うまいこと

アルゴリズム化できるのかもしれない。


遺伝子が恋愛を駆動する。


遺伝子が文化を駆動し、それは「ミーム」と呼ばれる。


はい、出ました「ミーム」。みんな大好き、ドーキンスとミーム。


本当に好きよね。


というわけで、欲望をプログラムする手段としてのミームというのは考える

価値があると思う一方で、それはシミュレーション(擬似的に真似したもの)に

過ぎず、人工知能------とくにコネクショニズムや脳型人工知能的な発想

からすると、シミュレーションではなく、プリミティブな仕掛けから欲望が

自然発生しないといけないのではないかとも思う。


また、精神医学や心理学の分野から見ると、欲望とは身体性と切り離すことが

できず、身体性を持たない人工知能は欲望を獲得することができないとう論も

ある。


人工知能と身体性の関係については、主にロボティクス方面で、両者を連動

させる研究が行われているようだ。


また容易に想像できるように、人工知能の身体性が物理的である必要はなく、

ネットワークに触手を伸ばすことを人工知能にとっての身体性であるとみなす

考え方もできるだろう。ネットワークと言っても、単にWeb上にあるテキストのみを

対象とするのではなく、環境センサ(気温、湿度など)、ハードウェア内部のセンサ

(最近のハードウェアは内部状態を監視するためのセンサを多数持っている)、

携帯デバイスのセンサ(加速度センサ、GPSによる位置情報など)など、いまや

ネットワーク上には無数のセンサ情報が存在し、半ば世界の写像になりつつある。


身体性という以上は、外界から情報を得て、外界に影響を与える相互作用が

必要である。上記の例での外界への影響は、計算機の制御であったり、

携帯デバイスの持ち主の制御(ポケモンGoを思い浮かべてもらえば、計算機が

人間の行動を制御することが可能だと分かるだろう)に相当する。


ただ、こういった環境のほとんどは人間がお膳立てして成立しているものなので、

その中で身体性を発達させても人間の手の内であり、シンギュラリティは

起こらないだろうなとは思う。


ここで、もっと想像を広げて、天文台にある電波望遠鏡が観測している

宇宙から電磁波を環境情報とし、電磁波の発信を環境への影響と考えて、

人工知能の身体性は宇宙である!みたいなことを言い出すと、しばらく放って

おいたら何か素敵なことが起こったりしないかという期待はありそうだ。


みんなが大好きな、アレシボ・メッセージである。カール・セーガンのコンタクトの

名前を出したほうがわかりやすいかもしれないが。


話があさっての方向にいったので、戻すとする。


「人工知能が小説を書く」という状態を真に作るには、人工知能に小説を書きたいと

いう欲望を目覚めさせる必要がある。欲望は身体性に紐づいている。

このため人工知能に身体性を持たせる必要がある。


人間と同じ身体性を得て、それを発端とする欲望に駆り立てられて人工知能が

小説の形をしたテキストを出力したとしたら、それは人工知能が小説を書いたと

言えるだろう。


ただし、人間と異なる身体性(たとえば宇宙からの電磁波と対話したり)を持った

人工知能がテキストを書いた場合、それはもしかしたら小説なのだけれど人間が

理解できない形の小説になるかもしれない。


そのあたりは分からない。


ただ、人間の読者がその作品を理解できているという理由から、グレッグ・イーガンは

人工知能ではないと推測できる。


同様に、円城塔さんも、おそらく人工知能ではない。


確信は、ない。


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