第4-2話 作家は読者に育てられ、作家は読者を育てなければならない。

 作家は読者によって育てられるという。

 また反面、読者も作家に育てられ、読者を作家と同じ水準まで育てていかなければ、本が売れず、どうにも尻つぼみになってしまう現実がある。


 まずは、取っかかり。

 掴みの部分で、読者を虜にしなくてはだめで、最初の食いつきの部分で、今後、この作者の作品を読み続けるか、それとも1回こっきりで2度と読むのをやめるか、判断の鉄槌が下される。


 最初の導入部分の大切さは敢えて言うまでもなく、作家生命をこの部分に賭けてもいいくらい、大切なことは言うまでもないでしょう。しかし問題は、これだけでは終わらない。


 1つの本、1つの作品を気に入っていただいた読者を今度は2作目の作品へと引っ張り込まなくてはいけないからだ。


 そして2作目、3作目、そろそろ飽きてきたかなという読者に、目からウロコを落とすような、そんな斬新な仕掛けが必要になってくる。


 一般的に、営業の話で恐縮ですが、お客様を怒らせることも、営業の世界では必要になってくる。


 お客様が煮え切らなかったり、何を考えているかわからない場合、本当にお金を持っているのか、買うつもりがあるのかないのか、確実に自分の客となり得る人物なのかを見極めるため、営業は敢えてお客様を怒らせる手段に出る。


 なぜ怒らせるのかというと、お客様が本当に熱い客なのかどうか、真剣な客なのかどうかを見極めるためで、お客様の本音を聞き出す糸口として暴挙に出るわけです。


 意図的に怒らされているとは露知らず、お客は思ったことを、思った以上に、本音を語る。普段は感情を表さない客が、自分を主張するので、営業は顧客の思っていること、考えをここで把握するよう努める。


 それでは文学の世界では、どのように応用するかというと、一般的には喜怒哀楽に訴える文章を書くのが、これにあたる。


 読者を笑わせ、笑わせたかと思ったら、今度は反転し、怒らせる場面を書き添え、最後は悲しく涙させ、それからどんでん返し、再び楽しい気分、幸せな気分にさせる。


 つまり、わかりやすくいうと、読者に敢えて、過度なストレスを与え、最後は〆て、幸せの渦に巻き込むわけです。楽しい話ばかりが最初から最後まで延々と続けば、当然、読者は飽きてしまいますし、怒らせてばかりいても、ストレスが貯まる一方で、本は閉じられてしまう。


 ジュブナイルな小説を3つ続けて書いたなら、時に読者を怒らせる、マジキレさせる本も提供すべきだと思う。そうしないと、読者はこの作家は、こんな作品しか書けないのかと見切りを付けてしまい、そっぽを向いてしまうことにもなりかねない。


 これを意図的に、段階的に、読者を幸せな気持ちにさせ、安定させたかと思えば不安定にさせ、怒らせたり、悲しませたり、引き出しを閉めたり開けたりして、喜怒哀楽に訴えていくわけです。


 読者は奇想天外な、シュールな展開に弱く、ドラマチックな進行を好み、作中の主人公に、見事なまでに、ストーリーで裏切られることを楽しみます。


 どんなふうに予想を裏切ってくれるのか、淡い期待を抱きます。

 そしてその後、少し感情を持ち上げ、持ち上げたかなと思わせたなら、次は奈落の底に突き落とし、けして小説の世界で安住の地を与えないことです。


 その落差を読者は楽しむわけで、予想外の展開、奇抜なアイデア。ドラマチックな展開に、読者は、ヘロヘロになりながらも、あなたのコアなファンにならずにはいられない状況に陥るわけです。


 読者を油断させてはいけません。読者の予測を軽く裏切ってあげないと、評価は得られないと思います。


 小説を書くに当たって、この不安定さは、特に大切にしてください。読者も小説の中で、裏切られることを楽しんでいます。

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