第7話

「確かにお前のサポートはありがたいが…動き出してしまったからにはメンテナンスも必要になる。システムを組んでいるうちは、さすがに俺の手にも余るぞ」

 ヒビキの指示で修復できる場所であるならばいいのだが、物言わぬプログラムではなくなったこの状況を、一人で回していくのは難しかった。

 稼働による摩耗で塔の上部までパーツを届けることになれば、今ある機器だけでは不十分だ。手の平に収まるほどの、小さなコンストラクターズマシンでそれらすべてを運ぶもにも限度がある。俺が動けば話は早いが、そうなるとシステムを組み込む時間が少なくなる。

 信頼できる人間を技術者として早急に雇い入れる必要があるな、呟いた俺の前でしばし沈黙していたヒビキはこう応じた。

「それを選ぶのは、僕にさせてもらえませんか」

 たった今まで眠っていた者に当てなどあるはずもないだろう、食い下がった俺に、ではあなたには心当たりがありますか?そう問い返されて言葉に詰まった。


 おそらく俺の一声で集まるのは、権益の預かりを期す者たちばかりだ。

 自ら学び、成長してゆくヒビキを心から支え、育ててくれる者の想像がつかず、ずっとその件を棚上げしてきていた。

「目覚める前、僕はこの世界のあらゆるところにいました。そこで生きるたくさんの人を見てきました。引き受けてもらえるかはわかりませんが、一員となればきっと力になってくれるはずです。条件は…そうですね、招き入れる人が暮らしていたセグメントへの栽培所フードプラント優先設置、完成後はその街で暮らす人々の雇用、および設備完成まで当該地域に暮らす人たちへの、少なくとも一日一食の保障。卑怯なようですが、それを提示したならおそらく彼らは、ここに来ることを飲んでくれるのではないかと思います。…とても、優しい人たちですから」

「セグメントごとだと!?おい、一体お前はどんな奴らを呼ぶつもりなんだ?第一、それほどの食糧を用意できるわけがない」

 困惑する俺に向け、柔らかな笑みを浮かべながらもヒビキは頑固に首を振った。

「あるところにはあることを僕は知っています。フードプラントが軌道に乗った際には、余上分を優先的に買い付け可能にするとの先触さきぶれで、富裕層に先行投資していただけば当面の維持も不可能ではありません」

 確かにヒビキなら、誰がどんなところに何を隠していることさえ、知ることは容易いだろうが…。

「だがそれでも、プラントの建設はすぐに取りかかっても、半年から一年近くはかかる。大昔の租税そぜいじゃあるまいし、いくらなんでもお前たちが死んでも成し遂げろなんて強制はできない。そもそもそれほどの貯えを持つ者もいないだろう」

「確かにそうですが、その点においては考えがあります。ここチヨダエリアは動植物の成長が通常よりも早く、二、三倍は促進されるようです。人体に悪影響を及ぼすほどの基質きしつを変質させるような、遺伝的影響も感じられません。他者を寄せ付けないという立地上、空き地はたくさんあるのですから、あなたの使っているアンドロイドに協力してもらえばまかなえるのではないかと」

 こちらが唖然とするほど鮮やかにそう言い切ると、あっという間にチヨダエリアは緑葉や穀倉の織りなす、夢の大地となった。


 更にヒビキは、見事なる逸材を探し当てて来た。

 当然のことながらヒビキのお眼鏡に適った者たちの中には誰一人として、今日の目覚めを金と権力に見なしていた連中のような、無粋な人間はいなかった。

 彼らは俺以上にヒビキという存在に友情と愛情を持って接し、ヒビキはその中ですくすくと育ち続けている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る