第3話


「ママ、ママ、隣のシンお兄ちゃんが遊びに来てくれたよ」

私は無駄なことと思いながらもママの体を揺すった。

もっとも、シンさんは、遊びにきてくれたわけではなく、家を閉め出されて、しかたなくやってきたのだが…。


シンさんと目があった時、私は、毎日シンさんに恋焦がれていた頃の私に戻ったように、胸がドキドキと高鳴った。

生まれて初めてキスしたときよりも、初めて彼とえっちした時よりも。



「ママ、お薬飲んじゃって起きられないの。シン君によろしくね。適当にお茶菓子出してあげて。せっかく寄ってくれたのに、会えなくて残念だわ」

ママは寝ぼけながらそう言った。

起きて欲しいような、眠っていて欲しいような、複雑な感じだった。



「ゆみちゃん、きれいになったね」

シンさんはにっこりと笑う。

髪の色は変わったけれど、その笑顔の威力は変わらない。

すぐ隣にイケメン俳優がいて、すっかりのぼせあがっているような錯覚に陥ってしまう。

顔が熱を持ったように赤くなっているのが自分でも分かった。


憧れて遠くから見ているからいいのだ。私は思った。

近くにいたら、緊張のあまり息が止まってしまう。


「彼氏できた?」

「一応…」と答えながらコーヒーを出すと、シンさんは「妬けるなぁ」と言った。

お世辞だと分かっていても、切なくて泣きたくなる。

「でも、ゆみちゃん、俺の事好きだったよね?」


シンさんはこんなにデリカシーがなかっただろうか。

「告ってないですよ?」

「ないけどさ。」

シンさんは自信たっぷりに笑うと「見てればわかるよ」と言った。


見れば好意があるとわかる女の子が、いったい何人いたことだろう。

「今は彼氏いるから」

私はあせって答えてから、ソファに無造作にかけられた、シンさんの毛皮のコートをむやみに褒めたりした。

もしかしたら、フェイクファーかもしれないけれど、私にはわからない。


シンさんは私をじっと見ている。

私は、ママが起きてくるか、シンさんが早く帰るか、どちらかにならないかと思った。

でも、「もう遅いからまた今度来てくださいね」とか言って、帰ってもらうことも、できないのだった。


気があると思われてもしかたがない。


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