Disk3-異能

track 21-複製

爆発音が響き、むせ返るような熱気が当たりを駆け抜ける。

空を裂くように建物へと飛ぶ物体は、着弾とともに当たりに閃光と爆風を撒き散らす、稲妻のようなその閃光は、辺りに居た武装兵を薙ぎ払うように地面を這った。


複製レプリカ:キリトリセン』


男の周囲にいくつもの穴が空き、彼に攻撃は通らなかった、自らが使う異能とまったく同じものを目撃した40mPが、俺の隣で息を飲んだ。


「想像以上に色々とやっているみたいだな、どれだけ詰め込むつもりだ?」


EZFGさんが忌々しそうに呟く、その目線の先に立つ男の周囲に、ゆらりと陽炎が揺らめいた。


「手遅れ、ってところか」


複製レプリカ:カゲロウデイズ』


数ヶ月遅れの夏が、辺りを包み込んだ。

想定されていた、最悪の展開だった。


* * * * *


──数日前。


「奪還作戦ね、奪還も何もじんさんは過激派連中の中心人物じゃねぇか、助ける義理は?」

「助ける義理が無くても、彼が捕縛されたままの状況は好ましくない、そこの少年が理由をよく知ってるんじゃないかな」


ATOLSさんに視線を投げかけられたNeru少年がビクリとする、現在のじんさんと同様、一時期政府の施設に捕縛されていたのである。


「……異能力科学再現研究所、奴らの目的は異能者の異能を再現して異能を持たない人間に植え付けること、そして元々異能を持つ人間から異能を抹消する研究もしている」


DECOさんが黙り込んだ少年の代わりに話す、以前俺が犬丸芝居小屋の4人とただのCoさんの戦いに巻き込まれてた際にNeru少年から聞き出していた研究所の名前のようだ。


「気にくわないな、それって俺らのチカラが欲しいけど、手に入れるもん手に入れたらもういらないって事だろ?」


DECOさんが吐き捨てるように言う、捕まってた時のことを思い出してか、Neru少年が少し身震いをした。


「異能キャンセラーも実用化の段階に入っている、ひょっとしたら次にカサイケンとぶつかった時が、彼らとの決着の時になるかもしれない、気を引き締めて行こう」


ささくれさんの言葉と共に、じんさん救出作戦の会議が始まった。


* * * * *


『どうしてちゃんのテーマ』


空中に現れたどうしてちゃんがカミソリを数回降る、壁に入った切り込みをそっと押すと、壁はボロボロと崩れ落ちた。


「出入口の無い塀なんて、奇妙なもの作りやがるぜ」


DECOさんがそっと中を覗き込む、銃を持った男が数名、見回りをしているようだ。


「気付いていないね、いや、そもそも関心が無いのかも」

「罠の匂いがプンプンするな」


DECOさんが警戒しつつも『ストリーミングハート』を使い、バールを取り出す、邪魔しにきたら無理やり吹き飛ばすつもりのようだ。

塀の内側に俺とDECOさん、ピノキオピーさん、ナユタンさんの4人で踏み込んだ瞬間だった、建物の向こうで派手な音がして黒煙が上がる、明らかに作戦には無い挙動だ。


「EZFGさんだ、彼も助けに来たらしい」

「なーんでこう毎回カチ合うかなぁ」


ガギン、と音がする。

先ほどまで銃を抱えていた男たちが刀をどこからか取り出して襲いかかってきたのを、DECOさんがバールのようなもので受け止めたのだ。


「DECOさん、これ異能です!」

「Neru君みたいな異能使うじゃないか、どういう事だ!?」

「それが、異能の名前が見えないんです!」


そう、まるでNeru少年と初めて会った時に見えたように、異能の名前が見えてもノイズで隠されて何も見えないのだ。


『ぼくらはみんな意味不明』


ピノキオピーが異能を発動する、途端に男たちが足を止め、指で輪を作り、その穴からちょうど真上に来ていた飛行機を覗き込み始めた。


「少しの間の足止めにしかならない、さっさと乗り込もう、彼が暴れ始めたからもう隠密も何もないだろう」


『胸いっぱいのダメを』


飛んで行った大きめのバツ印は建物の外壁を貫き、大きな穴を空ける。

空いた穴から建物の中に入ろうと歩き始めたDECOさんの鼻先を何かが掠め、轟音と共に土煙が辺りに舞い上がった。

間一髪で避けたDECOさんは体制を立て直し、土煙の中心へと目を向ける、堅牢そうな塀の一部がパラパラと音を立てて崩壊した。

土煙が晴れ、襲撃してきた物体の正体が見えてくる。

ヘッドギアを付けた、ごく普通の男。


いや、普通と呼ぶには何やら異様な雰囲気が──


鈍い音を響かせ、衝撃波が襲う、男が一瞬で距離を詰め、攻撃を仕掛けてきたのだ。


「なんてやつだ、人間とは思えねぇ」


グニャリと曲がったバールのようなものを捨てながらDECOさんが言う、アレがそれほどまでに変形する攻撃を受けてもそれで済ませるDECOさんも中々の人間離れっぷりだ。


『DECO君、2時の方向、左下から右上に振り抜いて』


どこからか声が聞こえる、よく見るとDECOさんの後方辺りの空中に小さな穴が空いていた。


『3、2──』


声がカウントダウンを始める、DECOさんは一瞬で次のバールのようなものを生成し、構える。


「『1!』」


最後のカウントの声に合わせて、DECOさんがバールを思いっきり振り抜いた。


『キリトリセン』


空中に穴が空き、DECOさんのバールのようなものが穴に飲み込まれる、同時にヘッドギア男の側方の同じ穴が空きそこから飛び出したバールのようなものがヘッドギア男を襲った。

男は大きく吹き飛ばされ、建物へと突っ込む、DECOさんが満足げに笑ってみせた。


「ナイスヒット」

「そっちこそ、最高のタイミングだ」


『キリトリセン』で別の穴を空けて40mPとNeru少年が現れる、心強い援軍だ。


『ハイスペックニート』


40mPが、壁の瓦礫を押しのけて体制を立て直すヘッドギア男をじっと眺める。

手に握っている木の枝を振りかぶり、いつでも反撃できる姿勢を取っていた。


「あの人、ただの人間じゃないみたいだね、まるで何か危険な薬でも使っているみたいだ」


『ハイスペックニート』を使った際に生じるステータスアップを使い40mPが未知の相手の解析を始めた。


「どっちにしろ作戦は失敗だ、一旦引こう」


DECOさんがその場にいる全員に声をかける、俺を含めた同行者全員が頷いて40mPが空間に切り込みを入れた。


『複製:如月アテンション』

『複製:空想フォレスト』


40mPが開けた空間の穴に入ろうとしていた全員の動きが止まる、見覚えのある名前が頭に浮かんだ瞬間、俺は最悪の状況を想像した。


「皆さん、振り向いたら──」


ヘッドギア男の方を見ようとする全員に注意を促そうとする、だが間に合わない、何故なら俺も体が勝手にふり向こうとしているからだ。

上空から甲高い音がし、何かが飛んでくる、地面に落ちたそれは激しく炸裂し、雷のような閃光と轟音を伴う爆煙を巻き上げた。


「ここまで徹底的に無視されたのは初めてだよ」


EZFGさんの声だ、声のする方を見ると、塗りつぶされた空間を足場にこちらを見下ろす彼の姿が見える。

爆煙が晴れる、ヘッドギア男は強襲してきたEZFGさんに対して動揺した様子も見せずに小さな器具を取り出し、首に押し当てる。

プシュ、とガスが抜けるような音がして、男はニヤリと笑いその器具を投げ捨てた。


「させるか」


EZFGさんがすかさず『サイバーサンダーサイダー』を使い男へと弾幕を浴びせようとする、しかしそのサイダーの弾はデタラメな方向に逸れ、建物や地面を壊しただけだった。


『複製:キリトリセン』


確かに『サイバーサンダーサイダー』が男に着弾する直前、その文字列が頭に浮かんだ、男の周囲には見覚えのある切り込みと穴が浮かんでいる。

プシュ、またあの音がして器具が地面に落ちる音がカラン、と鳴った。


『複製:カゲロウデイズ』


ゆらりと遠景が歪み、季節遅れの夏の暑さが押し寄せる。

想定されていた最悪の展開が目の前で起こっていた。


「異能を再現する薬品……」


40mPが僅かに震える声で呟く、同時に、頭上でガランガランと金属のような音が響いた。


「異能力科学再現研究所の皆様、お初にお目にかかります」


陽炎や暑さがフワリと溶けるように消える、色々な異能でボロボロになった建物の上に2つの人影が見えた。


「そのチカラは僕らボカロPのモノだよ、何故君らがそれを持っているか分からないが、これ以上の好き勝手はやめてくれないかな」


背の高い方の男が言った、逆光でよく表情が見えないが、一瞬見えた異能の名前でその正体は一瞬で分かった。


「ストリーミングハートが使えない、異能キャンセラーか?」

「いや、キリトリセンは使えるみたいだよ」


隣で話す2人を見て、俺はヘッドギア男の異能が突然止まった理由を理解した。


「あの人の異能ですよ、それならそこの人たちの刀が消えてないのも納得できます」


俺はそう言って建物の上の方を凝視した。

この場のいくつかの異能を完全に止めてしまった、あの人の異能。

その名前は俺の異能が消されてしまう前に一瞬だけ見えた、よく知っている曲の名前だった。


「『初音ミクの消失』の影響か、厄介な人が来たもんだ」


男の存在に気付いたDECOさんが、苦々しげに呟いた。


────────────────

ピノキオピー

異能

5-ぼくらはみんな意味不明:異能を使った対象に「特に意味のない行動」をさせる。

出力を上げることで思考に影響を及ぼすこともできる。


40mP

異能

7-ハイスペックニート:発動するとIQや身体能力等、自身のあらゆるステータスがアップする、重ねて使うことで3段階までステータスアップの影響が出るが、そこまで使うと激しい異能酔いを起こすため通常は1段階目のみしか発動しない。

異能を使うとオマケとして木の枝が生成される、木の枝を投げつけて攻撃対象と認識した相手にヒットさせると相手の目の前までワープすることができる。

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