エピローグ

「なんですか?」


 教会の中には公宮外殿の偉そうなローブを着た5人が、まるで僕を待っていたかのように振り向いた。


 これはあれか?

 また騎士団の連中のように、いちゃもんを付けに来たのか?


 僕はそう思い早速気持ちを戦闘モードへ……って、あれ?


「シャルル殿、ありがとうございました!」

「公国の危機を助けていただき……」

「さすがにお嬢が見込んだだけの……」

「救国の英雄とも言うべき行動……」

「赤いと3倍という勇者の格言は本当だった……」


 若干気になる事を言っているのが1名いるが、ローブを着た男達は、口々にお礼を言い始めた。

 話を聞いているうちに理解が出来てきたのだが、どうやら騎士団のクーデターを阻止した事になっているようだ。


 ボナバとジュリアンは、まずは生き残っている公宮外殿へ押し入り、主要人物を軟禁。その上で、公王陛下弑逆の犯人として僕を確保しようとしていたらしい。


 ところが、主犯2人がいなくなった事で、残った騎士達は身の振り方に困り、さっそく自分たちは巻き込まれたと主張すべく、外殿で軟禁されていた彼らを解放したらしい。


「僕は、自分の身を守っただけですよ」


 実際に国を護ったなんて意識は全く無い。だが、それでも心配はしている。


「アマロ公国はこの後、どうなっちゃうんですか?」


 僕の質問に彼らはお互いの顔を見合わせ、


「実は……」

「全滅したと思っておった公王一家ですが……」

「一人だけ生き残りが……」

「現在、ダビデ王国の王立魔法院付属ビッチェ校に……」

「一番したの公子殿下が通われていて」


 なんて事を言い出した。

 ああ、いやな予感がするよ。


「シャルル殿、貴殿はこれからビッチェへ向かうと聞きました」

「どうか、どうか公子を保護して……」

「公子殿下だけが最後の頼みの綱! 近衛騎士団に頼る訳には参りません!」

「お嬢とも一番仲良かったご兄弟でして……」

「ひらに……ひらに……」


 そう口々に言って、とうとう教会の床……といっても土間だけど、そこに足をついて、土下座を始めてしまった。


「わ、解りました! 解りましたから! ちょっとだけ……ちょっとだけですよ。向こうに着いたら、その王立魔法院とやらに顔を出して、公子殿下? ……に状況を伝えます。こちらへ連れてこられるかどうかは、その時次第ですよ」


「「「「「よろしくお願いします」」」」」


***


 可能な限り、公子は保護をする、その代わりにカーラの残された子供がどうなっているのか、必要があれば保護をして欲しいと、5人には伝えた。


 確か、僕と同じ4歳。

 カーラの元夫はアマロ家の親戚だと言っていたので、公宮でヘドロ人間になった可能性が高い。だが、4歳の子供まで公宮にいたとも思えないし、僕が斬った中にいたなんて思いたくない。


 もし無事なら……僕が保護しても良いとまで考えている。重ねて言うが、同い年だけど。まぁ、今更か。


 とりあえず双方が頼み事をして合意点を見いだしたという事で、ローブ5人衆には帰ってもらった。


 さて、次のイベントは、孤児院のみんなと、赤い悪魔団……恥ずかしい……その赤いナントカ団の面子の顔合わせだ。


 まずはエリカからだと言うことで、早速ナントカ団に紹介する。


「こちらが、この孤児院を取り仕切っているシスター・エリカ」

「こんにちわ。みんな」


「「「「「「「こんにちわー」」」」」」」


 おお、良い返事だ。

 ノリがノリなだけに心配はしていなかったが、やはりエリカの事は受け入れてくれたようだぞ。


 だが問題は同い年の子供同士。微妙な関係にならなければいいのだが……


「可愛い!」

「ネコ耳だ! あ、ウサギもいる!」

「白黒クマ、かっけー」


 ……なんて心配していた頃もありました。


 孤児院の子供達がバタバタと出てきて、あっという間になじんでしまった。

 アルスとイヌ君は元同名同士という事もあるのか、通じるものがあるらしく、しばらく見つめ合った後、ニヤリと笑い、固い握手を交わしている。


 その後、みんなで孤児院と教会から必要な荷物を馬車に運び入れた。

 倉庫にあったカーラの荷物は、一応中を確認した上で孤児院の中庭で燃やした。なぜだかそうする方がいい気がしたのだ。


 21人のうち、20人が子供だという事もあるが、これだけ乗っても、かなりゆったりとしたスペースがある。アルスとイヌ君は、馬車を引かない馬の上に乗りたがったので許可した。


 僕はクマの後ろ、天井のひさしに腰をかけ、その横にスンも座る。一応、見張りのつもりだ。その後ろにはシノブが相変わらず腹ばいで張り付いている。 


 最後にエリカが戸締まりを確認し、馬車に乗り込む。


「シャルル君、いいわよ」

「よし。それじゃ、ビッチェへ向かって出発!」

「「「おー!」


 こうして、総勢21名の赤い悪魔団一行……だって、イヌ君とタロウが張り切って、馬車にそういうプレートを掲げちゃったし……は、公王一家を喪った公都アラルコンを後にし、一路、目的地へ向かうのであった。




 4歳児だった僕の最後の冒険の地となる、アマロ公国とオドン公国の国境の街ビッチェへ --

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