ミコト × 99

まじろ

ミコトのメキメキ、キャラメイク

第1話 ミコト × 1

「前樫中出身、一年A組の長谷川ミコトです!好きです!付き合ってください!」


 放課後の屋上、少女の告白が彼方に広がる夕焼け空に響く。肩までかかる髪を掻き上げるように顔を上げると、目の前に立つ制服を着崩した長身の少年が少女を見据えて言いなれた口調でこう、告げた。


「ごめん、気持ちは嬉しいんだけど無理だわ」


 短く喉を引き上げた少女の間を冷たい風が突き抜けていく。


「俺、この後部活あるからそれじゃ」


 踵を返して屋上入り口の非常口の方へ歩き出す少年の後姿に少女は震える右手を差し伸ばした。


「ハヤトくん!......あ、行っちゃった」


 少女の呼びかけは大雨防風のために厚く作られたドアの開閉音にかき消された。辺りにいた他のカップル達がひとり残された少女をちらり見たが、やがて再び彼ら2人だけの世界に没頭していく。その中で少女は両拳を握り締めて口唇を噛み締めた。


「そんな、ひどいよ。ハヤトくん」


 長谷川ミコト、16歳の初恋はここで終わった。


「私の何がいけなかったんだろう......」


 告白の緊張から解き放たれた開放感と失恋に打ちのめされた絶望感が混ざり合った感情を胸に、ミコトは自身が思い描いていた青春への諦めにも似たため息をついた。ミコトは周りのカップルから時折浴びせられる視線と自分の姿に居た堪れなくなり、その場から消え、校舎を出て自分の家へと空っぽになった胸のうちを抱えながらのろくさと向かった。


 帰宅後、自分の部屋に戻るとミコトは制服姿のまま化粧台の前に座り、虚ろな目で鏡の中の自分の姿を見つめた。


 中途半端に手を入れた眉の下にアイプチで引っ張り上げただけの一重目蓋、低くて横に広がったにんにく鼻。突き出た薄い両口唇と対照的に引っ込んだ顎、浅黒い肌の頬の両端には涙の後が伝っている。お世辞にもかわいいとは言えないこんな私を好きになってくれる訳ないよね。


 甘酸っぱい初恋はほろ苦い失恋に変わった。


「この顔を変えて、もう一度、ハヤト君に告白できたら......」


 すると化粧台が光りだし、ミコトの姿が光に包まれた。「な、何!?」


 六畳の部屋からミコトの姿が消え、辺りが静寂に包まれた。

開いた窓からカーテンが揺れ空になった空間に風が流れ込んでゆく。


「......ここは、どこ!?」


 まばゆい光の中で目を覚ますとミコトの身体は宙を浮いていた。


「これは夢......?」


 周りを見まわすと、そこには規則的に並べられた光の壁が浮かび、例えるならノートタブレットのような大きさの額ぶちには人間の、顔のパーツが当てはめられていた。


「この中から、好きな顔を選べって言うの?」


 無数に散らばった壁の中にはさまざまな形をした目鼻、眉のラインや身体の部分まであった。これらの中から自分が好む『新しい自分』を創り出してみせろ、と言うことなのだろうか。


奥にある扉がミコトを急かすように輝きを強めた。


 壁のひとつを手にとって見る。大きく、魅力的なふたつの瞳が収められている。


 こんな目になれたら......そこでひとつの考えがミコトの頭をよぎった。


 (...これってもしかして整形なんじゃ......)


 さすがのミコトにも自分の容姿を簡単に変えてしまうことには抵抗があった。


「でも、」それでハヤト君が私に振り向いてくれるのなら...ミコトは意を決して自分の身体の部品を選び、その光の中に身体を投げ出した。


 もし、もう一度新しい自分でハヤト君に告白できたなら......そんな希望を抱いてミコトの身体は深い闇へ落ちていった。


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