第13話、進攻

「 本日、正午をもって、クレンメリー渓谷の外れ、302高地に陣取ったネルソン少佐の政府軍 第46師団 第3砲兵連隊の長距離砲部隊が、一斉に砲撃を開始する。 302高地は、アンドロイド軍の有効射程距離範囲外に位置している事を考慮し、護衛はわずかとし、ほぼ全兵力を前線の特攻部隊へ振り分け、アーノルド少佐の第4師団の機械化歩兵部隊、ヘインズ少佐の第109空挺師団らが中心となって、ライトポリスへの進攻を始める 」

 作戦要項を読み上げる、パーク中佐。

 双眼鏡をのぞいていたロメルが、言った。

「 ・・ここから先は、ナニも遮蔽物が無いな・・! 砂丘も無く、真っ平らの砂漠だ・・ 」

 彼方の地平線に、構造物群が見える。 幾つかの高層ビルに、ドーム型をした建物、細々としたビル・・・ アンドロイドたちが、打建てた理想郷・・ ライトポリスである。

 ロメルを始めとし、パーク、ヘインズたち主力部隊は、ライトポリスを望む、最前線まで来ていた。

 ヘインズが、遥か先に霞むライトポリスを見つめながら、静かに言った。

「 ある程度の犠牲は、覚悟の上だ。 オレたちは、ライトポリスに潜入する特殊部隊から、ロボ共の目を引き付ける役でもあるのだ。 任せておけ・・! 第4師団のクラッシャーズたちと協力して、ハデに動き回ってやる 」

 地上白兵戦は、ヘインズたち空挺師団の、お家芸だ。 しかも今回は、アーマーを装備したクラッシャーズたちがいる。 更には、燃料を満タンにした第3軍・政府軍 第12師団の機甲師団もいる。 思い通りの戦術が採れるシチュエーションに、ヘインズは、やる気満々のようだ。

 ロメルから借りた双眼鏡をのぞきながら、アーノルドが言った。

「 ・・カタパルトが、見えるな・・! コブラ以外に、航空機の攻撃も有り得る。 対空機関砲を、前面に配備して進攻した方が良さそうだな 」

 ロメルが言った。

「 ウチのエアクリーナーも、使ってくれ。 あんたの部隊の指揮下に入るよう、伝えておく 」

「 助かるな。 オレの部隊に配給されているのは、3連の17ミリだ。 おたくのは、20ミリの4連・・・ しかも、自動追尾式ときている。 羨ましいね 」

「 改造したのさ。 ワシら、レンジャーにゃ、あまり最新式装備は回って来ない。 長期遠征ばっかりで、駐屯地には、ほとんどいないからな。 戦地で遺棄されたモノを、改修修理して使うんだ。 形式は、てんでバラバラだが、おかげで大隊なのに、連隊規模の装備になったな 」

 ウインクしながら答える、ロメル。

 パークが言った。

「 1個大隊だと侮り、早々に戦闘を開始してしまった我が友軍は、痛い目にあったものだ 」

「 昨日の敵は、今日の味方・・ お互い、過去は水に流して、人類の存亡危機打破に、全力を注ごうじゃないか 」

 苦笑いしながら答える、ロメル。

 パークは言った。

「 同感だ。 もう2度と、貴殿の部隊との交戦は、御免被りたい 」

 その時、傍らにいた政府軍の無線士が、ヘッドホンを首にずり下げながら叫んだ。

「 パーク中佐! ライトポリス東方、約5キロで、戦闘が始まりましたッ! 」

「 ・・なっ・・ 何ッ? 始まったとは、どういう事だ? 」

 血相を変えて答える、パーク。

 ロメルが言った。

「 ・・ワシらが突っ込む予定だった所で、か・・? 」

 ヘインズが、双眼鏡で確認しながら言った。 2時の方向に、立ち上がった黒い煙が、幾つか見える。

「 手薄にしていた所を、突いて来たな・・! メインは、コッチで、ロボ共の目を引き付けておく手はずだったんだからな・・! 出来れば、戦闘は起こさず、ロメルたちが潜入し易くしておきたかったが・・ ロボ共は、イッキに反撃に出るつもりか? 」

 無線士は言った。

「 コブラが数機現れ、攻撃を仕掛けて来たようです! 尚、ジミーとサムの合併部隊が、1個大隊、展開しているようです! 」

 パークは、腕組みをすると、しばらく考え、皆に言った。

「 ・・諸君! 作戦行動を早めよう! 東方の戦闘を、収拾している余裕は無い。 砲兵連隊に、攻撃の指示だ。 ロメル少佐も東方指揮所へ戻り、待機だ。 攻撃はせず、防御応戦程度で耐えてくれ・・! 突入の力を、温存しておいてはくれまいか? 」

「 了解した! まずは、ハデに、コッチでやってくれ。 『 訪問 』は、コッチの、正面での戦闘情況を見定めて行う。 武運長久を祈る・・! 」

 各指揮官たちが、敬礼し、各々の指揮へ走る。

 遂に、戦闘の火蓋は切って落とされた・・・!



 ライトポリス東方・・・

 廃墟ビルの陰に、第1レンジャーの部隊章を側面に描いた装甲車が見える。 砲弾の着弾した跡が、点々と残る砂地。 破壊されたアンドロイド軍の装甲砲車から、黒い煙が立ち昇っている。 その向こうには、撃墜されたコブラと思わしき、戦闘ヘリの残骸が散らばっていた。 辺りには、上半身をフッ飛ばされたサムの残骸・・・ ひっくり返った兵員輸送車の横では、片腕を、キイキイ動かし続けているジミーが転がっている。

 約、3キロほど先が、最前線らしい。 時々、機銃音が聞こえ、散発的な戦闘が続いているようだ。

 棚引く煙の後方に、かすむように見える、ライトポリス・・・

 指揮所にしている、崩れかかった3階建てビルの屋上から眺めながら、ロメルは呟いた。

「 ・・待っとれ、ロボ共・・ もうすぐソコへ、行ってやるからな・・! 」

 遠くから、ズシン、ズシンと、砲弾が炸裂する音が、絶え間無く聞こえる。 砲兵連隊の砲撃だ。 先程から、1時間は続いている。 頼もしいBGMである。 正面からの攻撃は、打ち合わせ通り、順調に行われているようだ。

「 攻めて来たのは、様子見がてらの部隊だったようです。 3軍からバッファローを借りていたし、第4師団に行く前のエアクリーナーがあったから、コブラにも応戦出来たし・・ ペレス叔父さんが、不在の大隊長に代わって指揮を取り、応戦してました 」

 ターニャが報告した。

 ポケットからタバコを出し、火を付けながら、ロメルが答える。

「 ロボ共め・・ ワシの留守中を、狙ったかのように来おって・・! クライド伍長の容態は、どうだ? 」

「 迫撃砲の破片を、右足に受けまして・・ でも、元気でしたよ? しばらく、後方の野戦病院で休養ですね 」

 ターニャの報告に、安心したような表情で煙を出す、ロメル。

「 そうか・・ 命に別状が無く、何よりだ。 お礼は、たっぷりしてやらんとイカんな・・! 」

 その時、ビルの下に軍用バギーが止まり、2人の男が降りて来た。 デザートパターンのTシャツに、政府軍の士官用軍服を着た2人・・ リックと、デンバー軍曹である。

 ロメルは気付き、声を掛けた。

「 ヤンキー! エリート野郎ッ! 良く戻ったなッ! 歓迎するぞッ! 」

 上からの声に気付き、見上げる2人。 手を振りながら、デンバーが言った。

「 いいモン、持って来ましたよ~、大隊長ぉ~! 」

 手には、ウイスキーの瓶が握られている。 ロメルは、笑顔で答えながら言った。

「 早く、持って上がって来んか、貴様ぁっ! 戦利品は、皆で分けるモンだぞ、バカモンがぁ~っ! 」


 屋上に上がって来た2人を迎える、ロメル。

「 よくやってくれた・・! これで、ロボ共と戦える! 」

 デンバーが、ウイスキーの瓶をロメルに渡しながら言った。

「 過去に無いほどの大部隊が、大集結してますね! 主力部隊のパーク中佐の所に行って参りましたが、大隊長たちは、こちらだと聞きまして・・ 」

 デンバーから渡されたウイスキーのラベルを見ながら、ロメルは答えた。

「 パーク中佐の政府軍 第12師団と、ネルソン少佐の政府軍 第46師団・・ それと、アーノルド少佐の第4師団は、主力と見せかけた囮だ・・ 我々、第1レンジャーが、機を見て、ライトポリスに潜入する・・! 」

 大まかな作戦を聞いて、事の重大さに気付き、無言になるデンバー。

 一旦、潜入したら、戻って来られる確率は少ない。 敵の中枢の、ド真ん中へ行くのである。全滅する可能性もあるのだ・・・!

 リックが尋ねた。

「 ・・あの砲撃は? 」

「 ネルソン少佐率いる第46師団所属 第3砲兵連隊のロング・トム( 長距離砲の愛称 )だ。 クレンメリー渓谷の外れにある302高地から、長距離砲撃をしている 」

 ロメルの答えに、雲に覆われた遥かな空に目をやりながら、リックは言った。

「 155ミリか・・ どうりで、地響きがするような着弾音だ。 ・・では、そろそろ第4師団のクラッシャーズたちと、109空挺の出番ですか・・・! 」

 グレーにかすんで見える、ライトポリスを見つめながら、ロメルは言った。

「 そういう事だ。 ワシらの出番も、真近だな・・ この酒で、杯を酌み交わすか? シングルモルト、ヒッツバーグのランカスティー15年・・ ハイランドの最高級品だな 」

 リックは言った。

「 ・・大隊長。 そいつは、勝利の祝いの為に、持って来たものです。 この戦いが終わったら、皆で飲み干しましょう・・! 」

 ロメルは、ニッと笑いながら、ニックを見つめた。


「 第4師団、突入開始ッ! 政府軍 第12師団の機甲部隊も、進撃を開始しました! 3軍・25軍の混成旅団も突入開始! 」

 1階の、無線室にした小部屋で、無線士が叫んだ。

 ・・・いよいよ、戦闘開始である・・・!

 遠くからは、迫撃砲弾の炸裂する音や機銃音が聞こえる。

 ロメルは、無線室隣の会議室のような大部屋に、現在、この廃ビルに待機している第1レンジャーの、全隊員を集合させた。 ペレスをはじめ、デンバー・フーパー以下、約25名である。

 ロメルが言った。

「 諸君・・! 遂に、主力部隊が交戦状態に入った。 本来の予定では、まだ準備段階であったが、ここ、東方域前線では、約3キロ先の最前線で、戦闘が始まってしまった。 本部は、現在の布陣を崩される前に、作戦の開始をする方向に決議を下した・・! 我々の任務は、ライトポリスに潜入し、ロボ共の中枢であるメインコンピュータを破壊する事にある 」

 一同、じっとロメルの説明を聞いている。

 ロメルは続けた。

「 3キロ先の最前線では、散発的な戦闘が続いているが、これに応戦しているA中隊・B中隊と共に、ライトポリス東方の第3エリアから突入する・・! ライトポリス内の見取りは、略図を作成した。 各、下士官から配布する。 小隊ごとに行動し、何が何でも任務を遂行せよ! 人類の興廃は、我々、第1レンジャーの働き如何に懸かっている事を忘れるな・・! 」

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