十六夜

闇が垂れこめて月が番人のように空に昇る頃、どこからか汽笛の音が聞こえてくる。

海なんてどこにもないのに、この日この時間になると耳鳴りのように聞こえる。


もうだいぶ昔のことなのに。もうあの街からも引っ越したのに。

でも空は知っている。あの日、僕が君を裏切ったことを。


少しの勇気を出して君を見送りに行っていれば、少なくとも君との繋がりは今でも切れていなかっただろうに。

いつかあの海を渡って行けただろうに。

でも僕は自分の心に正直になることはなかった。

あの日も月が、僕を責めるように見つめていた。


今年も自分自身を責める声が潮騒のように僕の頭で鳴り続ける。

今日は十六夜。

ゆっくりと昇る月が、僕の後悔の時間を長くする。

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