【短編】ゴミ捨て場にて

笹倉

『ゴミ捨て場にて』

 僕は大きな白い箱の中に住んでいる。

 扉が一つと窓が一つ。それ以外は白い壁、床、天井。味気ないんだか、シンプルなんだか。まあ、何事も物は言い様だろう。


 僕の家から一歩外に出てみると、そこは一面のゴミ山だ。誰が捨てたんだか分からない瑣末でくだらないガラクタが、なだらかな勾配を作っている。山の先には山があり、更に先にも山がある。キリがない。果てしない。その中に半ば埋もれるように、僕の家と同じような白くてカクカクした、立方体の家がところどころに建っていた。


 僕は無言で空を見上げる。青い空に浮かぶ太陽が憎らしげに照っていて、どこか僕を見下しているようにも見えた。負けじと睨みあげてやるのだが、太陽に変わった様子はない。嘲笑っているのか、我関せずと決め込んでいるのか。判断はつかない。しかしとにかく、僕はこのゴミ山を照らす太陽が心底嫌いで仕方がない。もしかしたら光り輝く面だけを常にこちらを向けていて、裏側は真っ暗闇なんじゃないかとも思う。


 さて、話をゴミの方に戻そう。

 ここには毎週水曜日、ゴミ回収車がやってきてゴミを集めて持っていく。その集め方がかなりいい加減で、この果てしない山のうちのほんの少しだけを車に積むだけだ。ここがこれほど立派なゴミ山になってしまったのは、そのせいもある。

 しかし、今日は回収車は見当たらなかった。家にはカレンダーがないから日にちが分からないのだが、少なくとも今日は水曜日ではないらしい。


 勾配のあちこちには、僕の家とまったく同じ形状の白い箱が鎮座している。そして僕と同じようにそこから住人たちが出てきて、ゴミを捨てたり物色したり拾ったり、はたまた途方に暮れたように家の前で突っ立っていた。


 そうやって僕がゴミ山を観察していると、全裸の男が意味のない奇声を上げながら目の前を全速力で通り過ぎて行った。ああいう輩をここではよく見かけるが、一体何を考えているのかさっぱりだ。しかし、触らぬ神に祟りなしという言葉もある通り、触らなければ基本的に害はない。あくまで基本的にであって、完全にではないのだが。

 とにかく早々にゴミに埋もれて死ねば良いのにと思う。あの全裸男にしろ僕にしろ他の住人にしろ、だ。

 ゴミだらけのこの場所には、確かに昨日もあれば今日もあり、今日があれば明日もある。そんな惰性で過ぎ去る無駄な時間の中で、僕たちができるのはゴミを量産することだけだ。だが、一体、あの全裸男の奇声と僕たちが捨てるゴミに、どれほどの違いがあるというのだろう。


 それでも、僕は今日もゴミを捨てている。たぶん明日も。それがどれだけバカなことなのか分かっているはずなのに、僕はそれをやめることはできないのだ。

 

 しばらくして、僕はまた空を見上げた。

 

 少しばかりああでもないこうでもないと思案した後、僕はずっと掌に握っていた鉛筆で頭を掻いた。すっかり小さくなった鉛筆で、稿にこう書きつけた。


『ゴミ捨て場にて』


 僕はそれを丸めてほうった。それは意外なほど綺麗に弧を描いて、遠くに飛んでいく。

 そして、ゴミの山の中に紛れて、あっという間に見えなくなった。


 気づけば、もう夕暮れだった。

 太陽は変わらず憎らしげに僕たちを照らしていた。


 しばらく突っ立ってゴミを投げた方角を見ていたが、とうとう日が沈み切ったので僕は家に帰ることにした。もう外にいるのは僕くらいだった。

 何かを誤魔化したくなって、僕は少し口笛を吹いて、スキップをする。足元の紙屑が存在を主張するようにガササと鳴った。僕はそれを無視して、ただ思考を明日へと向ける。



 さて、明日はどんなゴミを捨てようか、と。


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