グリムノーツ 流浪民の想区

ITSUMONO

第1話 普通の想区


 レイナの直感にしたがい沈黙の霧を進み一行が到着した想区は、大理石で建築された壮大な建物が並ぶギリシャ神話の想区であった。


 想区の人々は皆、楽しそうに日常生活を送っているように見え平和そのものだった。また、街は綺麗に整備され皆規律を守り治安の良さが行き届いているのは誰の目から見ても明らかであった。


 タオが少しだけ怪訝そうな表情でレイナにつぶやくように言う。

「なあ、レイナこの想区に本当にカオステラーがいるのか?なんかどこにでもあるような想区としてか見えねえんだけど」


「おかしいわね、確かにあのゾッとする感覚がしたのだけれど」


「今回ばかりはお前のポンコツぶりが発揮されたんじゃねえの~ハハハ!」



 ボコッ!



 それは先ほどシェインが拾った胡桃をレイナがタオに投げつけ見事に後頭部にクリーンヒットした音であった。



「痛ってててて~」


「あなたなんか、沈黙の霧の中で置いてけぼりになってればいいのに!バーカ!」


「タオ、からかうのは止めたほうがいいよ、ほらもうそろそろ想区の中心部に到着するよ」



 想区の中心部に到着した時、大きな時計台が立っており人々はそこから湧き出ている泉から水を汲んでのどの癒しを得ていた。


「あれ、あれはなんだろう?」


 好奇心が強いシェインが時計台の傍に言ってある一点のじっと見ている。時計台の上には70cmくらいの緑色に光る板が掲げられていた、その下には何か説明書のようなものが銅製のレリーフで彫ってあった。

「兄い、あれなんだろうね?カルネアデスの板って書いてあるけど」

「う~んすまん俺も何だか分らないエクス分るか?」


「あっあれは確か、有名な伝説の板の事なんじゃないかな」


「伝説の板?」


「うん、昔ある男が航海中に船が難破して海に投げ出されたんだ、その時男はおぼれそうになったけど、運よく流れてきた板にしがみついて助かった、後から別の男が流れ着いてきて、その男も板にしがみつこうとしたけど、最初の男は後から来たその男には板に捕まらせず、その男は溺れ死んだそうだよ、その男の怨念が染み付いてしまい、以来その板を持つものは、強大な攻撃力をもつが、もし邪悪な心を持って相手を攻撃した場合、相手は助かり逆に自分自身が命を失うと言われている、恐ろしい呪いのアイテムという噂を聞いた事があるけど」


「へえ~エクスはなんでも知ってるね~」

「本当、誰かさんとは大違いね!」

「うっせえな~」


 その時一行はシェインのお腹が鳴っていることに気付いた。


「シェイン、腹の虫がなってるぞ。まだ11時だぞもう腹が減ったのか?」

「そっそんな事、レディの前でいっちゃだめだよ兄い!」


「まったくナルシストなくせに、フェミニストにはなれない、自分以外の事はどうでもいいのね、やはりあなたにはリーダーは向いていないようね」


「何おう~言ったな、さっきお前だって通りの果物屋とかお菓子屋の店先をチラチラ見てたじゃねえか、よく言うよ」


「なっあっあれは、シェインに何か買ってあげようかと思って、お腹空いてそうだったから」


「うう~二人とも結局私を子供扱いする~」


「まあ、まあ、僕も結構お腹空いてきたからどこかへ入ろうよ」


 一行は目に止まった小さなレストランに入ることになった。


 レストランの店主である親父は最初よそ者であるエクス達を怪訝な表情で見ていたが、レイナの顔を見ると態度を一遍させ数多くの種類の豪勢な食事をわずかな料金で出してくれた。



「うわ~兄い、姉御、とっても美味しそうだよ、嬉しい!」


 シェインは先に出されたサラダを少し口をつけると次の肉料理を大口で食べ始めた。


「おい、シェイン、兄貴分としてお前の食い意地はちょっと恥かしいぞ!」


「いいじゃないですかだって、兄いだって口の周りケチャップで汚れまくってるじゃない」


「シェインも、タオもいいとこ勝負だな」


 レイナが顔を少し赤らめて恥かしそうに店主に言葉を掛ける。


「何かすいません、こんなに良くして頂いて、もう少しならお支払いできますが」


「いっいやあ、いいんですよ、私が腕を振るった料理を今日は沢山堪能していったください、特にシェインさんのあの食べっぷり見事ですな見ていてこっちも嬉しくなりますよ」




「二人とも、子供みたいな真似はちょっと謹んでもらえる?」


「姉御、ゴメン!」

「わかったよ、しっかし流石ポンコツ姫でも、食べ方は上流階級出身だから上品だな」


 ボコッ!


 瞬時にレイナはそばにあったレモンをタオの頭にヒットさせ、タオはうずくまる。


「痛っつう~」

「タオ、もうその位にしたほうがいいよ」

 

 レイナは少し咳払いをして言葉を続ける。

「そうですか、しかしお言葉に甘えるのも良くないと思いますので、ここの御代の代わりと言ってはなんですが食事の後ここにいるタオという男がおります、何もできない能無しですが、皿洗いくらいはできますので、良かったらこき使って頂けますか?」



「おい!俺はお前の召使じゃないんだけどな!」


「黙りなさい!」



「いっいや~そんなお気を使わず、そんな見返りはここでは期待してはいかんのです、この想区では、全ては神の御心に従うのみそしてわが想区の神父のご意志に従うまでです」


「そうですか、神父様が治めていらっしゃるのですね」


「はい、皆がこうして安心してくらせるのも神父様のおかげだと思っております、いかがでしょう?もし皆様今日お泊りになるところが無ければ、この想区には残念ながら皆様全員をお泊めできるようなホテルがございません、神父様に頼みますので教会の部屋にお泊りいただけるよう、私が手筈を整えましょう」


 レストランを出ると、タオが猜疑心を強くした表情を浮かべ言った。


「おい、ここに来たのはそもそも、レイナがカオステラーの気配が強く感じたからだ、もしその神父がカオステラーだったらまずいんじゃねえのか?」


「そうだね、でもどちらにしても教会に行ってみないとはっきりとした事は確かめられないからね」


「まあな……」


 その後一行は店主に勧められる通り、レストランのある場所からさほど離れていない場所にある壮大な教会へと向かった。



 教会へ辿りつくと、神父は一行の到着を予見していたかのように玄関のところで既に待っており笑顔で出迎えてくれた。


「ようこそ、教会へ私がこの教会の責任者神父のアランと言います。」


「今日は押しかけてしまってすいません」


「いやいや、神に仕えるものとして、お困りの方を助けることは当然の事、

レストランの従業員から主人のメッセージを預かっております。今夜はお泊りになるところが無いとか、こんな小さな想区のため4人もの方をお泊めする宿は無いのが現状です、この教会も古くて風が吹き込むこともありますが、お部屋はご用意できます、できるだけ薪を燃やして暖かく致しますので、ここで良ければ好きなだけ逗留していただいて結構ですので」


「ありがとうございます」


 教会での宿泊を許された一行はお礼として教会で作業をする事になった。タオは大木の捲き割り、シェインは果樹園での収穫、エクスとレイナは教会の掃除をすることになった。


「なんだって俺が捲き割りなんだよ!」


「まあそう言わないで兄い!兄いが一番体力あるように見えたんだろうからさ!」


 エクスとレイナは教会の悔悟室の隣にある、壮大なステンドグラスの拭き掃除をしていた。


「綺麗なステンドグラス、でもめずらしいデザインね大勢の悪魔が神の前でひざまずいる」


「そうだね、僕も今までこんなデザインのステンドグラスは見たこと無いな」


 その時急にレイナの顔色が変わる。


「これ……」

「えっレイナどうしたの?」


「いや気のせいだから」


 その直後レイナはエクスの前で突然倒れてしまった。


「おい!どうしたんだよレイナ!おい!」


 その後、神父の計らいでレイナは教会で一番状態の良い部屋まで運ばれ休養する事になった。


「レイナさんは少しお疲れのようですな、ただ残念ながら近隣の医者は全て隣の村々を巡回しているので、しばらく帰ってきません、私には少々医術の心得があるので体力を回復させる薬草を調合しました、これを目が覚めたら飲んでいただくようにしてください」


「神父ありがとうございます」


 エクスが病室に薬を持っていくと、レイナは少し顔色が良くなっているように見えた。


「ありがとう、仕事を全て任せてしまってごめんなさいね」

「いいよ、今はしっかりと休むことだよレイナ、それよりもさっきの事だけど」


「えっ何?」

「あのステンドグラスを見ていた時急に顔色が悪くなったよね、何があったのかと思ってね」


「……何でもないわ」


「そうか、分かった」



 その夜、タオと同室のエクスは何か胸騒ぎがして、タオを揺り起こした。


「なっなんだよ~今何時だよ」

「何か変な予感がする、下の階で何か音が聞えてくる、僕はコネクトするから、タオも一緒に行ってくれないか?」


「ヴィランもいないのに、コネクト?お前寝ぼけてるのか?」

「頼むよ!レイナがあれほどカオステラーの気配を感じた場所だよ、何かあるに違いない」


「考えすぎじゃねえのかよ」


「そうかも知れないね、僕も正直ここに何があるのか分らない、でもレイナがあのステンドグラスを見たときの動揺したあの顔、気になるんだ、もしタオが気が進まないのなら僕だけ行くよ」


「わあ~ったよ、エクスは顔に似合わず頑固だからな」


「ごめんね、今回レイナが参加できないから、僕はヨリンゲルで行こうと思う」


「分った様子見なんだな、じゃあ俺はモルテ卿で、もし敵が現れたら動きを封じてみる」

 二人はコネクトを開始した。


 寝室のある2階から下の階に階段を下りていくとそこは大広間だった、暖炉の火が煌々と大広間を照らしていた、そしてそこには神父がロッキングチェアに座っていた、しかし驚ろいた事にそこには何とヴィランが3体立っていた。


「神父!危ない直にそこを離れてください!」


「はっあなた達は眠られたのではなかったのですか」


「いいから早く!」


「くそ!このままじゃ神父がやられちまう!あのヴィランは俺が麻痺させるぞ、その間の攻撃はエクス頼む!」


「分った!」


 エクスがタオの動きに合わせて攻撃のタイミングを計っているとその時神父が叫んだ。

「お止めなさい!」


 しかし、その叫びは間に合わずタオがヴィランを麻痺させると、なんとヴィランは昼間会ったレストランの店主や店員、村人達に変わっていった。


「えっ!これは一体どういうことだ……」



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