水着を買いに行きます

 「そこをなんとかー!」と和樹に頼み込んで水着を買いに行くことを了承してもらって数日。私と爽子と和樹は駅前のアウトレットモールに来ていた。

 夏休みが始まったばかりということもあって、私たちみたいな中高生が結構いる。中高生以外もたくさんいる。まあ、ここはほとんど常に人がいるんだけど。都会でもなく田舎でもないような私の街は、こういう大型の商業施設に人が集まりやすい。商店街にも人がいないわけじゃないんだけどね。


「ねえ和樹。今年どこも行かないわけ?」

「家でゴロゴロしてるだけだけど」


 爽子と和樹がそんな会話をしている。爽子と和樹は別に幼馴染でもなんでもなく、私を通して知り合った仲だけど、今ではもう昔からの友達みたいな関係になっている。

 爽子はあんまり物怖じしない性格だし、和樹は年下からため口とか、生意気そうなことを言われても大して気にしない性格だから。なんとなく馬が合ったのだろう。仲がいいのはいいことだ。


「それで、楓。いつものお店でいいの?」

「うん。別のところ行ったってなんかいいのが見つかるとも思えないし」

「俺、場違いじゃね? そう思わん? 爽子」

「まあもう諦めなよ。大事な幼馴染のためじゃん。ね、楓?」

「そうだそうだ!」

「水着なんて女の子だけで決めればよくない? 俺いらなくない?」


 和樹が無駄に抵抗しているが、私はそれをまるっと無視してショップに向かう。ここに来た時点で和樹が帰るという選択肢はない。まあ、朝私が和樹をたたき起こした時点で今日ここに来ないという選択肢自体がなかったんだけど。

 なんだかんだ言いながら和樹はしっかりとついてきてくれる。面倒見がいいというか、付き合いがいいというか。だから最初海の付き添いに和樹を誘おうかと思ったんだけど。

 いつも爽子と服を買いに来るショップに到着する。当然女性もののお店だから男性の姿なんて言うものは見当たらない。店内に男性の姿は和樹一人だ。


「うーん、この圧倒的アウェー感」


 和樹がぼやく。


「男の人なんて和樹だけだしねー。ね、これかわいくない?」


 爽子が一つの水着を手に取る。体にぴったりとした水着部分と、その上から着る用のワンピース部分に分かれた水着だ。黒を基調にした花柄のような模様をしている。


「かわいい! 爽子に似合うと思うよ!」


 爽子は、女の子にしては背が高めだ。平均よりは高い。そして、スレンダーだった。スレンダーなのだ。つまり、胸がない。

 だから、ビキニとかよりはワンピースタイプの方が似合う。少なくとも私はそう思う。すらっとした体形が魅せられるし。


「和樹は?」


 爽子が近くで所在なさげにしていた和樹に尋ねる。和樹は爽子が手に取った水着と爽子を見比べて


「まあ似合うんじゃない?」


 と口にした。でもその直後に


「でも俺はやっぱりビキニが好きだ」


 なんて口に出すもんだから「なによそれ! 意味わかんないんだけど!」と爽子に殴られていた。

 和樹を殴った爽子の気持ちもわかる。わかるけど、でも今日はそのビキニを買いに来たのだ。少なくとも私は。

 二人のやり取りをしり目に私はビキニを選ぶ。今年の流行はフレアバンドゥタイプのビキニらしい。大人らしさアップ! みたいな謳い文句が書かれているのを調べてきたのだ。もちろんお店でもピックアップされていた。

 その他にも露出を抑えつつかわいらしさを出しているビスチェタイプの物や、オフショルダータイプ、胸下とかでクロスするクロスデザインの物とか、いろいろある。

 どれが、いいんだろうか。どういうのが好まれるのだろうか。

 フレアはフリフリしていてかわいい。私の好みである。好みであるが、少し子どもっぽい、かな? フリフリしている部分が子どもっぽくしている気がする。いや、でも、今年の流行って書いてあったし……。

 ビスチェやオフショルダーなんかは少し露出を抑えつつかわいらしさを演出することができている。セクシーと言い換えてもいいかも。こっちも結構好きだ。

 クロスデザインは、うーん……なんだろう。大胆というか、私には似合いそうにない。もっと胸が大きい人が着た方がいいと思う。私も小さくはないけど、でも平均くらいしかない。爽子よりは大きいくらいだ。


「和樹はどんな感じの水着が好き? ってか、男の人ってって感じか。どう?」


 爽子とあーでもないこーでもないと言い合っていた和樹に尋ねる。そのために連れてきたのだからしっかり有効活用しないと! まあこんなこと和樹には言わないけど。失礼だし。


「俺は、そうだな……ビスチェっぽいやつがエロくて好きだけど」


 そういいながら私の方を見る和樹。上から下までさっと見渡して


「楓には似合いそうもないな」

「ちょっと! それどういう意味!?」


 すっごい失礼なことを言われた気がする。どうせ私が子どもっぽいとか、ちんちくりんだとかそんなこと思ったんでしょ! 信じられない!

 確かに大人の女性に比べたらまだちんちくりんみたいなもんかもしれないけど! 背だって高くないし、大人っぽい顔立ちとは無縁だし……。

 でも、普通人のこと見まわしてからそんなこと言う!?


「まあ、このフレアタイプのが似合ってるんじゃないの? かわいらしさを演出できるし、今年の流行なんでしょ?」


 なんて言いながら、黒と白の色合いのフレアタイプのビキニを手に取る和樹。まあ、確かにかわいいけどさ。私も欲しいし。

 でもでも、似合わないって言われたビスチェタイプだってかわいいものはあるし、他にもいろいろ見て回らないとわからないんじゃ。


「なんか、長くなりそうだな……」


 私の雰囲気を感じ取ったのか、和樹がそんなことをつぶやいた。

 そこ! げんなりしない!






「長い闘いだったな……」


 真っ白に燃え尽きたような和樹のつぶやきが聞こえる。

 あれから数時間。いろいろな水着を探し、試着し、似合っているかどうかを確かめ、悩み、水着を買った。

 結局、フレアのビキニを買った。藍色の生地を基調として、花柄の描かれた少し控えめな色合いの水着だ。ショーツの方にもフリルがあしらわれていてかわいらしい仕上がりになっている。

 結局セクシーさは捨てることにした。大人の男性から見たら女子高生なんて子どもだ。そこにセクシーさなんて出したところでミスマッチになってしまうという判断だった。まあ、この辺りには和樹の意見も含まれている。

 一応、最後まで悩んだのだ。もっとセクシーな水着の方がいいのではないかとか、露出はどうしようだとか。

 まあ、でも無理に自分に合いそうにないものを着るよりは、と選んだのが今袋の中に納まっている水着だ。

 爽子が選んだのはワンピースの水着だった。腰のあたりがきゅっとしまっていて、ミニワンピースみたいにスカート部分がふわりとしている。白と水色のボーダーで、普段着として着れそうな落ち着いた感じがしつつもかわいらしい水着だった。

 ワンピースも捨てがたい、なんていう和樹の言葉によって「じゃあこれにする―」と決めてしまった爽子。それでいいのか……? まあ、本人がいいのならいいんだけど。

 水着の入ったビニール袋片手についでに新しい日焼け止めやら化粧品やらを買いにドラッグストアまで足を運ぶ。UVケアは必須である。特に夏はケアをしないと肌が痛みまくる。日焼けは大敵! 油断なんてしない!

 和樹に頼んでいたことは終わったし、これ以上付き合わせるのも悪いから帰ってもらってもよかったんだけど、ドラッグストアには和樹も用事があるからと付いてきた。

 何の用事かと思えば、洗顔フォームやらワックスやら、普段使う男性用化粧品の買い込みだった。あんまり頻繁に買いに行くのも面倒だから一度の買い物で一気に買い込むらしい。


「楓、これからどうするー?」


 化粧品を買い終えてドラッグストアを出たタイミングで爽子が言った。

 今はお昼過ぎだ。朝から水着を買いに出て、もうそんなに時間がたったんだ。そろそろお腹も空いてきたし、お昼ご飯にするのもいいかも。


「じゃあ、レストラン街で何か適当にお店に入ってお昼ご飯にする? レストラン街じゃなくても、フードコートでもいいんだけど」

「フードコートは無駄に人が多いから行きたくないでーす」

「レストラン街でいいだろ。そんなに値段も変わらんし」

「じゃあ、レストラン街でいっか」

「あ、お金の話するってことは、和樹もしかして私たちにおごってくれんの?」

「おごるわけないだろ」

「えー! 大学生のくせにけちくさーい! ねえ、楓!」

「大学生だって金は持ってねーんだよ!」

「どっちでもいいから早く行こう。お腹すいちゃった」


 そんなやり取りをしながらたどり着いた洋食のレストランで、お昼を済ませた。

 今日買った水着を持って、あとは八月二日に備えるだけだ!

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