第6話 彼女は、土曜の朝の始まりを告げる


 そんな他愛もないことを考えてるのが間違いだった。


「着いた〜」

「えっ」


 ガラガラガッシャーン、とかそういう効果音が多分合うと思う。


 俺は急停止した六実のせいで、思いっきり道端のベンチに突っ込んだ。


「えっと、大丈夫?」

「あ、あぁ。大丈夫大丈夫」


 髪を耳にかけながら、六実は俺のことを心配そうに覗き込んでいる。


 そんな顔で見つめられたら痛みなんてぶっ飛んでいったぜ!


 多分そんじょそこいらの医者なんて目じゃないくらいこの人治癒能力持ってるよ。多分バーサクヒーラーとかと同レベルだと思う。


「はい」

 彼女はそう言うと、柔らかそうな、もとい柔らかかった手を俺に差し出した。


 俺はすぐにそれにつかまろうとしたが、手と手が触れ合う直前、俺は手を引っ込めた。


「どうしたの?」

「ん、いや、このくらい一人で立てるから」


 俺はそう言い、自分の腕で立ち上がった。


 六実は少し不満そうな顔をしていたが、きっとこれが正解なのだ。


 俺はこうやって、六実と一緒にいるのが嫌いじゃない。これまでの態度から彼女もそう思ってくれているだろう。


 だが、一歩踏み間違えてしまえば待つのは虚空だ。全てが消えて、俺に悲しみだけが残る。


 あんなの……もうごめんだ。


 瞬間、俺の右ポケットが振動する。

 恐らくティアだろう。俺は六実に一言言い、携帯のロックを解いた。


 すると、画面に三頭身のキャラクターが奥から出てきた。


 そしてそのティアは、嘲笑っているかのような、目で少しの間俺を見ると、まったくこれだから……のような感じで首を振ってみせた。


 ティアから吹き出しが出てきて、そこに台詞が表示される。


「馨さん、何か勘違いされてるみたいですけど、小春さんの好感度20パーセントどころか今18パーセントですよ?」


 えぇ……? マジで?


「はい、私の計測が狂ったことがありますか?」


 なんだよこいつ、テレパシー使えんのかよ。勝手に人の心読んでんじゃねぇ。


 俺が不機嫌そうな顔をティアに向けると、


「私に心を読む機能はありませんよ?カメラを通して見える馨さんの馬鹿面から推測をしているだけです」


 と表示された。


 恐らくティアのスキルには、「何気なく相手のHPを削る」とかあるのだろう。


 なにそれ便利。FFのパーティーとかに欲しい人材だわ。


「馨くん、バス来たよ〜」


 俺がティアとそんな会話(正確には一方的な言葉の暴力という)をしていると、六実が俺を呼んだ。


 よく周りを見渡せば、ここはバス停で、今ちょうどバスが来た。


 俺は六実に言われるまま、バスの前まで移動した。


 だが、俺にはこのバスが、俺を新たなイベント発生地へと送りつける、魔の移送車に見えて仕方がなかった。

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