パンツ温泉の若女将は今日も大変なのです!

前花しずく

プロローグ


「町長、パンツが湧きました」

 町政始まって以来の衝撃発言に町長室は色めき立つ。

「……すまない。もう一度言ってくれないか」

「ですから。温泉を掘っておりましたら、色とりどりのパンツが湧いてきました。もうびっくりですね」

 秘書課配属二年目の長谷川くんが、抑揚のない事務的な声で告げる。

「……パンツとは、あのパンツかね」

「はい。あのパンツです。私も今履いてます」

 いや、その報告はいいんだが。

 しかし、その内容は就任五期目のベテラン町長においても理解の範疇を大きく超え、にわかに頭の整理がつかない。

「悪いが、ちょっと信じがたい。証拠の写真か何かがあれば見せてくれないか」

「私のですか? 写真はありませんが、実物でしたら……」

「いや、君のではない。その、なんだ、湧いてきたやつだ」

「ああ、それでしたら」

 そう言うと長谷川くんは、足元の大きなダンボール箱を持ち上げ、机の上にどさりと乗せた。

「湧きたての天然ものです」

 パンツに天然や人工があるのか、という疑問がかき消されるくらい、それは豪華絢爛な光景だった。

 白、黒、赤、ピンク、青、オレンジ……様々な色の下着が売られていることは知っていたが、ここまで一堂に揃うとまさに圧巻である。

 さらに形も多種多様だ。布地の多いもの、少ないもの。隠す気があるのかないのか、作成者の意図がわからないものも多く混じっている。

「あ、それはGストリングですね。町長はそれがお好みですか?」

 思わず手に取ったパンツを見て、長谷川くんが解説する。

「い、いや、そういうわけではないが」

 慌てて手を離す。Gストリングというらしい、極めて布地の少ないパンツがしばらく宙を舞い、パンツの山に着地した。

「ご所望でしたら、明日はそれにいたしますが」

 ご所望ではない。秘書が履くパンツを指定する町長、などと週刊誌に書かれたら大問題だ。そして長谷川くんは持っているのか。

 しかし、温泉が湧くのを期待した掘削地で、よりによってパンツが湧くとは……町長は頭を抱える。

「こうなったら、パンツ温泉の町、として売り出すしかありませんね」

 相変わらず淡々とした長谷川くんの声に、町長は顔を上げる。

「……パンツ温泉、か」

 町長は町長室のブラインドを開け、名産品も何もない寂れた町を見つめた。

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