第三話 お花畑①

 僕の故郷『シンデレラの想区』には海がないのだけど、ここ『なれの果てのシンデレラの想区』には海があるようで。

 しかも、僕達が暮らす想区という世界は、物語を演じる為のミニチュアセットのようなものだから、森に囲まれた故郷の村からさほど遠くない場所に、海が広がっていたりする。


 故郷の村を南下して『マフィ夫婦』のいる町へ辿り着いた僕達は、その足で東に折れて町から延びる草原の街道を少し進み、海岸へとやってきた。

「あそこが『東海岸の洞窟』か。とっとと乗り込んでカタつけようぜ!」

 敵の本拠地を前に、タオが意気込んでいる。

 僕達の右手先には岩肌いわはだをむき出しにした高い岸壁がんぺきがそびえ足元には洞窟の入り口があって、僕達はその手前で大きな岩に身を潜めていた。

 足もとはゴツゴツとした黒い岩場で、凹凸が激しく足をすくわれそうになる。

 岸壁がんぺきの左側には真っ青な海と、さえぎるもののない大きな空が広がっていて、洞窟の方へ集中していてもひどく開放的な気配をこちらへ運んでくる。

 最近覚えた磯の匂いが漂っていて、それは僕をちょっぴり勇ましい気持ちにさせるのだと気づいた。

 少し気になるのは、岩場を越えた海岸線に骸骨の絵が描かれた大型の船が停泊していること。

 海賊でも出てくるのだろうか?

「入口の見張りを倒せば、同時に親玉も出てくるでしょうね。速攻です」

 シェインもタオに続いて意気込みを見せる。

「エクスくん、待っててね。私は非戦闘員だけど」

「道は我が弓でこじ開ける。共に迎いへ行くぞ、妹よ!」

「うん。兄貴」

 ロキは、一歩引いた位置から救出に向かおうとするファムの手を取った。

「よっしゃあ、燃えてきたぜ! タオ・ファミリー、出陣だあ!」

 僕達は大岩から飛び出して、洞窟の入口に立つ見張り役のナイトヴィラン二匹へ突撃をかける。


「あなたに救済できますか?」

 ロキが戦闘開始の口上を述べた。

 僕達四人は第一戦目と同様に、妖精王オーベロン(僕)、茶屋娘ちゃやむすめ倉餅餡子(レイナ)、音楽家モーツァルト(タオ)、お茶好き三月ウサギ(シェイン)にコネクトする。

 僕が大剣で洞窟の入口にいたナイトヴィラン二匹を叩き潰すと、奥からワラワラと増援が這い出て来た。

 それにしても足場が悪い。

 ザッパーン、ザッパーンと海水が打ち寄せる岩場が戦場だ。

 敵の構成は、ナイトヴィラン、硬質武装したナイトヴィラン、剣士職のゴーストヴィラン、魔術師職のゴーストヴィランなど攻守の性質を含め多種多様。

 割合としてはゴーストヴィランの方が多い気がする。

 すると、ゴーストヴィランへの攻撃を得意とする魔術師職のタオ(モーツァルト)とシェイン(三月ウサギ)が俄然勢い込んだ。


 タオとシェインは同じ想区、同じ世代の出身だ。

 桃太郎についたタオと鬼族のシェインは戦場で出会い、互いを殺し合う仲だった。

 けれど二人とも『空白の書』の持ち主だったためその場で意気投合し、きびだんごの盃で義兄妹の契りを交わしたらしい。

 この二人ならきっと息の合ったコンビネーションプレイを見せてくれるに違いない。


 混戦の中で敵の数を減らしていくと、相手方には獣型のメガ・ヴィランやゴーストタイプの上位格であるメガ・ファントムが加わった。

 下位のヴィランも後から後から湧いてくる。

「おいシェイン、デカイやつをこっちへ吹き飛ばすなよ!」

「タオ兄、それはシェインの獲物です!」

「三月の技じゃ敵が散らかってしょうがねえだろ! 俺の技でおねんねさせてやるよ!」

「それでは範囲が狭くて拉致があきません。ここら一帯まとめて消します」

「消せてねえから! こっちに飛んでくっから!」

「……とどめはお願いします」

 うん。凄いコンビネーションだ。

「しょうがねえなあ、よいさ」

 とタオ。

「ほいさ」

 とシェイン。

「よいさ」「ほいさ」「よいさ」「ほいさ」「よいさ」「ほいさ」「よいさ」「ほいさ」

 タオとシェインの放つ闇の魔法弾は絶妙なタイミングで相手の態勢を崩し続け、反撃の隙を与えさせないまま次々と敵を消し飛ばしていった。

 うん。凄いコンビネーションだ。

 ロキ、レイナ、僕は、隅の敵を削ったりメガ級を牽制したりして、ファムは離れた安全な場所から声援を送ってくれたりする。

 どうやらメガ・ファントムがここのボス格だったみたいで、結局シェインが最後の一匹を打ち取った。


「まだまだパーティーは続くよ――――!」

 三月ウサギに変身したシェインがイケイケの高いテンションで戦闘終了の口上を述べた。

 ロキの弓で道をこじあける必要は全くなかったみたいだね。


「カオステラーはどこ? いなかったわよ?」

 戦闘が終了してコネクトを解いたレイナが不満そうに周囲を見渡す。

 沖に停泊している海賊船も沈黙を続ける。

「奥に潜んでいるかも知れません。スリリングな洞窟探検といきましょう」

 ロキはサービス精神旺盛なツアーガイドのように行く先へ左掌ひだりてを伸ばし、意気揚々とレイナを誘い込むような仕草をした。

 ロキがを向けた方向には、岩肌をむき出しにした岸壁の下に佇む、僕の身長の二倍くらいの洞窟がポッカリと暗い口を開けている。

「ロキ? 楽しんでない?」

「滅相もありません、お姫様」

「お姫様? お前もか――――!」

 真顔でロキにブチ切れるレイナを連れて、僕達は慎重に洞窟の奥へ進むことにする。

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