31 鏡開き・ちょっと出てくる②

【鏡開き】


 今日は鏡餅でお汁粉食べる日なのですが……。

「メイドぉ、お汁粉食べたい」

「五月様、それなのですが……お餅にカビが生えてしまいました」

 五月家は生の鏡餅をお供えしています。


「そういうときは、削ぎ取って水に漬けておけ」

「あい……、でも……」

「昔から餅のカビは食べても大丈夫って言うぞ」

「そうなのですが、色のないカビもあるようです」

 今年はまたカラフルで。


「へー、そうなのか」

「取りきれなくて、お腹が痛い痛いは困ります」

 カビ味のお汁粉は美味しくないです。


「それは困るな。細かく砕いて鳥にでもやるか?」

「鳥さんたちが、お腹痛い痛いで庭に横たわっていたら困ります。カラスはいいけど」

「カラスが横たわっていたら?」

「最悪です!」


「お餅さん、ごめんなさい」

「うむ、ごめんなさい」

 おふたり、手を合わせてゴミ袋へ。


「次からはカビないパックの鏡餅にするか?」

「そうでございますね、味気ないですけど」

「ところでお汁粉は?」

「パックのお餅で作りましょ」

 生だろうがパックだろうが、新年を迎える気持ちと味にはそう変わりないかと……。




【ちょっと出てくる②】


「ちょっと出てくる」

「五月様、お買い物でございますか?」

「ん? ま、まぁ」

 五月先生、またも歯切れが悪いです。


「お外寒いのに?」

「うん」

 すっかり真冬です。


「また、ジョギングシューズで?」

「うん」

「ジョギングしないのに?」

「履き慣れて、歩きやすいから」


「もしかして、隠れて美味しいもの食べてるんじゃないですか?

「違うって」

 五月先生、怪しいです。


「美味しい店見つけたら、いつも真っ先にお前に言ってるだろ」

「ホントに?」

「ホントに」

「んん〜〜」


「ねえ、メイド?」

「あい?」

「お互い最低限のプライバシーは守ろう」

「・・・」

 メイドさん、これを言われるとぐうの音も出ません。

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