第2話 イラッとしたにゃん

 それは、高校一年の秋頃だったにゃん。

「やっと見つけた! かすみちゃんだよね!? 同じ高校かと思ったらかすみちゃんいないし、その格好どうしたの? 何があったの?」


 稲葉の家からの帰り道、元クラスメートに出くわしたにゃん。

 西浦啓介にしうらけいすけ、中学の頃一度告白してきたけど好みじゃないから断って、その後も友達として付き合ってたら、いつの間にか鰍の親衛隊隊長とかやってた男子だにゃん。


 中学の頃、鰍はとにかく人に好かれたくて、相手が求めている事、望んでいる事を進んでやるような良い子を演じた結果、尋常じゃない位に周囲から好かれ過ぎてしまったにゃん。


 どこに行くにも何をするにも常に周りに人がいて、鰍に尽くしてくれたけど、知らない間に学校の人間が鰍との親しさで階級付けされてたり、ファンクラブが宗教みたいになってきた辺りから恐くなったにゃん。


 当時、啓介みたいな熱狂的な取り巻き達から離れたくて、高校もうちの中学からは誰も進学しない所にして、大人しい感じからギャル系へと大幅なイメチェンまでした鰍としては、正直他人のフリをしてやり過ごしたかったにゃん。

 だけどそうしようとした時、能天気な声が啓介の後ろから聞こえてきたにゃん。


「あれ~? かすみちゃんじゃない。もう暗いんだから気をつけないと」

 居候中の稲葉の家に帰るのであろう霧華さんと、背の高い男の人が目の前から歩いてきたにゃん。


「こんな時間にナンパですか?」

 霧華さんと一緒にいた男の人が声をかけると、啓介は驚いたようにビクッとした後、

「とにかく! 俺の連絡先は前と変わってないから!」

 とか言ってそのまま駅の方に走っていったにゃん。


「今の子知り合い?」

 不思議そうに首を傾げる霧華さんを前に、今のやりとりで他人のフリをする事ができなくなった鰍は、大きくため息をついたにゃん。


 近所の公園で事情を話すと霧華さんは悪い事をしたと謝ってくれたにゃん。

 だけど、夜道で鰍が知らない人間に絡まれてると思っての行動だろうから、それについては逆にお礼を言ったにゃん。

 なぜ名前を呼んだ、とは思ったけどにゃ。


「しかし、今の話だと元彼という訳でもないんですよね? 別の学校に進学したのに中学時代に一度ふられた相手を探し回るなんて、今の学校生活が上手く行ってないんでしょうか」

 たぶんそうだろうと頷いたのが、一真さんとの初めての会話だったにゃん。


 その後は元親衛隊を集めて鰍の高校にやって来た啓介達に、今は稲葉と付き合ってるという事にして、同時に色々と元親衛隊達の夢を壊し、事無きを得たにゃん。


 その一件の後、鰍は霧華さんと仲良くなって話すようになるうち、霧華さんのとんでもないゆるさにちょっと引いたり、今まで以上に稲葉にくっ付いて雨莉の気を引いたり、とても充実した高校生活を過ごしたにゃん。


 ……なんで高校も卒業した今、そんな話をするのかと言えば、ついさっき、ツイッターで鰍に啓介からダイレクトメッセージが送られてきたからだにゃん。


 Kei: かすみへ。

   またキャラを変えたんだな。

   まあそれはお前の人生だし俺はいいと思うよ。

   ところで最近君が仲良くしている+プレアデス+という子可愛いよな。

   今度三人でどこか出かけよう。

   彼女もきっと俺の事を知ったら気に入ると思う。

   西浦啓介ことKei


 啓介も人の事言えない位キャラが変わってるとか、鰍が+プレアデス+を紹介するのは決定事項なのかとか、なんでそんなに自信満々なのかとか、色々思う事はあったけれど、あえて一言で表すなら、イラッとしたにゃん。

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