グリムノーツ ~兄妹喧嘩 走れタオ!『走れメロスの想区』~

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第1話『兄妹喧嘩と半裸の青年』

 ある国にメロスという青年がおりました。

 メロスは、村の牧人で、笛を吹き、羊と遊んで暮らしていました。

 けれども、邪悪に対しては人一倍に敏感でした。


 あるとき、メロスは村を出発し、野を越え山越え、

 十里はなれたシラクスの市にやってきました。


 メロスは十六の、内気な妹と二人暮らしでした。

 この妹は、村の律気な青年を、近々花婿として迎えることになっていました。


 そのためにメロスは花嫁の衣装やら祝宴の御馳走やらを

 買いに、はるばる市にやってきたのでした。


 都の大路を歩いているうちにメロスは、

 まちの様子をあやしく思いました。

 まちがひっそりしすぎているのです。


 しばらく歩くと老爺に逢ったので、

 メロスが静けさの原因について尋ると、老爺はこう答えました。


「王様は、人を殺します……」


 話を聞いたメロスは激怒しました。

 かの邪知暴虐の王を除かなければならぬ、と決意し、

 王城に乗り込みました。


 そして……



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 沈みかけた夕暮れの街を4人の少年少女たちが歩いている。

『調律の巫女』ご一行、エクス、レイナ、タオ、シェインの4人だ。


「ねぇ、街がやけに静かじゃない?」

 童顔の少年、エクスが、隣を歩く神秘的な佇まいの少女、レイナに尋ねる。

「変ね。このシラクスの街は、夜でも皆が歌をうたって街中賑やかだって聞いたんだけど……。ねぇ、タオ、シェイン、どう思う? やっぱりカオステラーの仕業かしら……?」

 レイナが意見を求めるために、すぐ後ろを歩く2人に視線を向ける。

 青年と少女が顔を近づけて、いがみあっていた。



「だーかーらー。まんじゅうは『つぶあん』しかありえねーって言ってんだろ!」

 長身の青年、タオが興奮気味に、目の前の少女につっかかる。

 しかし少女は、タオに凄まれても怯む様子はなかった。

 ――その少女、シェインは頬をふくらませて抗議する。



「……ナンセンスです。タオ兄は何も分かっちゃいません。おまんじゅうと言えば、『こしあん』に決まっています。あのなめらかな舌触りの良さが分からないとは、タ

オ兄はなっちゃいません」

「なにぃ~!? つぶあんの歯ごたえの良さが分からねぇとは、そっちこそまだまだ子供なんじゃねぇか?」

 険しい顔をするタオに、眉をひそめるシェイン。



「むむっ」

「あぁ~ん?」

 肩をぶつけあい、視線のぶつかる先で火花を散らせるタオとシェイン。

 2人を見て、苦笑するエクス。

 ガックリと肩を落としてレイナがため息をつく。



「――おふざけは禁止!」

 2人にビシッと人さし指をつきつけるレイナ。

「もう次の想区に入っているのよ。2人とも、もうちょっと緊張感を持ちなさい。――シェイン、前の想区でタオが買ってきた食糧にそんなに不満があるの?」

 シェインはレイナを抗議するような目で見て、

「不満大アリです。シェインはタオ兄に『こしあん』のおまんじゅうを買ってきてくださいと頼みました。なのに……タオ兄は『つぶあん』のおまんじゅうを買ってきたんです!」

「なんだよー。美味しいだろー、つぶあん」

 口をとがらせるタオ。



「もぉ~。別にいいじゃない、そんなこと。許してあげなさいよ」

「シェインにとっては一大事です。こしあんよりつぶあんを選ぶなんて、タオ兄にはガッカリしました。謝ってくれるまで口をきいてあげませんから。……食べ物の恨みは恐ろしいのです」

「あー、そうかい。分かったよ。それならオレだって口きいてやんねーからな」

 お互いに顔をそむけて、フン、とタオとシェイン。

「ちょっとー!? 2人ともー!」

 2人の間に入って、まあまあとなだめるエクス。


「……姉御ー。これからは、シェインの洗濯物はタオ兄のものと一緒に洗わないでくださいねー」

 わざとらしくシェインが言う。

「くっ……! 地味に傷つくじゃねぇか……!」

 タオが胸を押さえて、苦痛に耐えるような表情をする。



「ハア……。新しい想区に来て早々これとは、困ったわね……」

 頭を抱えるレイナに、エクスが耳打ちする。

「ねぇ、僕がタオと2人で話してみるから、レイナはシェインを説得してみてくれない?」

「そうね。2人を引き離して説得すれば効果あるかも……」

 エクスがタオを連れだし、レイナとシェインはその場に残る。



「……なんだよ、坊主。2人で話って」

 苛立った調子でタオが言う。

「ねぇ、タオ。ここはタオの方から謝ってあげてよ。タオはシェインの兄貴なんだしさ」

 エクスの提案を聞いて、鼻で笑うタオ。

「いいか、坊主。男には譲れねぇ時があるんだぜ。ここで退いたら、今後は向こうの好き放題にされちまう、そんなタイミングが。……今がそうだ!」

「えぇ~……。そんな大げさなことなのかな? これって食べ物の好みの話だよね?」



 一方、レイナは、腕を組んでムスとしているシェインに諭すように話しかける。

「意地張ってないでタオのこと許してあげたら?」

「ダメです。今回ばかりはタオ兄の方から謝りにこないなら許してあげませんから」

「もぉ~っ! どっちも美味しい、でいいじゃないのー!」

 互いに折れる様子のないタオとシェイン。



 エクスとレイナは困ったように顔を見合わせる。

「2人とも強情ね。これは長引きそうだわ」

「まさか食べ物の好みで仲違いするなんて……。まるで本当の兄妹喧嘩みたいだね」

「兄妹喧嘩、ねぇ……。それなら、私たちが口を挟んでも、逆効果かもしれないし、しばらくは様子を見るしかないわね」

「大丈夫かなぁ?」

 2人を横目に、心配そうなエクス。

「きっと自分たちで仲直りできるわ。2人を信じましょう」

 レイナの力強い物言いに、エクスは頷く。



「じゃあ、いつもどおり、まずはこの想区の情報を集めるとしましょう」

「てっとり早く『主役』が見つかればいいんだけどね」

 ふとエクスが視界の端に、建物のかげに老人の姿を見つけ、声を上げる。

「……あ、あそこ! 誰か人がいる。話を聞いてみようよ」

 小走りで老人に駆け寄るエクス。



「すみませーん、おじいさん。この街で、いったい何が起こってるんですか?」

 老人は力なく首をふって答えず、そのまま立ち去ってしまおうとする。

「ちょっと待って! 私たち、この街のこと助けたいの。事情を知っているなら教えて」

 レイナの声に老人の歩みが止まり、振り返る。

 老人はあたりをはばかる低い声で答えた。



「……王様は人を殺します」

「! どうして、そんなこと……」

「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持ってはおりません。だというのに、王様はたくさんの人を殺しました……」

「クソッタレな王様がいたもんだな」

 タオが苦虫を噛んだような顔で吐き捨てる。

「……国王は乱心ですか?」

 シェインが問うと、老人は首を振った。



「いいえ、乱心ではございません。人を信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、人質をさしだすことを命じております。命令を拒めば十字架にかけられて、殺されます。きょうは、6人殺されました……」

「呆れた王だな。許しちゃおけねぇ」

 タオがイラついたように、拳をもう片方の手のひらに打ちつける。



「みんなどう思う? カオステラーの仕業かしら? 元々は善良な王だったけど、カオステラーによって運命を歪められたとか?」

「そうとは限りませんよ。悪い王様を正義のヒーローがやっつける……。それが元々、この想区の『運命の書』どおりのシナリオなのかもしれません」

「たしかにそうよね……」

 うーんと考え込むレイナ。

「……結局、この想区の『主役』に話を聞いてみないことには、分からないんじゃないかな?」

「この想区の『主役』さん、いったいどんな人なんでしょうか……?」

 好奇心たっぷりにシェインが目を光らせる。



「――うおおおぉぉ! どいてくれぇぇぇ!!」

 突如、遠くから大きな叫び声が聞こえ、声のほうを向くエクスたち。

 上半身が半裸の筋骨隆々の青年が、全力疾走で4人の方へ走ってくる。



「な、なんだぁ!?」

 タオが素っ頓狂な声を上げる。

 死にもの狂いの様子で走る青年は、小脇にレースのついた白いドレスを抱えている。



「ねぇ、あの人が持ってるのって、ウェディングドレス……だよね?」

 首をかしげるエクス。

「見た感じマッチョですけど、女装癖があるんでしょうか。人は見かけによりませんね……。おや? お兄さんの後ろに誰かいますね……」

 シェインは軽く背伸びをして、遠くに目をほそめる。



 走って近づいてくる青年の背後に、大量の砂埃が舞っている。

 その砂埃の向こうにうっすらと見えるのは、黒い影の大群――

 影、その子鬼のようなシルエットは、エクスたちにとっては見知った存在だった。

 ――宿敵、ヴィランの大群だ。



「おい。あの兄ちゃん、ヴィランの大群に追われてるぜ!」

 タオが焦ったように告げる。

「大変だ。助けなきゃ!」

 指示を仰ぐべく、レイナのほうを見るエクス。



「――みんな! すぐに栞を準備して!」

 レイナの号令に頷き、『導きの栞』を取りだす一行。

 栞の力でヒーローの魂とコネクトし、ヴィランを迎え撃つのだった――



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