薄月夜に照らされながら

 樹、今日は大ニュースがあります。なんと、航が大会で優勝しました。それも二百と四百の両方。

 今までの大会はなんだったのかっていうほどぶっちぎりでゴールしてたよ。

 航ね、樹の挑戦受けるって。だから、あんなに面倒くさがってた練習も毎日出てたんだよ。たまに朝練もやってたみたい。樹は敵わないかもしれないよ。すごい速いんだもん。本当に。

 樹にも見せたかったな。すごいかっこよかったんだ。そうだ、こんなことをここに書くのもどうかと思ったんだけど、いいかな。


 私ね、最近航のことがなんだか気になってきているみたい。まだ好きってわけではないと思うんだけど。

 航はいつも私の事を気に掛けてくれて、時には助けてくれて。甘えてばかりじゃいけないって思うんだけど、航と一緒にいるとすごく落ち着くし心地いいんだ。

 実は私、前まで他に好きな人がいてね。そっちは結局なにもなく終わっちゃったんだけど、なんていうかすぐ他に気持ちが変わっちゃうのはどうなんだろうって思ってさ。

 こっちがだめだったから今度はあっちって、ちょっと非常識なのかなって。でも、ただ寂しいから好きだって感じてるわけではないんだ。自然とその人の事を目で追ってたりしてて。正直自分でも少し焦ってる。

 航って今でも相変わらず人気者でさ。大会のときも応援団が凄くて。だから、航と一緒にいる所を見られるのはちょっと気まずいんだけど、ほんの少しだけ優越感感じちゃったりもするの。ちょっとだけ楽しい。


 ああ、ごめん。恋バナなんて、男子は面白くないよね。話戻すね。

 とにかく航は今回優勝して、次の県大会も張り切ってるよ。次もたぶん、ていうか絶対優勝すると思う。そしたら、約束の全国大会。航はそこで樹を待ってるよ。だから、だからさ。樹も頑張ってよ。


 今ね、とっても月が綺麗なんだ。そっちからも見えるかな。こちらよりも近いのかな。少し雲があるけど、それに負けないくらい月の光が綺麗。

 こうやってぼーっとして空を見上げているとさ、やっぱりあの海を眺めていた日を思い出すんだ。あの日は、私の中でなんか特別な日なんだよね。


 あの日を思い出すと少しだけ楽しい気持ちになるんだけど、それと同じくらいに哀しい気持ちにもなるの。最近は普通に生活していても気が付くと心が沈んでいて、それを航が元に戻してくれる。

 せっかく県大会に行くことになったから、ちゃんと航を応援したいのに。私、もう少し強くならないといけないね。強くなって、全国大会で樹を待ってるからね。


 だから絶対、絶対に、樹も頑張ってね。


 七月三十一日

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