episode50 翻弄される舟       東屋

 ◇東屋あずまやざっくりあらすじ

 薫からアプローチされた姫(浮舟)ですが、彼女自身も彼女の母親もあまりの身分格差に薫の気持ちを本気にできません。事情があって浮舟は自宅に居づらくなり、中の君の好意で二条院に居候させてもらうことになります。そのときに匂宮が浮舟を見初めます。



【超訳】東屋あずまや  宇治十帖

 薫 26歳 匂宮 27歳

 中の君26歳 浮舟21歳

 夕霧 52歳



 ―― 浮舟の縁談 ――

 薫は宇治で見た姫君(浮舟)を引き取りたいって考えるんだけれど、身分格差もあったから公式に結婚しようとはしないで、弁の君経由でなんとなく気持ちを伝えるくらいしかアプローチしていなかったの。だから浮舟のお母さんの中将の君も薫の話を本気にしていなかったの。


 お母さんには現在の夫の常陸の守ひたちのかみとのあいだにも子供がいたのね。常陸の守は自分の子供ばかりを可愛がって妻の連れ子の浮舟のことは考えていないの。だから余計に私が浮舟を守らないとってお母さんは思っていたみたい。

 常陸の守は田舎っぽくて風流ごとにはウトいんだけど、派手好きで世渡りは上手いから財力はあったの。その財力目当てで婿になりたい貴族も多くて左近の少将という若者がやってきたの。


 お母さんは浮舟には立派な婿に来てほしいと思うけれど、夫が地方官僚だから高望みもできなくて左近の少将との縁談をOKすることにするの。

 結婚の日取りも決まって準備も進めていると、浮舟が常陸の守の実子でないと知った左近の少将が浮舟ではなくて常陸の守の実の娘と結婚したいって言い始めたの。


 常陸の守は浮舟のお父さんである皇族の八の宮浮舟のお父さんよりも自分が選ばれたことが嬉しくてならないみたい。中将の君はこれでも妥協した縁談だったのにそれすら断られてとてもショックを受けてしまうの。

 浮舟の乳母も怒っているの。だからこうなったら手紙をくれる薫に嫁がせましょうって提案するんだけれど、お母さんはあまりの格差違いに決心がつかないのよね。


 左近の少将と常陸の守の娘の結婚の日が近づくと屋敷が準備でごった返すのね。少将が通ってくる部屋を用意しないといけないので、自然と浮舟の居場所がなくなってくるの。困った中将の君は二条院の中の君に浮舟を居候させてほしいとお願いするの。浮舟に同情した中の君は匂宮に相談せずに居候させてあげることにするの。


 ―― 超絶イケメンがふたり! ――

 浮舟と中将の君が二条院に移って何日か過ぎたの。匂宮の姿をちらっと覗いた中将の君は匂宮の美貌に驚いてしまうの。まるで桜の花のような華やかさなんですって。しかも自分の夫よりも身分の高い貴族たちがみんな皇族の匂宮にかしずいているのよね。たまたま自分の継子である式部の丞しきぶのじょうがお供に控えていたけれどとても匂宮に近づくことなんてできないの。


「んまあぁぁ、匂宮さまはこの世のヒトとは思えない超超イケメンさまなのね。中の君さまはなんとお幸せなんでしょう!」

「女性関係が派手だってお聞きしたけれど、あれならしょうがないわぁ。たとえ七夕のように年に一度しかお会いできなくても許せちゃうわねぇ」


 浮舟のお母さんは初めて見た匂宮に大興奮みたいね。その匂宮が若君をあやしていて、そばに中の君もいたので美男美女カップルに見惚れちゃうの。

 お屋敷のインテリアも生活スタイルもそこで暮らす匂宮たちもハイセンスでとても自分たちとは比べられないけれど、娘の浮舟の美しさだけはひけをとらないわってお母さんは思うみたいよ。


 体調がよくないお母さんの明石中宮さまのところに見舞いに行くからと匂宮が支度を始めるんだけど、そこに仕えているさえない男がいるの。それがなんとあの左近の少将だったのね。浮舟との結婚を承諾したときはそれなりの男だと思っていたのが匂宮とくらべると月とすっぽんだったの。あんな男と結婚させなくて本当によかったわってお母さんは思ったの。


 浮舟のお母さんは中の君と対面して中の君の夫の匂宮を絶賛して、それから娘の将来が不安だと打ち明けるの。中の君は浮舟は可憐で美しく本当に亡くなった大君によく似ているわって思うのよね。そこに薫がやってくると知らせが届いて、また中将の君は覗き見をしようとするの。


「匂宮さま以上のイケメンさまなんていらっしゃいませんわ!」

 中将の君はまだ匂宮を見た興奮が冷めないみたいね。そこへ薫が姿を現すの。そして匂宮とはタイプの違うハンサムな薫にまたまたビックリするの。


 艶やかさは匂宮なんだけど、薫の気高い容姿に中将の君はまた度肝を抜かれるの。


「んまっ! まあ! まあ! なんてことでしょっ!」

 この世にこんな超絶イケメンがふたりもいるなんて。

「一日でこんなイケメンさまをおふたりも見られるなんて!!」

「超ド級のウルトラスーパーイケメンさま……」

 中将の君の興奮はおさまらないみたいね。


 ―― 浮舟のことが気になる薫 ――

 薫は匂宮が中宮さまのところに出かけたのを知っていて中の君に会いに来たみたいなの。薫はまた中の君を想っているだなんて話しはじめようとするから、中の君は浮舟が今この邸内にいることを教えてあげるの。


 ~ 見し人の かたしろならば 身に添へて 恋しき瀬々の なでもにせん ~

(亡き大君の身代わりになってくれるのなら、いつもそばに置いておきたいな)


 そんな歌は詠んだけれど薫は動揺してしまって、浮舟に会おうとはしないで伝言だけ頼んでその日は帰って行くの。中将の君は薫のことを立派で娘のお婿さんとして理想的だわって思うの。

 中の君も中将の君に薫には正室がいらっしゃるけれど、とても誠実で信頼できるから浮舟を託してみたらどうかしらって話をするの。


 ―― 匂宮も…… ――

 中将の君の夫の常陸の守が早く戻るようにと二条院に迎えをよこしてきて、浮舟を残して中将の君だけが自宅に戻ることになるの。その見慣れない牛車を見た匂宮は中の君が浮気をしているのかと勘違いするの。その追及を中の君はかわしだのだけど、別の事件が起きてしまうの。

 匂宮が浮舟を偶然見つけてしまうの。衣装も綺麗だからきっといい家からやってきた新しい女房だと匂宮は勘違いしたみたい。


「キミは誰? なんていう名前なの?」

 突然男性から話しかけられた浮舟は怖くなっちゃうの。しかも、この人が前から話だけ聞いていた薫なんじゃないかって思っちゃったみたい。

「名前を教えてくれないんならキミを離さないからね?」

 匂宮は部屋に連れ込もうとするんだけれど、浮舟の乳母が断固阻止するの。中の君の女房もやってきて匂宮を牽制したのでその日は何も起きなかったけれど、匂宮は浮舟のことが気になって仕方ないのよ。女房からこのことを聞いた中の君も夫の惚れっぽさに呆れながら、浮舟は怖い思いをしただろうと同情するの。

 そこに明石中宮さまの容体が悪くなったとのお使いがきたので、匂宮は仕方なく御所へと向かうんだけど、まだ名前も知らない浮舟かわいいオンナノコにものすごく惹かれちゃったのね。


 ―― 二条院から三条の家、そして宇治へ ――

 突然の出来事にうろたえている浮舟を中の君が慰めてあげるの。見れば見るほどお姉さんの大君に似ているわって中の君は浮舟を見て思うの。薫ともお似合いだわ、ともね。


 浮舟の乳母はすぐに中将の君浮舟のお母さんに報告をするの。浮舟を薫と結婚させようと思っているのに匂宮の愛人にされたくないし、なによりお世話になっている中の君に申し訳がたたない。驚いたお母さんは物忌みと言って浮舟を二条院から慌てて引き取るの。けれども自邸に連れて帰ってもこられないので三条あたりの小さな家に浮舟を移したの。

 浮舟は小さな家で心細く過ごさなくてはいけないこと、自分がお母さんに迷惑をかけていることでとても落ち込んでいるの。お母さんも浮舟のことが心配でたまらないのよね。でも浮舟がその仮住まいの家で思い出すのは優しかった中の君お姉さんとあの日の匂宮のことなのよね。あまりに突然の出来事だったから匂宮が何を話していたかまでは覚えていないみたいだけれどね。


 秋になって、宇治の御堂が完成して薫が訪れるの。以前八の宮の山荘のあったところに立派なお屋敷が建っているの。薫は弁の君に浮舟のことを聞くの。すると浮舟が二条院を離れていると聞いた薫は弁の君に浮舟の所まで案内するように言うの。

 

 日を改めて、弁の君は浮舟の家を訪ねたの。薫から言われてやってきたことを浮舟に話すと、遊びでなく真剣に自分のことを想っていてくれることに浮舟も驚いたみたいね。

 すると夜になって薫もやってくるの。そうしてふたりきりになれる場を弁の君が作ってあげたの。

「宇治であなたを見かけたときから恋しかったんだ。これは運命なんだよ」

 薫がそう告白するの。可憐な浮舟は薫の期待通りだったみたい。

 朝を迎えて、薫は決心をしたの。その日のうちに浮舟を連れ出して宇治のお屋敷に匿うことにしたみたいよ。宇治に向かう道中では、牛車が揺れるから薫が浮舟を抱きかかえてあげるの。ただ大君のことも思い出しちゃってるのよね。


 ~ 形見ぞと 見るにつけては 朝露の 所せきまで ぬるる袖かな ~

(あなたを彼女の形見だと思うと僕の袖は朝露と涙で濡れてしまうんだ)



 ◇浮舟はお母さんの思惑で二条院へと行き、そこから三条の家にと移ります。二条院では匂宮に見初められ、三条の家には薫がやってきて宇治の屋敷に連れていかれることになります。薫と匂宮の想いに浮舟は翻弄されることになります。


 ~ 形見ぞと 見るにつけては 朝露の 所せきまで ぬるる袖かな ~

 浮舟を宇治へ連れて行くときに薫が詠んだ歌



 第五十帖 東屋


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