奇声

「この前さ…」


実家に帰った時、酔った父親が僕にポツリポツリと話し始めた。


「弟と一緒にレストランに行ったんだ。最初は機嫌も良かったんだけど、急に大きな声で奇声を上げてさ…」


そこまで言うと、父親は軽く笑ってこう言った。


「やっぱり、ああいうのはなかなか慣れないもんだな…結構キツかったよ…」


顔は笑っていたが、そう言った父親の顔はどこか悲しげだった。



僕の弟は人前で大声で騒ぐことはあまりない。


小さい頃は稀にあったが、最近ではそれもなくなり、他人に迷惑をかけるということはほとんどなくなっていた。


しかし、ごく稀に何かのスイッチが入ったみたいに奇声をあげることがあるらしい。


弟はもう高校生。


それに見た目は普通の人とあまり変わらない。


そんな人が急に奇声を上げたら、周りにどんな目で見られるか。


その家族はどんな気持ちになるか。


赤ちゃんなら仕方ないけど、見た目は普通の高校生なんだ。


皆さんにも考えてもらいたい。


もういい歳になった兄弟が急に奇声を上げたらどんな気持ちになるか。


弟に障がいがあると分かっていても、やはりキツいものがある。


健常者の方の中には、どこか、障がい者は奇声を上げるというイメージを持ってる方もいると思う。


気持ち悪い。

迷惑だ。

何故、奇声を上げるの?

なんか怖い。


そう感じているのは、視線から伝わってくる。


でもその視線は、障がい者よりもむしろ、その家族の方が敏感に感じとってしまう。


自分に迷惑がかかるならまだいい。


でも他人に迷惑をかけてしまうと罪悪感が湧いてきて、情け無い気持ちになる。


僕達家族は、他人に迷惑をかけないように善処しているつもり。


でも、どうしようもないことなんだ。


止めさせようと思っても無理なんだ。


「そんな奴は外に出すな。家に置いていけばいい。」


そう考える人もいるかもしれない。


でも、そう簡単に家族を切り捨てられるのか。


僕達家族には、そんな残酷な選択はできない。


「障がい者が周りに迷惑をかけることを許せ」とは言わない。


やっぱり、普通の人からしたら急に奇声をあげられると迷惑だし、怖いと感じてしまうのは普通の事だと思うから。


ただ、あなたが障がい者の奇声を聞いて嫌な気持ちになる以上に、僕達家族はもっと嫌な気持ちになっていることを知ってほしい。





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