第15話 神聖なるフェードイン(後)

(アレ…)

 イメージが………。

 僕は実戦とイメトレの差を瞬時に悟った。

 ちらっと後ろの巫女さんを見ると、明らかに疑いの目を僕に向けている。

「大丈夫だ!に乗った気でいてくれたまえ」

「沈むじゃないの」

 炎に囲まれた、この状況で的確なつっこみを披露する巫女さん。

「その元気があれば大丈夫だ」

 そうは言うものの、炎の囲みは確実に狭まっている。

 呼吸も苦しい…お面のせいで苦しさ倍増だ。


「僕のさやちゃん…今、このバカ殺すからね…2人で抱き合いながら死のう…ね…」

 熱さのせいか、もともとか、男の目が逝っちゃってる……。

「いや…いやぁ…誰か~助けてください」

 炎の中心で巫女さんが叫ぶ。


「おい!不細工、キサマ、彩がどんな女か知ってるか?」

 僕はズレたお面を直しながら、包丁男を指さしながら言った。

「彩のことはなんでも知ってる!」

「そうか…今日のパンティが何色か知ってるか?」

「パンティ…」

「そうだ!彩が今履いているパンティの色を知ってるか?」

「そんなの知るわけないだろ!彩ちゃんのパンティは何枚も持ってるけど…」

「やっぱりアンタが下着ドロだったのね!」

 巫女さん(彩ちゃん 推定19歳)が僕の後ろで包丁男に叫ぶ。

「俺は知ってる」

「な?なんでアンタがアタシの下着の色知ってるのよ!」

「そ…そうだ…嘘言うな…彩ちゃんは僕以外の男にパンティなんか見せないんだ!最近は、なんか派手な下着になったなって思ってたけど…それは、僕のためさ!ねっ、そうだよね彩ちゃん」

「やだ…きもい…アイツ、マジできもい」

「違うな…彩のパンティは俺のものだ!」

「ふざけるな!」

「本当だ…教えてやろうか?今、彩が履いてるパンティの色と柄を?」

 男の鼻息が荒くなる。

「彩のパンティはな…純白の蝶々…黒い茂みに羽を広げる淫靡な蝶々てふてふが正面で羽を休め、そこから連なる乳白の真珠が柔らかな秘部を伝い丸いおしりまで…恥骨を細いシルクが彩の身体を軽く締め付けるように結ばれる…それは艶めかしくも知的なサイン・コサイン・タンジェント…真珠は今…汗と、彩のソレで濡れて…ズレて…くいこんで…」

「やめろ!彩ちゃんは、そんなパンティ持ってない!僕はタンスもチェックしたんだ」

「てめぇ!タンスの中ってどういうことだ!不法侵入か?泥棒か?」

 彩ちゃんブチ切れ。もう巫女さんキャラ崩壊。

「俺がプレゼントしたんだ…彩にお似合いのパンティを…祭りが終わったら…真珠を一粒、一粒、俺が丹念に舐めてやるからな彩…何番目の真珠が一番臭いかな…」

「彩ちゃん…彩ちゃん…彩ちゃんはそんな女じゃない!」

 包丁を持つ手がわなわなしている。

(チャンスだ)

 僕は彩ちゃんの後ろに回り、袴に手を入れる。

「なっ?何してんだテメェも」

 彩ちゃんが抵抗して袴を押さえる。

「おい!不細工、彩のパンティ欲しいか?」

「えっ?」

 包丁男の顔が「いいの?」といった表情に変わる。

「今履いている…パンティと言うには、あまりに非機能的な、濡れたパール付きのサイン・コサイン・タンジェントだぞ…欲しいだろ?」

「サイン…コサイン…タンジェント……」

 包丁男が、すがる様に彩ちゃんの前で、ひざまずき、そっと両の掌を差し出す。

「よかろう…目を閉じなさい…彩の彩は貴様の目にはまだ早い…まずは彩の液で五感を満たすのです、目を閉じなさい」

「はい…御心のままに…」

 もう…包丁男ではない…包丁は捨てられ…彼の心は開かれている。

 僕は男の掌にファサッと白いTバックを落としてやった。

 そう…うっかりレボリューションしてしまった黒ギャルのTバックだ。

 目を閉じたままの男。

「心のままに…嗅ぎなさい」

「はい」

「どうですか?」

「汗の香りが…あぁ…」

(今だ!)

 恍惚の男の顔面に膝をぶち込んだ。

 鼻血を出しながら仰向けに気絶する男。

「その香りは…俺の手の汗の匂いだ…」

 倒れた男を、いい角度で蹴りまくるキャラ崩壊した巫女。

 消防が到着したようだ、急速に気温が下がり、消火作業が開始される。


「では…フェードイン」

 袴に顔を突っ込む僕。

 赤い世界…その奥には可愛らしいピンクに黒の水玉模様のパンティ。

(安心したよ…大分汗で湿っているね…あぁ…袴の締め付けも悪くない…あぁ彩…彩の足と僕の身体の境目が解らなくなるよ…むせ返るような赤い世界……さよなら…)

「コンプリート」


 僕は黒ギャルの浴衣にレボリューションした。

 黒ギャルの褐色の肌に…もっと濃いめの黒い神秘の茂み。

「またでた…お面マスク…」

「キミのおかげだ…ありがとう」


 僕は黒ギャルに背を向け、その場を立ち去る。

 買ったばかりのお面をゴミ箱に捨てた。

 熱で溶けていたからだ。

 顔の軽い火傷は僕の勲章さ。

(ミッションコンプリート)

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