言ってみた

「うおっ、デカっ、ヤバっ」

 めっちゃデカくて黒い建物についた。マジで城じゃん。

 先に来てたおっさんたちが「本当にこいつが?」とか「1万年に一度の……?」とか言ってるのが聞こえる。一万年て、そんなにさかのぼったら江戸時代だよウケる。

「お待ちしておりました。もしあなたが噂通りのお人ならば、百人力です」

「ふふん、鬼に金棒ならぬJKに水素水だね。うまくない? ねえねえ」

「は、はぁ……」

「や、もうこれ、うますぎてノーベル賞とれるわ。ははっ、さすがにそれはないか、ウケる。水素水すげぇ」

「……」

「で魔王どこよ。あたしさっさと帰ってドラマ見たいんだけど」

「ま、魔王なら恐らくこの城の最上階に」

「え、まじ? だっる」

 せっかく痩せたのに、そんなに歩いたら足太くなるわ。めんどいし水素水飲も。あたしはペットボトルを取り出した。

「それが、噂の」

「ん、ああ。飲んでみる? あ、口つけんのはナシだぞおっさん」

「と、とんでもない! そんな貴重なものを」

「そんなに貴重かなぁ。まあ、わりとしたけど値段相応ってゆーか」

 ごくごく。よし。

「んじゃ行くわ」

「へ?」

 そう告げるとあたしはぐっと膝を曲げ――


 大ジャンプをかました。


「えええええ!?」

 下からおっさんたちの声が聞こえる。

 よし、この辺かな。

「よっと」


 ドッカーン!!


 飛び散るレンガの破片。あたしは黒い城の上の方をぶん殴って破壊した。


 するとぽっかり空いた穴の向こうにぽっかり口を開けてる人が。水素水飲みたいのかな。

「ちょ、おま、何してくれとんじゃああああ」

 思ったより若いな。というか人間だな? とりあえずその部屋に着地。

「あんた、魔王?」

「その呼び方慣れないなぁ……。確かに成り行きでこの辺を統治することになっちまったけど、魔王って呼ばれるなんて夢にも思ってなかったわ。この服のせいかもなぁ」

 よく見たら学生服着てるし、確かにある意味黒づくめだけど普通の男子高校生じゃねーか。でも、ここにいるってことは、

「もしかしてあんた、水素水買ったの?」

「は、はぁ? 買ってねーし。俺がそんな非科学的な、ウソ臭いもの買うわけねーし」

 うわ、わっかりやす。あたしはスマホを開いた。

『水素水 効果』っと。

 あたしは検索結果のあるページを読み上げた。

「水素水にはなんと、恋愛成就の効果も!」

「うっ」

「寄せられた多くの声! 水素水飲んだら部活も勉強もうまくいって、彼女できました! もう手放せません!」

「うっ、ぐぅっ」

「そして水素水で、クリスマスに彼女と……」

「やめろおおおお!」

「水素水! 水素水! 水素水!」

「うぅ……ぐすっ……」

 そして男の子は泣きながら気絶した。


 言葉に出すだけで魔王(?)倒せる水素水、マジすげーわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る