028「エルフ娘と、備中鍬」

新しく産業を作るより、既存の産業を伸ばした方がてっとり早い。

元高校生で、実業家としての経験が全くないシルバーは、村中を歩き回りながら、エルフィンに質問した。


「なぁ、エルフィン。

この村の産業ってなんだ?」


「の、農業なのです!」 恐怖とともにオッパイが揺れた。


『ジャガイモを植えてチートしよう!これが異世界のテンプレ!』

『コーヒー畑作ろうぜ!コーヒーは中毒性たっぷりだ!』

『砂糖を作ってチートする!』

『いや、ここ異世界じゃなくて未来世界だろ?

なら、ほとんどの作物が世界中に拡散しまくってると思うぞ……。

大交易時代で、大抵の物は安くなったし……』


「農業か……どうすればいいかな?」


シルバーは困った。彼が住んでいた日本国は、農業国ではなく、工業大国。

農業を学んだ経験は、ごく僅かだ。

しかし、そういう知識面の不足は、ネットの皆のアドバイスで補える。


『金属製の鍬でも渡せばいいんじゃね?

ここらへんの農民、木製の安い鍬で耕作してたろ?』

『木製の鍬より遥かに効率よく、畑を耕作できるお!

土が柔らかくなって、栄養豊富になって、作物の生産量がアップだお!』


「なるほど……結構、単純な道具も、文明の利器なんだな……」


「シルバー様……?

な、なにを、す、するつもりなのですかっ……?」


「エルフィン、畑に行くぞ」


「は、畑っ……?」


「金属製の鍬を配りに行くんだ」


「はいっ?」


 エルフィンは呆けた顔をして、首を傾げた。

ネットの皆の声が、雑音混じりに聞こえている彼女には、内容がさっぱり分からない。


(思考が全く読めないのですよっ……!

きっと天才かキチガイのどちらに違いないのですっ……!)


『妖精さんのコミュ力が微妙に低いっ……?』

『うむ……金正日を思い出す指導者っぷりだな……

彼も思いつきで内政して、次から次へと失敗しまくりだった……。

領民を餓死させる結末で終わらなければ良いのだが……』



~~~~~~~~~

領主の館から離れ、畑を訪れたシルバー達。

畑には野菜や稲など植えられていた。

適当に農作業をやっていた領民達は、支配者の到来に恐怖し、仕事を放棄して土下座してくる。

シルバーの後ろから、ゾロゾロと、見かけ倒しの骸骨戦士達が付いてくるせいで、迫力満点だった。


「ひぃー!シルバー様が来ただぁー!」

「この世の終わりだぁー!」

「娘を隠すんだべ!」「いや、むしろ娘を差し出して機嫌を取った方がいいべよ!」


(き、嫌われ過ぎなのです……!

私も、シルバー様の秘書というだけで、嫌われて誰も会話してくれないのですよっ……!

私限定で、税金も倍になって生活が苦しくなったのですっ……!)


エルフ娘は、シルバーと一緒に、村中の嫌われ者になったと理解し、ため息をついた。

隣にいるショタ妖精は、そんな事に気がつかず、『他者には見えない』ネット通販の青い画面を出し、鍬を探した。

ちょうど、中古の備中鍬が大量に売られていたから、一気に購入し、膨大な数の鍬を出現させて、地面にドサドサッと、落とす。

備中鍬は、畑を効率よく耕作するために作られた鍬で、穂先が三つに分かれている。

つまり、効率よく地面を深く掘り、広く耕作する、その両者を実現するための最適な形だ。

シルバーは、備中鍬の一つを手に取り、天高く掲げて、演説を開始する。


「これは備中鍬という道具だ!

今日からこれを使って農業すれば、効率がよくなる!

簡単に説明すれば、土がとっても柔らかくなって、作物が育ちやすくなる!」  


『妖精さん!そんなに大盤ぶるまいしたら貯金がゼロになるぞ!?』

『他人の金だと思って、散財しすぎだろwwwww』

『鍬を作りたいなら、金属資源だけ大量購入して、村の鍛冶師に作らせろよwwww

そっちの方が安いコストで大量生産できて、雇用もできるぞwww』


(あ、ありえないのですっ……!これは一体、どういう力なのですかっ……!?

魔法は、運を消費して行使する欠陥品なのですっ……!

夢幻なら、こんな凄い能力を連続で行使したら、レベルが極端に高くない限り、今頃、暴走するか、死んでいるはずなのですっ……!

や、やはり、シルバー様は、て、転生者だったりするのでしょうかっ……?)


領民達は、恐る恐る、地面に落ちている備中鍬に近づき手にとった。

試しに地面へと向けて打ち込む。すると土は軽やかに削れて、柔らかくなった。


「こ、こんな使いやすい道具初めてだ!」

「すげぇだ!」

「にゃにゃ、大きすぎて吾輩には使い辛いにゃー」

「わぅーん」


一部の猫人や犬人などの小柄の亜人は不満そうだったが、後で子供用の鍬を購入するなり、ドワーフの鍛冶師に作らせるなりすれば、解決できる問題だった。

農業用トラクターと比べれば、べらぼうに生産力は低いが、人力で使えるという点がこの場ではメリットになる。


「皆が喜んでいるな……俺、生きていて良かった……」


『でも、これが未来世界とか……悲しくないか?』

『江戸時代の頃にあった産物すらない未来』

『荒廃しすぎwwww何があったwww未来世界の人類www』


ネットの皆のツッコミが、心にグサリと刺さったが、シルバーは元気よく、領民達に命令を下す。


「いいかっ!今日から、これで農業をするんだ!

そうすれば、収穫量がアップして、たくさんっ!ご飯が食えるぞ!」


「「わ、わかりました!りょ、領主様ー!」」

「「い、命だけはご勘弁くださいっー!」」

「「きょ、今日からそれで、畑を耕せば良いんだねー!わ、わかるよー!」」

「わ、吾輩達の身体じゃ、この道具は無理にゃー!」


『感謝どころか、恐怖されている件』

『そりゃ、上司が現場の事情を無視して、色んな事を押し付けているも同然の行為だからな。

現代社会でやったら、こんなの組織のブラック企業フラグだぞ……』

『現場のシステムを無視して、改革を押し付ける上司。

間違いない、妖精さんはブラック上司の素質があるな……』


この時、領民が素直に従ってくれる。

シルバーはそうやって楽観視した。







数日後、再び、エルフィンを連れて、畑へとやってきたシルバー。

領民達の手には金属製の備中鍬……はなく、木製の単純な鍬が握られていた。


「おいこらっ!?

俺が上げた備中鍬はどこにやった!?」


自動小銃を片手に握っている妖精の姿に、領民達は恐怖した、一匹の猫人が緊張しながら返事を返してくる。


「う、売りましたにゃー。高値で売れて大儲けですにゃー。

今年はこれで食っていけそうですにゃー」

「こら、正直に言っちゃダメだべ!殺されるべよ!」

「ご、ごめんなさいですだ!

売ったら金になると思って、売ってしまっただ!」

「許して欲しいのにゃー!」


『ここは暗黒大陸か!』

『ちょwwwww農業に使う道具を売るとかwww』

『上からやる改革は、大抵は成功しないぞ。人間は命令されたら反発する生き物だからな!』


シルバーとエルフィンは唖然とした。

特にエルフィンは、エルフ耳がピョコピョコ激しく動いて、興奮している。


(た、大変なのですっ!

このままじゃ、オジサン達が大量虐殺されちゃうのです!

ど、どうすれば良いのですか!?)


エルフ娘は隣にいる最高権力者が、どのように怒るのか恐れた。

村人が数十人単位で死ぬかと思われた。自動小銃AK47の殺戮能力があれば、この場にいる全員を1分以内に殺せるだろう。

だが、エルフィンの予想に反して、シルバーは落ち込んだ表情で――


「あ、うん、そうか……。

売ってしまったのか……」


『妖精さん、とりあえず、罰金をとった方がいいですぞ!』

『……公共の備品だからな……ナァナァで済ますと後が大変な事になりそうだ……』


「じゃ、お前ら罰金な。

後で、相場を調べて決めるから、ちゃんと金を用意しとけよ」 


『全く躊躇がないだと!?』


「あ、悪魔にゃー!?恐ろしいお方ですにゃー!」

「や、やめるだ!トカゲどもみたいに殺されてしまうだっ!」

「ゆ、許して欲しいですだっ!べ、別に悪気があってやった事ではないですだ!」


顔がトカゲだったり、熊だったりする亜人達は、シルバーの要請を拒絶した。

そこに、黒いドレスを着た、銀髪ロリがやってくる。

シルバーの嫁のプラチナだった。


「まぁ、何か問題でもありましたか?」


『妖精さん、こういう時は、内政経験豊富なプラチナたんと相談した方が良いと思いますぞ!』 

『うむ……私達と妖精さんだけでは……どうにも地域のやり方がわからないから失敗してしまうな……』

『銀髪ロリと子作りはよ!』


「ちょうど良かった、プラチナに聞きたい事があったんだ。

これ、どう思う?」


シルバーは、ネット通販から備中鍬を購入して、プラチナに見せた。すると――


「まぁ……変わった形の槍ですね……。

これで相手の頭を突き刺したりするんですか?」


「いや、これ鍬なんだ」 


「ああ、なるほど、効率よく土を掘り返す構造なんですね、これ」


「普通に、領民に無償配布したら転売されて大変だったんだ……なんとか上手い運用方法ないだろうか?」


「幾らくらい用意できます?」


「鉄資源なら、トン単位で用意できるから……ドワーフの鍛冶師に、同じものを作らせて量産とか出来ないか?

雇用も産まれて、鍬作りが産業になると思うんだ」


「まぁ、それでしたら良い方法がありますよ!

目指せ世界征服です!」


プラチナがとんでもない方法を考え、シルバーの耳に口を近づけて語った。

それは古代の支配者達が、農民を支配し、管理するために作られた制度とよく似ている。


『ちょwwwww未来世界なのにやり方が古代とかwwwww』

『きっと核戦争が起きて、こんな世界になってしまったのだろうな……』

『地球に溢れかえっているはずの金属資源はどこに行った!』

『明らかに人類史が、一度、石器時代に逆戻りしてしまっている件』


(な、なんかよからぬ事が進んでいそうなのですよっ……!

でも、金属製の鍬があれば、作物の生産量がアップして、私の給料もアップするのですか?

わ、分からないのですっ……)





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(´・ω・`)鍬でチートする


農民(´・ω・`)しゅげぇぇぇぇ!!なんだそれえええ!!!


(´・ω・`)鍬だ!


農民(´・ω・`)やべぇぇぇ!!素手でやるより、効率いい!



(´・ω・`)(今までどうやって生活してたんだ!)





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備中鍬×100本 10万円  効率よく、土を抉って柔らかくする鍬ですぞ。

江戸時代の農業を支えた単純で素晴らしい道具ですぞ


鉄(´・ω・`)現実では、金属資源が恐ろしいくらいに安いから、金属資源を購入した方がお手軽だお。


消費総額12万1100円 ☛ 22万1100円





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(´・ω・`)主人公が今まで購入したアイテムは、こっちに全部纏めた。

http://suliruku.futene.net/Z_saku_Syousetu/Tyouhen/Neltuto_tuuhan/Aitemu.html


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