002 「妖精さん、異世界でネット通販する」 

シルバーは目を覚ました。

周りには、広大な大自然が広がっている。木々が太陽を隠すほどに生い茂り、虫がウヨウヨ蠢いていた。


(うわぁ……虫だらけだ。

都会のコンクリートジャングルに比べると不潔すぎる気がするっ……。)


人間は、都合の良いように自然を改造している生き物だから、ここで暮らすの無理。そうシルバーには実感できた。

異世界には、コンビニも、快適な自動販売機も、クーラーもない。

生きていくために必要な道具は、自身の体と『ネット通販』だけだ。


(……異世界生活が、遭難からスタートとか。

あの観察系お姉さん酷すぎる……。

そりゃ死ぬよ。死んじゃうよ?

現代人は、こんな環境に適応できないよ?

日本国内でも遭難したら死ぬよ?しかも、異世界で遭難とか難易度高すぎるだろう……)


憂鬱な思いになったシルバー。だが、妖精は空を飛べる種族だということを思い出し、すぐに今の格好を確かめる。

背中からは紫色の蝶蝶の羽が生えていて、腰まで届く銀髪が美しかった。

肌も真っ白で艶々。

活動しやすいように、短い茶色のズボンと、黒いシャツを着ている。


(新しい体だよ、俺。

妖精さんになれたよ、30歳童貞の魔法使い的な意味の妖精じゃないよ……これからどうすれば良いんだろうか?

サバイバルするために必要な生活力もないよ、俺)


『うはwwww』

『なんだ、この動画wwwwww』

『妖精さんだ、可愛い』


謎の声が、直接、シルバーの脳内に響いた。

一瞬、驚いて場から逃げそうになったが、自分が貰った転生特典を思い出す。


(これがネットの皆の声を聞く能力っ……?

俺、リアル携帯電話さん状態?)


『ふつくしい妖精さんだ』

『こんなに可愛い子が、男な訳がない』


ネットの声に、シルバーは多少の鬱陶しさを感じたが――ここは異世界なのだ。

生活能力がない彼が生き残るには、どう考えてもネット広告による収入や、ネットの賢者達による助言が必要になる。

ならば、やるべき事は一つ。

真摯に、丁寧に、現在の事情を訴えるしかない。


「この動画を見ている皆っ!

お願いっ!皆の力で俺を助けてくれっ!」


『そういう設定か』

『視聴者参加型?』

『いやいや、こんなリアルな映像で、視聴者参加型とか無理だろ……。

でも、妖精さんはリアルじゃない異常な美しさだよな……やっぱり作り物か』


信じてもらうまで、徹底的に今の現状を説明する必要がある、そう、シルバーは判断し行動した。

地球に自動的にアップロードされている動画が、ガチでリアルの異世界の映像なのだと、視聴者に理解させるには――ネットの皆のコメントに反応すれば良い。

そうすれば皆が納得してくれるはずだ。

既存の技術では、視聴者の注文に応じて、リアルタイムに反応する高クオリティの動画なんてものは、存在しないのだ。


『このショタの名前なんだろう?』

『自己紹介パート、はよ』


丁度いいコメントが書き込まれた。

シルバーは、元気よく答える。


「俺の名前はシルバー!

お願い!この異世界で生活するために、助けて!

さっきまで日本にいたけど、マンションの十階で、トラックに轢かれて殺されて、この世界へ連れてこられたんだ!」


『設定がざるすぎるだろwwwww

その妖精の外見で日本人設定とかwww』

『どうやったら、十階にトラックが来れるんだよwwwww』


「仕方ないだろ!

全部、事実なんだからっ!」


『あれ……この子、コメントに反応してないか?』

『最近のAIと動画技術凄いな』

『妖精さんを抱いてクンカクンカしたい』


「ここは現実なんだ!

地球とは違う星にいるんだっ!

お願いだから信じてくれっ!」


『そんな訳ないだろwww』

『惑星間で、リアルタイム通信とか不可能だろwww』

『アホかwww矛盾ありすぎwww』


信じてもらう難易度が高すぎて、シルバーは愕然とした。

違う惑星にいる。この説明の仕方が不味かった。

地球がある太陽系で、人間が住める星は地球しかない。

地球と太陽の間を、光が移動するだけで片道8分19秒も消費するのだ。

現存の技術では、惑星間のリアルタイム通信なんて不可能。

どういう技術で、地球にいる皆と通信できているのか、シルバーも理解していない以上、説明のしようがない。


(異世界だと信じてもらうには……ど、どうすれば良い……?)


考えても考えても、分からない。

だから、ひたすら何分も時間をかけて、ネットの皆と対話する事で信じてもらう事に務めるしかなかった。

そのおかげか――30分を説明に費やした結果、好機が到来する。


『ニュースで三十階建てのマンションが、崩落する事件が報道されてたぞ』

『トラックが空から降ってきて、マンションを倒壊させたらしい……なにこれ怖い』

『え、まじ?』

『この子、異世界にいるのか?』


「し、信じてもらえたっ……?」


『なんで背中から羽生えてるの?コスプレ?』

『日本に住んでいた外人さん?

どこの小学校に通っていたの?』


「自分でキャラメイクした」ややこしくなるから、細かい説明は省いた。


『え?』

『はっ?』


「し、死んだら、真っ暗闇な空間に、いつの間にか居たんだ」


『うんうん、それで?』

『君、男の子?女の子?』


「そ、そこで大勢の死人達が、青いキャラクターメイキング画面で、好きな種族・性別・姿を自分で設定して、転生特典を貰って、この異世界に転生した。

な、何を言ってるのか、分からないかもしれないが、全部、本当なんだ。

信じてくれ」


『ちょwwwwwなにそれwwwww』

『ゲームチックすぎる転生な件』

『シルバーが、銀髪美少年妖精なのは……そういう理由かwwww』


「お願い!

ガチで切実なんだ!

異世界でサバイバル生活するために必要な知恵をくれ!」


『とりあえず、何が出来るのか教えろ。

そうじゃないと、こちらとしてもアドバイスできない』



「俺は転生特典のおかげで、ネット通販できる!

つまりっ!地球の物資を購入できるっ!

この動画は、その能力で自動的に動画サイトにアップロードされているっぽい!

惑星間の通信をリアルタイムで出来ているのも、それのおかげだと思う!」


『なにそれwwwwwwwwwwww』

『ちょおまwwwwwww』

『特典すげぇぇぇぇぇぇぇ!!!!惑星間通信とか最強しゅぎる!』


「しかも、残金たったの5万。

収入はネット広告収入頼り。

使い切ったら口座が凍結される」


『なんて少ない金額』

『とりあえず、通販サイト見せて』


「えと……あ、こうすれば良いのか。

はい、通販サイト」


通販サイトを表示する方法は、シルバーには本能的に理解できた。

動画を無意識にアップロードしているのと同じで、彼の生態の一部と化している。

空中に青い画面が表示され、ネットの皆がそれをジックリと見た。


『パルネットってなんだよwwwそんな通販サイト聞いたこともないぞwww』

『なんでwww奴隷とかwww銃器とか載ってるのwwww』

『うはwwwww中古品とかあるから安いwww』

『某国が廃棄した化学兵器まで売ってる件』


どうやら、シルバーが使うネット通販サイトは、地球には存在しないようだ。

しかも、世界各国の商品を購入できて、汎用性が高い。

今の彼は、動くホームセンターさん。


「異世界のサバイバル生活って、何が必要だろう?

人間が滅亡寸前っぽい世界らしい」


『とりあえず、拳銃とナイフ買おう』


「どの銃がいいかな……?

俺の銃の知識って、アニメや漫画だけだから、全く分からん……」


『ワルサー P38。ルパン3世が使っているドイツ製の軍用拳銃だ、故障し辛くて扱いやすい上に命中精度も高いぞ。銃弾も9mmパラベラム弾だから安かったはず』


「ルパンってフランス人なのに、なんでドイツ製の銃を使ってるんだ?」


『ちょwwwwwサバイバルする時に、そんな事で悩むなよwwww』

『確かにフランスって、第二次世界大戦のせいで、ドイツの事が大嫌いな奴多いもんな……』


シルバーは助言に従い、躊躇なく、中古のワルサーP38を1万円払って購入した。

すると――黒光りする拳銃が、目の前に出現する。

彼はそれを手に取り、そのズッシリとした重量に誇りとロマンを感じた。

これで何時でも、ルパン三世ゴッコができる。


『購入したら、即現地配達とか便利すぎる……』

『銃弾も買っておけよ。銃の火力は、銃弾に全部依存しているって事を忘れちゃ駄目だぞ』


「あ、うん」


中古のワルサーP38を1万円 (ホルスター付き)

中古の9mmパラベラム弾×50 千円 (ホルスター付き)

ステンレス製の中古ナイフ 千円  (ホルスター付き)

残金 3万8000円

後の物資は、必要に応じて購入するという形になった。

シルバーは、ネットの皆の心強い助言の数々に、感謝の心をを抱く。


(俺……一人じゃないんだ。

皆の力で生かされている。ありがとう。お前ら――)


『おいこらwwww

ワルサーとか骨董品だろwwww

普通、装填数がもっと多い拳銃買えよwwww』

『グロック買え、装填数17発だぞ。

ワルサーの装填数たったの8発だろ?』

『素人にワルサーとかないわ。あれ第二次世界大戦時の骨董品だろ?』


シルバーはこうして、二つの拳銃を購入する羽目になった。

情報はたくさんあっても、それを有効活用できる頭がないと役に立たない。

そんな情報戦の初歩中の初歩を、無駄に金銭を浪費させられた事で理解した。


(一気に残りのお金が半分くらいになってしまった……ど、どうすれば良いんだ……?)


『スカート履いて!』

『自動小銃買おう、自動小銃!』

『異世界で役に立つ武器?それはスコップさ!』


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中古グロック17 17+1発入る複列式弾倉を採用している拳銃だよ。 オーストリア製

中古ワルサー38 ドイツ製の軍用拳銃。命中精度が高い。

サバイバルナイフ 厚い刃渡りのナイフ。

9mmパラベラム弾×50  



残金 2万8000円

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中古グロック17(´・ω・`)ちょwwwワルサーさんww

たった8発しか装填できないんすかwwwww

俺、合計17+1発装填できますよwwww



中古ワルサー38(´・ω・`)悔しいっ……!ビクンビクンっ……



妖精さん(´・ω・`)LV1

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