モモンガのおしごと 1
今日はやることがなくなり、暇を持て余す社長なため、少しあちらの世界へ様子を見に行こうと思う。
いやいや暇なんかじゃないぞ。あちらの世界の安全性の確認と、モモンガの仕事ぶりを見るためだ。社長自ら査定をしようというわけだ。
今日は4組10人という珍しい組み合わせの客たちだ。
今までならば5組10人、或いはひとり客含め10人なのだが、要望がそれなりにあった家族向けプランを作ったからこうなった。
家族で異世界に旅行する時代になってしまったのか。まあその時代を作っているのが自分なわけだが、最先端とは言い難いのがなんとも。
そんなわけで今、俺はカンダラと駅にいる。子供を受け入れるのは初めてだから少し緊張するなぁ。
待ち合わせ場所にいるのは──3組だ。例の家族はまだ来ていないようだ。
っと、そんなことはなかった。店の中で待っていたのだろう、異世界風喫茶『アウプテ』から出てきたのがそうだろう。
「こんにちはーっ」
元気よく挨拶してくる小学校低学年くらいの男の子と女の子だ。一緒にいるのはもちろんご両親だろう。
「いらっしゃい、ようこそ」
よしこれで揃ったな。それじゃあ早速……というところで、子供たちの母親がこちらへ近付いてきた。
「あの、こういったことを聞くのもなんですが、子供たちへの安全はどうなのでしょう」
やはりその質問が来るか。これに対しても一応マニュアル的なものを用意してある。だけど今回は別で俺が思ったとおりのことを言わせてもらう。
「安全には充分配慮はさせて頂いているのですが、なにぶんお子様にいらして頂くのが初めてなもので、できればツアー後に至らなかった点などお話を聞けたらと思っています」
「えーっ!? 僕たちが最初なのー!?」
「はい、世界で初めて異世界へ行くお子様ですよ」
正直なことを話す。こういった商売は誠意が大切だと思っているから、絶対安全ですなんていう嘘っぽいことは言いたくない。
それよりも世界初。そう言われてから子供たちは大興奮。ご両親も少し誇らしげだ。
まあ未成年という括りにしてしまうとモモンガがいるからな。お子様あるいは小学生初くらいであればいいだろう。
小屋に到着し、細かな説明。カメラやスマホなどはクッションボールの中へ入れ、向こうに着いたら引き上げる。
真っ先に向かったのはもちろん子供たち。モモンガには伝えてあるからきっと大丈夫だろう。
ご両親他、3組も動きやすい服装に着替え、早速穴の中を通る。そして通った先にあるのは────小屋だ。
小屋to小屋と我々は呼んでいる。お客さんたちちょっとがっかり。
しかしそこへ颯爽と現れるのが我らのモモンガ。今日は両側に子供たちがしがみついている。
「いらっしゃいませーっ」
「「おおおー」」
男性2人組の客、モモンガに釘付け。今日はウサギっぽい服装だ。もちろんツノもつけている。
子供たちはなんだろうか、異世界の獣人を捕まえた気分にでもなっているのかもしれない。だが彼女は日本人だ。
全員が通ったところでようやく扉を開け、外へ出る。今日は慎重のため8人警備だ。そしてヴィージャも用意してもらっている。
子供にはちょっと距離が長いから必要となったら載せるつもりだ。一応保険みたいなものだ。
「あっ、そうだアリスのおじさん」
「どうした?」
モモンガがニヤニヤしている。なにか企んでそうな顔だ。
「実は……ほらっ」
凄く自慢げになにかの金属板を見せてきた。なんだこれ? ふむふむ……全くわからん。
「なんだこれは」
「えーっ! ちょっとは文字覚えて欲しいなぁ」
すまん、これでも頑張ってるほうなんだ。てかモモンガの知識吸収力が異常過ぎるんだよ。
「んで、これはなんなんだ?」
「これはね! コヴァルキンスカ使用許可証なんだよ! 凄いんだよ!」
コヴァルキンスカって雷系のやつか。確かコディンサ……守衛みたいな人しか持てないというやつだ。日本で言うなら猟銃所持許可証が近いかもしれない。
それはかなり信用がないと持てないと思うし、それよりモモンガが市民として受け入れられていなければ無理なんじゃないのか。さすがコミュ力の化身。
ということは、この先でやるモモンガのランシェッタショーはかなり派手なものになるのか。
そんなわけでやってきた、いつもの魔物襲われポイントに到着だ。山から密かに追われた魔物が我々を見つけ、襲い掛かってくる。そこをコディンサとモモンガがランシェッタで退治する。
残酷のように受け取られるかもしれないが、これは狩猟だ。退治された魔物はあとでおいしく町の人たちが食べる。
このことはサイトにもしっかり書いてあるため、かわいそうだとか思う人は来ないだろうけどな。釣りみたいなものだと思ってもらえればいい。
来た……ってかでかっ! なんだあのサイズは。4メートルはあるんじゃないか? 熊の化け物って感じだ。大サービスだな。
獲物がでかいため、全員で遠距離から攻撃するらしい。俺たちはそれを見守る。
「「イーア・シャッテ・ミスン!」」
「「イーア・ダグデ・ミスン!」」
それぞれが間を空け、火と土の魔法を放つ。土の魔法は尖った石のようなものが飛んでいく刺突系のような魔法だ。
ある程度ダメージを与えたところで、モモンガが満を持して登場。マントをバサァッと翻し、ランシェッタを構える。
ライフルタイプのようで、端を肩口に付け、狙いを定める。
「イーア・コヴァル・ミスン!」
パァンという破裂音と共に、青白い雷がモモンガのランシェッタから一瞬だけ放出される。反動がでかいのか、モモンガは軽く後ろへ吹き飛んだ。
「「「おおおおお……」」」
凄まじい魔法の連続に、客たちは大興奮だ。
「すげえー! お姉ちゃんの魔法、すげえ!」
子供がはしゃいでモモンガに駆け寄ると、モモンガは得意満面な笑みで振り返る。魔物はぴくりともしない。
ありゃ確かに一般人へ使わせるのは厳しいな。もし悪用されたらと考えたらゾッとする。シャッテも大概だけど。
「あ、あれ、あれやらせてもらえるのか!?」
男性客は興奮気味に話す。でもあれはさすがに駄目だろう。
「すみませーん、これはこの国の警察しか使えないんですよー。でもその前にやってた火の魔法とかはできるので、それで楽しんでくださいねー」
モモンガが手のひらを合わせ、可愛らしく謝罪する。男性客たちは少し残念そうだが、モモンガにそう頼まれたら仕方ないなと笑ってくれる。
さすがモモンガ。相手に謝ると同時に自分はこの世界の人間だとアピールしている。恐ろしいほどに日本語ペラペラだけど、そこらへんは見逃してもらえるだろう。
こうしてみんなの興奮が収まらぬうち、町へとたどり着いた。
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