爺ちゃんの遺産~おっさんアリスと不思議世界

狐付き

プロローグ

 爺ちゃんが死んだ。


 少し寂しい気もするが、98歳だ。大往生と言っていいだろう。

 来年白寿だけど無理そうだねなんて話をしていた年始から考えれば、よくもったといっていい夏の始め。季節の変わり目にやられたのだろう。


 昔は毎年夏になると遊びに来たものだ。俺がガキのころにはファミコンとかロクになかったし、爺ちゃんの森にはカブトムシやクワガタがいっぱいいたからな。

 あの時代は、カブトムシやクワガタをいっぱい持っていればクラスでキングになれた。田舎の山に行くと言えば羨ましがられたものだ。


 今じゃあ都会のほうがスマートフォンのアプリのモンスターがたくさんいるものだ。子供たちからしたら田舎に魅力がないだろう。

 ────っと、懐かしがっている場合じゃなかった。俺もあのころのガキじゃない。葬式の手伝いをしないといけないんだ。




「……は? 遺産? 爺ちゃんが俺に?」

「はい。遺言にそう記載されています」


 生前爺ちゃんは賑やかなのが好きだったことと、98まで生きた大往生であったことにより、粛々というよりドンチャン騒ぎな葬式の最中、俺は弁護士から呼ばれて爺ちゃんの遺言のことを聞かされた。


 親父の姉や弟の子供、つまり俺の従兄弟たちは田舎が嫌だったらしく、全然遊びに来なかった。その分、年1回とはいえ泊りで遊びに来る俺のことをとても嬉しく思ってくれていたそうだ。

 だから親父と姉弟とは別に、俺へ宛てた遺産があるらしい。


 ちょっとうるっときた。そして後悔する。もっと来てやればよかったと。俺が来るたび凄い喜んでいたもんな。

 別に遺産なんてどうでもいい。爺ちゃんを喜ばせてやりたかった。


 いや、どうでもいいってことはないか。わざわざ俺のために残した遺産だ。俺がもらうことで爺ちゃんが喜んでくれるはずだ。


「だけどこういうのって家族が揃ったときに教えるんじゃないですか?」

「ええ、それとは別にあなたへ先に伝えるよう言われていました。それと、こちらが手紙になります」

「手紙?」


 爺ちゃんが遺言とは別に、俺へ宛てた手紙だ。早速開けて中を確認する。




幹継みきつぐ


 子供の頃、いつも遊びに来てくれて有難う。おじいちゃんはそれがとても嬉しかった。

 だからお前がいつも遊んでいた「爺ちゃんの森」。それをどうしてもお前に受け取ってもらいたかった。


 お前がもうあの時みたいにカブトムシを探す少年ではないことくらいわかっている。だけどあの森にはお前との思い出がたくさん詰まっている。

 もしよければ、お前に子供ができたとき、連れて行ってやってくれ。』



 俺は涙を流していた。

 ごめんな爺ちゃん。駄目な孫で。

 俺ももうじき40だ。ひ孫を見せてやれたであろう年齢だ。


 だけど今の俺は結婚どころか彼女もいない。仕事も派遣でなにも自慢できるところがない。


 でも爺ちゃん。いつかあの森へ俺の子供を連れていくことを誓うよ。

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