君にもう一度、◯◯と言う。

天野 アタル

第1話 やらかした。


 その日。

 私は、空を飛んだ。


 ああ…………。

 ……ごめんなさい。訂正します。

 だってそう言うと多分、箒にまたがって飛んだりとか、武空術で飛んだりとかっていうファンタジックなイメージを抱く人がいると思うから。


 空を飛んだって。

 間違っていないとはいえ、それだと明るい話に聞こえてしまうかもしれない。

 先に断っておくけれど、これはそんな希望に満ちた話ではない。むしろとても残念なお話なのだ。

 私だって、どうせだったらジブリ映画みたいに悠々と空を飛んでみたかった。

 だけどその時は余裕も自由もなくて、飛んだというよりは、そう。

 宙を舞った――、舞わされた。

 いやと表現するのがこの際一番正しいと思う。

 それは、たった一瞬のこと。


 まるで、小学生が放り投げて遊ぶ体操着の布袋のようだったかもしれない。

 滑稽に空中で回転した私が最後に見たのは夏の大三角形――ではなく。

 雨雲が張り巡らされた汚い夜空で。

 もちろん次のオチと言ったら、意識がぶっ飛んでしまう衝撃と、ゆるゆると視界が遠くに離れていく初めて体験する寂しい感覚。そのままなにもかもが黒に染まってそれっきり。


 前置きが長いと、飽きて帰られないように話を巻くけれど。

 つまり、結論だけ言うならばこうである。

 私はその日。ある些細な事件に巻き込まれて。


 背負い投げされて。

 頭を打った。


 ただ、それだけの話で。

 それだけでは済まない。とんでもない人生がスタートしてしまった話にこれからなるという。

 これはそんな話なのです。


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