第6話「創造の街ゲネシス」

 俺達は悪魔王国でのミッションを終え、現在の本拠地としている街ゲネシスへ戻って来た。

 今日もゲネシスは人、人、人。

 夥しい数の冒険者と商人で、街の中央広場は活気に満ち溢れている。

 人口はもう二万人を越したらしい。

 俺はこの世界の都市全てを知っているわけではないが、賑やかさではどこかの国の下手な王都にひけはとらないだろう。


 ちなみに俺と嫁ズはこの街では結構な『顔』である。

 あちこちに知り合いが居て、ちょっと歩くと四方から声を掛けられた。

 大抵は俺達が救った迷宮内で行方不明になった冒険者だからお互いに分かっている。


 たまに嫁がこの街で新参の冒険者にナンパされるのはご愛嬌だが、既婚者だと説明しても引き下がらない奴はワンパン入れて、街の衛兵へ引き渡す。

 少々野蛮なようだが、冒険者が多い街の治安なんてまあそんなものだろう。


 だが、驚くなかれ。

 こんなに賑わっているのに、このゲネシスの街は半年前に開かれたばかりなのだ。

 信じられないと言われそうだが真実である。


 北の大国ロドニアとアールヴの国イエーラの国境には数千年前に滅びたガルドルド帝国の遺跡があった。

 双方の国からは呪われた遺跡、失われた地ペルデレと呼ばれていた。


 ガルドルド帝国が滅びた数千年前……

 世界が滅びかねない怖ろしい戦争があった。

 学者さんの言い方では冥界大戦と呼ばれるものだ。


 戦争のきっかけは高度な魔法文明を誇った人間の国ガルドルドが、征服した地上に満足せず、版図を魔界と呼ばれる異界へ求めた事である。

 宣戦布告されれば、当然魔界の主である悪魔は黙ってはいない。

 人間対悪魔の激しい戦いが行われ戦争は長きに渡り続く事になる。


 緒戦は勝利に沸いたガルドルドであったが次第に悪魔から圧倒され、敗戦濃厚となった。

 敗北を悟ったガルドルド魔法帝国の魔法工学師達が身の安全を考えて避難した地がゲネシスである。

 結局、冥界大戦に敗れたガルドルドの残党達はそのままずっと引き篭もる形となった。


 ガルドルド人が地下深くへ去り、残された地上の街を勝ち誇った悪魔軍は徹底的に破壊した。

 街のシンボルであった創世神の神殿も悪魔達の容赦ない攻撃により、完全に破壊され僅かな痕跡が残るだけとなったのだ。

 だが悪魔軍は深追いをしなかった。

 彼等はつい欲をかいて地上全体の支配に乗り出したので攻略に手間がかかる迷宮へ足を踏み入れはしなかったのだ。

 迷宮の入り口は神殿の跡にぽっかりとその入り口を開けていたというのに。

 結局、悪魔もこの世界の管理神でもある戦闘神スパイラルに手酷い敗北を喫し、魔界へ逃げ戻ったのである。


 そして……

 冥界大戦を生き残った人の子が滅びたガルドルドに代わる新たな国を築き、この地をたまたま訪れた。


 遺跡の探索により迷宮への入り口が発見され、財宝目当ての冒険者、または調査目的の 学者などが足を踏み入れて、次々と行方不明となった。

 戦いに勝って栄光を摑む為に造られた希望の街は、逆に全てが失われる恐怖の街と呼ばれ怖れられたのだ。


 失われたガルドルドの王女ソフィアを嫁にした俺は様々な事情により迷宮へ挑んだ。

 紆余曲折はあったが、結果迷宮の謎を解き、大勢の行方不明者を助け出した俺。

 最終的にガルドルドの残党と理解し合い、ペルデレを希望の街へ再建する事を提案したのである。

 折角造った迷宮を『売り』としてこれからも活かす迷宮都市という形で――


 だが現在のペルデレはアールヴの領地内にある。

 アールヴに黙って勝手に街を造ると差し障りがあるので、事前にしっかりと根回しも行った。


 現支配者であるアールヴには了解を取った俺の提案を、ガルドルド側は全面的に了解した。

 こうなると善は急げだ。

 ガルドルドは早速工事に取り掛かったのだ。


 まず地下迷宮の改築が密かに行われた。

 全10階の迷宮は各階が約倍以上の大きさに拡張され、頑丈に補修された。


 地下1階から5階を冒険者用に開放し、新たな怪物達も放って苛烈な冒険用の迷宮に仕立てた。

 目玉として、ガルドルドの魔法工学師達が製作した上質な魔道具を、迷宮内に設置した宝箱から発見出来る仕様としたのだ。

 命を懸けて自身を鍛え、運が良ければご褒美として金になるお宝をゲット出来る。

 高価な魔道具は、ごくごく稀にだが金貨1,000枚※に相当するものも出た。

 ※約1,000万円

 こうなると噂が噂を呼んで、一山当てようとする冒険者が押し寄せたのは必然であった。


 地下6階は悪魔達の商売用に開放し、裏の商業地区とする。

 俺の仲介で悪魔とガルドルドの仲も修復され、莫大な地下資源と引き換えに、ガルドルドの技術で魔界の食糧事情は改善されたのだ。


 一般立ち入り可能は地下6階まで……

 地下7階以降はガルドルドの身内のみしか入れない。

 だが元王女ソフィアの夫である俺は、当然身内扱いだから地下10階以外は出入り自由であった。


 ちなみに、地下7階は人工農場。

 地下8階はガルドルド人専用住宅部分。

 地下9階は王宮と官庁

 そして地下10階にはこの迷宮の心臓部といえるダンジョンコアその他装置が

備え付けられている。


 迷宮の工事が終わると次は地上部分だ。


 悪魔軍が破壊した建物の瓦礫が撤去され、改めて新しい街が再建された。

 地下以上に敷地を約3倍に拡大して、アールヴの国から自治を認められた広大な自由商業都市を出現させたのである。

 庁舎、創世神教会を高台に建造し、中央広場を中心に夥しい数の商店用店舗が建てられた。

 冒険者ギルド、商業ギルドも一緒に建てられて、建設中から冒険者や商人の問い合わせが殺到したのには参った。

 事務処理が追い着かなかった程だったから。


 新たな地上の街を治めるにはアールヴの町長が必要だ。

 その町長を誰にするかは難航した。

 俺達の事を理解してくれて融通も利く人物がベスト。


 結局、嫁のひとりであるフレデリカの母フローラが就任した。

 アールヴの純血性に拘るフローラは愛娘のフレデリカが人間である俺の嫁になることについて大反対した。

 フレデリカの実家エイルトヴァーラ家はとびきりの上級貴族であるから尚更であった。


 そんな諍いも少々あったが、俺の放った神力波ゴッドオーラと誠実な説得のお陰もあって今や俺達とフローラの仲は良好以上である。


 こうして……

 呪われた廃墟の街は新生、希望の街ゲネシスとして生まれ変わったのである。


 このゲネシスの街に俺達は屋敷を構えている。

 大きい屋敷だ。

 部屋は30室以上あり、花が咲き乱れる庭も広い。

 正門に鎮座する番犬はケルベロス。

 これで警備は万全だ。


 自宅に戻った俺達は大広間で寛ぐ。

 皆、これから行う商売への期待感に胸を膨らませている。


ご主人様マスター、今すぐにお茶を淹れますね。アールヴ特製のハーブテイですよ」


 優しく声を掛けてくれたのがフレデリカの元従士のハンナだ。

 他民族に排他的なアールヴ故に、最初は人間の俺を嫌っていたが、今はラブラブだ。


 ここで対抗して来たのがフレデリカ。

 アールヴの指導者であるソウェルの孫娘で、超お嬢様である。

 あまりの美少女っぷりに人間のファンクラブまであるくらいだ。


「駄目! ハンナは引っ込んでいなさい! お兄ちゃわんのお茶は私が淹れるの!」


「おいおい、喧嘩するなよ。ふたりにお茶をお願いするぞ」


「は~い」

「は~い」


 俺が諌めると、フレデリカが素直に折れてハンナとふたりで仲良く厨房へ入る。

 口論するフレデリカ達を、苦笑しながら眺めていたソフィアが問う。


「旦那様、今夜は宰相に会うのじゃろう?」


 宰相とはテオフラストゥス・ビスマルク。

 ガルドルド帝国元宰相で現在のガルドルド人達の指導者。

 技術提供専門であるガルド商会の会頭も兼ねている。


「おう! 今後の事を相談しようと思っている。頼みたい事もあるし」


「頼みたい事?」


「ああ、頼みたい事……テオちゃんに会ってからのお楽しみだな」


 俺が微笑むと、ジュリア、イザベラ、アマンダもソファに座っている俺にしなだれかかって来た。


「うふふ、頑張ろうね、旦那様」

「そうそう!」

「いろいろな人へ夢と希望を与えて、私達も楽しみましょう」 


「ああ、ずるい!」

「ずるいですっ!」


 ソフィア達とイチャしていたら、厨房から出たフレデリカとハンナもポットを置いて駆け寄って来た。

 他の嫁ズにスリスリされている俺に、これまた思いいきり抱きつく。


 ああ、リア充!

 6人の嫁に囲まれた俺は改めて幸せを実感していたのであった。

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