第10話 2度と来ない未来

 タイムリープ……タイムトラベルと異なり、自分が過去や未来に行き来できるわけではなく自分自身が過去の自分に遡ることを言うようだ。 つまり、この女の子の言うタイムリープが本当なら大人の男のだったオレが高校生に戻っていてオレが大人の時の記憶を持っているものだと勘違いしたのだという。


 本当にそれは未来のオレなのか、確認したかったが確かに男の名前は星宮道幻(ほしみやどうげん)……オレ自身らしい。


 大人のオレって言ってもいくつくらいなんだろう。何年タイムリープしたんだ?女の子は少し考えていたが、店のウエイトレスが注文を取りに来て一時会話は中断された。


 オレはアメリカンコーヒー、女の子はミルクティー、2人で食べれるようにサンドイッチのセットを注文した。


 しばらく無言と気まずい雰囲気が続いたが、注文した飲み物や食べ物がテーブルに届けられ、ひと呼吸おいたところで女の子が話し始めた。


「まずは自己紹介からします。 ボクの名前は加持マナセ……巫女の家系で星空を守る一族の末裔です。 タイムリープの儀式は本来禁呪ですが、道幻さん……がアクシデントで星守りの鬼に魂を切られてしまってタイムリープして命を繋ぎました。タイムリープした時間は5年ほど……でも儀式をしたボクと道幻さんには時間の誤差が生じたみたいでボクは半年早めにタイムリープしています。 ボクと道幻さんは6歳年齢差がありましたが今は1歳差です。 道幻さんの妹キアラさんはボクより年下になっていました」


 やっぱりオレは一度死にかけたのか……腹の大きな傷跡はその時のものだろうか。タイムリープは5年……。 たいした年数ではないが、この女の子からするとの時差があるらしいから大人の男だと思っていたオレがいきなりたいして歳の差のない高校生になったというわけか。


 っていうか5年後のオレはどうしてこんな若い女の子をパートナーにしてるんだよ? もしかしてロリ……と自分自身の悪口を言いそうになったが話から察するとパートナーっていうのは恋愛関係を指していたわけじゃないらしい。 セシリアもキツネの名前だったし、安心したようなガッカリしたような。


「あのさ……なんかさっき図書館で雪夜の言う通りにしたって言ってたよね? 雪夜も儀式に関わってるの?」


 あのあやしい雪夜の態度は何か隠し事をしているオーラが漂っていたし、アイツがタイムリープの儀式の主だと思ったが……。


「儀式はボクと雪夜さんの2人で行ったんですけど、年齢も記憶も維持してタイムリープしたのはボクの方で雪夜さんは道幻さんと同じで記憶があるかどうかよく分からないんです。 完全にタイムリープが終わったら雪夜さんが若返っていて儀式台から姿を消してしまって……。 ボクのことを覚えているかどうかも分かりません。フェネックキツネのセシリアはタイムリープと関係ない時間軸にいるとかで全部話を聞いてくれて助かりました」


 キツネにはタイムリープは効かないのか……。それってそのキツネが神とか何かそういう部類の生き物なだけなのではないだろうか。

 キツネはともかく問題は雪夜だ。


「雪夜はそんなにお人好しじゃないし、オレの命を助けるためにタイムリープするとは思えない。 たぶん、記憶のある状態で若返りたかっただけなんじゃないのか?」


「……雪夜さん、人気急上昇中のIT企業の若社長ですごく順調だったみたいですよ。違法ギリギリの活動もされていたみたいですけど」


「雪夜がIT企業の若社長……あの中小企業、本当に雪夜が継いだのか……しかも急上昇って」


「もう未来には戻れないみたいなのでこのまま普通に生活するしかないってセシリアにも言われたんです。 だから雪夜さんが本当にこの先IT企業の若社長になるかも分からないし、道幻さんが星守りの鬼に切られる未来は、もう来ません。ゴメンなさい。 未来の記憶がなくても道幻さんはこれから幸せになってくれればボクはそれでいいです。 道幻さんは命の恩人だから」


 命の恩人か…。

 未来のオレはどんな男だったんだろう。もう来ることのない未来か。


「ボク達……今後は会わない方がいいのかな? 道幻さんの未来の情報……教えてしまうのも良くないでしょうし。 ボクのこと覚えていなかったし……道幻さんの未来は自分で決めた方が幸せになれますものね」


 そういえば、オレが彼女と何のパートナーなのか、彼女は話そうとしなかった。オレに未来の選択余地を残しているのか?

「じゃあボクはこれで」

 逃げようとする彼女の腕を掴んでオレは引き止めた。


「えっちょっと待ってよ、雪夜は記憶あるかもしれないんだろ? オレが知らなくて雪夜は知っている……なんかものすごくオレだけ不利じゃないか?」


「雪夜さん、ボクが話しかけてもスマホでゲームして無視してましたし、記憶ないんじゃ」


「柊雪夜(ひいらぎゆきや)ってヤツは昔からそういうヤツなの! どうせ、とぼけてるんだよ。 記憶がないフリして今後もっと何かする気なんじゃないのか? とにかくタイムリープした責任はキミにもあるんだからオレの元から消えようなんてバカなこと言わないように! 加持マナセちゃん? 分かったな?」

 オレが半ギレでまくし立てるとマナセちゃんはポカーンとした表情でオレを見た。


「道幻さんって結構おしゃべりで強引な人なんですね……意外……」


「意外も何もオレはこういう性格なんだよ! 雪夜と渡り合うんだから警戒して生きていかないと」

 とりあえず次の休みにオレが未来で働いていたという天元シティに行って、セシリアというキツネに会いに行くことになった。

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