第3話 少女の意識

 一人の少年と少女が学校へ向かう途中だった。年齢は、どちらも16歳。同じクラスの同級生だった。少年、神庭航の半歩後をしなやかな足取りでついていく黒いロングヘアーが特徴的な美少女。少女の名前は、神楽澪と言った。航は、静かに自分の後ろをついて来る澪に振り向いた。

「どうした? 今日は、えらく静かだな?」

「そんな事は、無いわ。いつも通りよ」

澪は、航の問いかけに表情を崩さずに冷静に答えた。そんな澪の態度に航は、少し困ったような表情を浮かべる。

「なぁ、こんな事を聞くのは、いまさらだと思うが……」

「何?」

「澪、おまえは、どうしてクラスにとけ込もうとしない? もう10月だ。入学してから、どれぐらい経ったと思ってるんだ? まるで他人を拒絶しているみたいだ」

「あら、心外ね。少なくとも私は、航を拒絶したりなんてしないわ」

「そうじゃない。俺以外の他人を拒絶してるように見えると言ってるんだ」

「あたりまえよ。私は、航以外の他人には、興味がないの」

澪は、しれっと冷静な表情でそう言ってのけた。航は、複雑な表情を浮かべると困った様子で再び問いかけた。

「それは、なんだ? 告白なのか?」

「勘違いしないでよ。私は、航を人間としてみてるだけ。それ以上でも以下でもないわ」

「なんだ。それは? じゃあ、俺以外の他人は、人間以下だとでも言うのか?」

「そうね。例えるなら、猿以下の存在」

澪がキッパリっとそう言うと、航は、呆れた表情でため息をついた。

「お前は、凄い。凄い奴だ。いまさらのように実感したよ」

「そう? ありがと」

澪は、ニコリと笑みを浮かべて答える。

「航、私は、あなたを人間として見てるわ。人間として見ているから、私とは、対等なの。あなたは、もっと自分を誇るべきだわ」

「それは、……誇るべき事なのか?」

航が呆然と聞き返すと、澪は、右手の人差し指を自分の口に接触させると、そのまま航の頬にプスリと突き刺した。

「痛っ!! いたた。何するんだ!?」

「少し、急がないと遅刻しそうだわ」

澪は、抗議をあげる航を無視するようにそう言って、横をすり抜け、航の前を歩きだした。航は、そんな澪を見て呆れながらも、そそくさと、彼女の後を追いかけるのだった。

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