そう簡単に無双なんてできるわけがない

「チラリとか口に出して小声でいってみたり……」


 図書館につくと、入り口で足止めを食らってるさっきのゴブリンが2匹と、一回り大きなゴブリンが1匹いる。あいつがリーダーか?


「さすがに3匹はどうにかなる気がしねえな」


 こちらのことはバレてないようで、入口の扉に雄叫びを上げたり、蹴りを入れたりしている。


「どうするかなぁ――って、何してんだアイツ!?」


 思わず叫んでしまった。その瞬間に、ひとり剣を持った男が奥の、俺がいる場所とは反対側の建物から現れて、小さいゴブリンに一太刀入れた。

 しかし、ゴブリンもそこまでもろくなく、さらに残り2匹もその男の方を向くのは、至極当然のことだ。

 俺は、とっさに体が動いて、もう1匹のゴブリンを斧で叩きつけていた。この表現は正しく、刃ではなく横っ腹で頭を横から叩きつけた。


「ブゴォッ!?」


 その物理打撃を食らったゴブリンは立ち待ち吹き飛んでくれた。


「おい、何をしている! そんな装備で!」


 男の方はそんな声を俺に、かけつつゴブリンの攻撃を避けている。一方のでかいゴブリンはなぜか俺の方に狙いを定めてきたようだ。


「やっべ――」


 お世辞にも綺麗とはいえない横っ飛びでその攻撃を躱す。近くに来てよく見れば、でかいのが持ってるのは鉈みたいな刃物じゃなくて、完全な石鎚だった。

 横薙に当たれば骨が折れて、縦振りに当たろうものなら、頭がかち割れて、最悪潰されるのが容易に想像できる。


「くそっ……! 逃げろ!」


 剣士は俺にそう叫ぶ。なら助けてくれよと目を向けたが、気づけば俺が吹き飛ばしたゴブリンも起きて、2人がかりで剣士を襲っていた。


「やばいやばいやばい! ……って、まて、なんでんなときに」


 横っ飛びした場所に、瓦礫や様々なものがあった。そして運が悪すぎることに、上の服、というかアロハシャツの一部が挟まって、動きが一瞬遅れた。その一瞬はでかく、俺の頭に石鎚が――


「あたら……ない?」


 思わず目をつぶっちまったが、目を開けると俺の頭上には何もなかった。

 そして目の前では――3体の人形がでかいゴブリンを襲っていた。


「まったく、無茶するなって話よ」

「お、おう……」


 そして、少しの時間差で彼女が表れた。魔法つかいの彼女が。


「ほら、早く立って」

「すまん、助かった」

「オーガゴブリンなんて、あんたみたいな装備がひとりで太刀打ちできるわけ無いでしょうが」

「やっぱり、あいつらゴブリンなのか?」

「そうよ。小さいのがゴブリン。大きいのがオーガゴブリン。魔族の一種で、自分より上の同種族がいると統率力を見せるけど、単体だとただの馬鹿よ」

「つまり、でけえのをやればいいってことか」

「そういうことよ」


 彼女はそう言って、手をかざす。すると人形の1体――ランスを持った人形が、その武器をオーガゴブリンの武器を持つ手に突き刺した。


「ガァァァアァア!!」


 悲痛な叫びを上げて、オーガゴブリンは武器を落とす。


「グオオオオオオ!!」


 そして、怒りだしたオーガゴブリンはそのでかい反対の手で人形に殴りかかった。あの大きさじゃ、あたったらひとたまりもない。


「そんな心配な目でみないでいいわよ」


 だが、彼女は涼しい顔をして、指を動かす。すると盾をもった人形が前に出て、その攻撃を弾いた。

 その後は、彼女の優勢のままに戦いが進んでいき、途中でゴブリンを倒して剣士が乱入して、オーガゴブリンは地に伏した。


「ふぅ……」

「魔女…………ふんっ。今回は世話になったな」


 剣士は改めて彼女の近くに来ると、吐き捨てるようにそういった。


「外からきてる奴でもああなのか」

「あいつに関してはもともと反りが合わないのよ」


 どこかの超人気マンガの王子みたいだなとか少し思ってしまった。


「それで――」

「グゥゥ」


 なにか声が聞こえた。


「ちょっと、聞いてる?」

「えっ、あ、あぁ。すまん、何だ?」

「だから、図書館の中が避難所になってるみたいだから、壁から登って――」


 今度ははっきりとらえた。オーガゴブリンはまだ生きていた。剣士はたしかにとどめをさしたはずだったが、俺だってそう思った。だが――生きていた。


「あぶねえ!」

「ちょっと、何よ!?」


 俺にできることなんて限られていた。彼女を吹き飛ばして、あいつの拳を受けるってことだけだ。


「――っぁ!!」


 見事に入った。顔じゃないから首は折れない。窒息じゃ死なないだろう。ただ、腹に入った。そのまま吹き飛んで硬いものに叩きつけられた。

 強すぎる衝撃で呼吸ができなくなった。


「……っぁ……」


 肺がどうにかなってなきゃ、昔跳び箱で背中うった時と同じで吸えるようになるはずなのに、異様に怖い。

 やばいやばい、汗が止まらない。


「ブグゥ……」


 オーガゴブリンはそのまま息絶えた。最後の一撃ってやつだったらしい。


「何やってんのよ! なんで、アタシのことなんか」

「ぁ……」


 彼女が駆け寄ってきた。やばい、どうすっかなこれ。


「大丈夫! ねえ、大丈夫なの!?」

「……――っはああ!!」


 セーフ!


「はぁ……はぁ……ギリギリ大丈夫だ」


 俺はなるべく笑顔でサムズアップしてそう答えた。

 背中も腹もめちゃくちゃいてえけどな。


「もう……心配かけんな!」

「いでえ!!」


 しかし、なんだ。こんなに心配してくれるとは思わなかったとか、場に合わないことを考えてしまうな。


「早く、おわしてかえるわよ」

「へぇっ?」

「帰って治療すんの!」

「……おう」


 なんとなく、痛みはひどいが心地よかった。

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