町のしがらみと司書

 町にたどり着くと、西洋風だが、綺麗な白い石造りの町にたどり着いた。やっぱり、異世界なんだなと再認識するのは電気などの機械のようなものは、一切見当たらないってことだな。

 あと、若干視線を感じた。それは俺に向けられたものじゃないが、近くにいるから少しは感じ取れる。嫌悪・恐怖とかそういう類の視線で、その先には彼女がいる。


 あれ、そういえば未だに名前教えてもらってないな……名前呼ばなくても実際会話って成立するから、たまにあるあるだよなこれ。

 まあ、ただ彼女自身は気にしないのかそれとも無視決め込んでるだけなのか進んでいくから、触れないでおこう。それにもう図書館ついたしな。


 そこにあったのは外見だと3階ほどありそうな大きさの建物だった。


「こんにちは」

「いらっしゃい。珍しいわね、こっちまででてくるなんて」

「宅配させる時間も惜しかったのよ。勇者についての文献ってどこらへんにあるかしら?」


 司書さんとは仲よさげだし、嫌悪な感じはない。


「2階の5列目と6列目がその手の話よ。ただ色んな神話とか民間伝承も混ざってるから、その中のどれかまでは私もわからないわね」

「大丈夫よ。ありがとう……ランサーはまあ、しばらく好きにしてなさい」

「はっ!?」


 俺の驚きをよそに上へ上がっていってしまった。


「…………」

「…………ふふっ」


 その場には、カウンターにいる司書のお姉さんと俺だけになった。


「え、えっと。どうも」

「はじめましてね」

「う、うっす」

「旅の人かしら?」

「あ、えっと。多分、そんな感じ」

「そうなの……あの子とは仲良いの?」

「いや、あって数日だからよくわかんねえけど、なんか気になることがあるっていわれても、ちょっと一緒にいる」

「そうなの。まあ、仲良くしてあげて」


 司書さんは笑顔でそういった。一体どういう意味なんだろうか――いや、くるまでの視線が関係しそうってなんとなく想像ついちまうな。

 まあ、俺が踏み込んでいいわけでもないだろう。


「まあ、図書館の本は自由につかっていいわよ。汚さなければ」

「はあ……」


 なんかこのまま話していても、いじられる気がした。本能がそういった。

 俺は適当に1階の棚を眺めることにする。


「農業……あぁ、そうか。科学がねえから工具の一部も農具扱いになっちゃってんのか。えっと、なになに、それで一番オーソドックスな植物は――」


 本を読み始めて1時間。思ったより読み込み始めてしまっていたようだ。この1時間も実際はただの体感で、時計をまだこの世界でみたことがないから詳しくはわからない。よく言うだろ。思ったよりも時間が立っていたとか――そういうのがあるから正しい自信はねえ。


 まあ、話を戻して、じゃあなんでその時に俺が本から集中がそれたかっつう話だ。それは――


「ん?」


 足をトントンと叩かれて、そっちを向いたら、彼女の家にあった人形がいた。そんで上を指差してたからそっち見ると、彼女が上で手招きをしてきていた。

 俺は本を棚に戻して、2階へと移動する。歩けば歩くほど、冊数がすげえって思うぜ。科学の論文とかはねえはずなのに、現代と同じぐらい本があるぜ。


「なんだよ?」

「ちょっと、こっちきなさい」


 図書館に設置されてる机の上に誘われて隣りに座る。しかし、人が他にほぼいないせいで、どこぞのすごい特徴的な角度をよくだすアニメ会社の演出じゃないかってくらい、棚に囲まれた中の机って図になってるなここ――っと、そんなこと考えてる場合じゃねえか。


「ほら、ここにあるでしょ。勇者召喚伝説っていうの」

「……たしかにあんな」


 そこにはよくあるその昔、大魔王を異世界からやってきた勇者が倒して世界に平穏がもたらされたなんて感じの話が書いてある。

 ただ、勇者は複数人かかれている。


「数人勇者が召喚されているのよ」

「そうだな」

「それで他にも探したけど、異世界からの勇者召喚で複数人という伝説は見当たらないわ」

「そうなんか。でも、それがどうなるんだ?」

「ひとりの勇者を召喚して、魔法自体は成功したのに、その場には現れなかったら普通騒ぎになるでしょ?」

「まあ、そうなるな……」

「でもそれが複数人ならひとりぐらいは事故とか考える可能性があるのよ。大国であればあるほど、過信する王がおおいから」

「それ偏見じゃねえか?」

「……まあそうかもしれないけど、今時、王宮にいる魔術師なんてそんなものよ。自分より上をみない環境において、自分を上に置いて」

「魔術師?」

「……まあ、そういうところは後で説明するわ。とにかく、あなたは召喚の途中で、場所がずれてアタシの家に来たかもしれないってことよ……それで、てっとりばやい確認方法が」


 そういって、ページをめくるとそこには、いくつかの紋章が書かれていた。


「このいずれかの紋章が体に浮かび上がるなら、勇者らしいのよ。というわけで――」

 彼女はおもむろに俺の上半身――それも素肌の部分をその手で触りだした。

「な、なにすんだ!?」

「魔力に反応するらしいから、ちょっと動かないで」


 とりあえず上半身をすみずみまで触られた最後に、首元で何かが反応した。


「これは……えっと、紋章としては登録されてるけど、実績がかかれてないわね」

「なんだ? つまり……」

「あなたは勇者だったってわけね。それで、あの鍬は勇者の武具」

「鍬が武器の勇者なんて聞いたことねえぞ」

「だからでしょうね。伝承の中に大きな実績がないわ……あなたは、その」


 言いにくそうにしながら、手を離す。俺は服を整えて、


「もうそこまでいったなら教えてくれよ。気になるぜ?」

「農具の勇者ね」

「……は?」

「正確には農鉱具って書いてあるけど」

「んな馬鹿な」


 もはや武器でもなんでもないじゃねえか。


「でも、すっきりしたわ。これで後腐れも何もなくなる」

「一体何の話だよ」


 彼女は積んでいた本などを片付け始めながら、俺に何枚かの銀貨を渡してくる。


「ちょっと、これで買い物してきてくれる? 果物、なんでもいいから」

「……片付け手伝ってふたりでいったほうがいいんじゃねえのか?」

「同時にやったほうが、効率いいでしょ」


 なんか楽しそうだし邪魔するのもあれか。

 俺はしたがって、図書館からでた。そこで、気づく――市場どっちにあるんだ?


「おこまりですか?」


 後ろから話しかけられて思わず飛び上がって、距離をとってしまう。


「うおっ!?」

「後ろから失礼します」

「えっと、司書の――」

「ミラエともうします」

「ミラエさん……ですか」

「何かお困りですか?」

「えっと、市場の場所がわからないもので」

「それならご一緒に行きませんか? 私もお昼を買いに行くところなので」

「……じゃあ、お願いしますかね」


 なんとなく敬語になってしまう雰囲気があった。

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